都市伝説探偵 イチ ~言霊町あやかし通り~

菱沼あゆ

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暁の静 漆黒の乃ノ子 ~大正時代編~

私の夫となる人は……

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 しばらくして、静は壱とその屋台の主人と三人で、蕎麦を啜っていた。

「美味いっ」
と三人で最後の汁まで飲み干した丼を置く。

「はあ、そうですかねえ。
 私はいまいち納得できなくて」
と屋台の主人である若者が丼を受け取りながら言う。

 イチたちが引いていた方ではない、あかりなし蕎麦の屋台の主人だ。

「……これで納得できねえんなら、わしも屋台はできねえな」
と依頼主の主人が言う。

 あかりなし蕎麦の正体は、いまいち味に自信が持てない屋台の店主だった。

 自信がないので、あんまり人が来ない方がいいと思って、灯りもつけずに屋台を出していたらしい。

 しかも、接客も苦手なので、客が来たら、つい逃げてしまうこともあったとか。

「だったら、まだ屋台出さなきゃいいじゃないですか」
と苦笑いして静は言ったが、

「いや~、ちょっと人に慣れようかと」
と言って店主は、ははは……と笑う。

「じゃあ、わしが接客手伝ってやるよ。
 その代わり、わしの店の出汁だしの味もちょっと見てくれ」

「え? いいんですか?」
と二人仲良く話し始める。

「あやかしじゃなかったか……」
と呟くイチとともに、静は二人と別れ、帰ることにした。




 ガス灯に照らし出された夜道を歩きながら、静は言う。

「そうだ。
 今度、結婚相手と会うことになったんですよ」

「結婚するのに、まだ顔も見たことないってどうなんだ」

 まあ、頑張れ、と壱に言われ、

 ……なにを頑張るんですかね、と静は思った。

 相手に逃げ出されないようにだろうかな。

 でも……、向こうがこの縁談から逃げて断ってくれたらな、とは思っている。

「結婚とか。
 まだよくわからないんですけどね」

 静はそう呟くように言ったが、壱は、

「そんなの誰しもわからないままするもんだろ」
と素っ気なく言う。

「そういえば、壱さんって、前世の記憶があるんですよね?
 結婚してたことあるんですか?」

「……さあ。
 あるようなないような」
と壱は適当な返事をしてきた。

 最近、急速に増えてきた気がする自動車がこんな時間でも行き交っている。

 けたたましい音を立てて走る自動車を振り返り、壱が言っていた。

「江戸もうるさくなったな」

 いや、江戸、もうずいぶん前なんで……。

 はは……と笑いながら、静は白い息を吐く。

「相手の人が断ってくれればいいんですけどね」

「いや……、きっと断らないさ」

 なんでです? と振り向いたが、壱は、
「ほら、家に着いたぞ。
 とっとと入れ」
と電気の灯りが煌々こうこうとついた屋敷の門に静を追いやろうとする。

 何処からか窺っていたのか、すぐに玄関扉が開き、じいやが出てきた。

「またな。
 おやすみ、シズ」

 ……私の夫となる人は、私を『静』と呼ぶのでしょうか。

 でもなんだが。

 一生、壱さんの呼ぶ、『シズ』って呼び方が頭に残りそうな……

 そんな気がしてるんです……と思いながら静は、去っていく壱の後ろ姿を見送った。


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