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なんだかんだで、目が覚めたら……
ほんとうはポンコツなんです
私はできる女
……と人が言う。
「楓くんっ、これ、訂正が入ったよっ」
「おまかせください。
あと二分ですね。間に合います」
「ほんとうかねっ。
さすがは楓くんだねっ」
「楓さん~っ、このソフト動きませんっ」
「大丈夫よ。
これ、もともとマニュアル通りに動かないやつだから」
「楓さん、神ですっ」
私はできる女
……と人が言う。
「楓くんっ、これ、訂正が入ったよっ」
「おまかせください。
あと二分ですね。間に合います」
――打ち直すの、手が震えなければですよ……?
「楓さん~っ、このソフト動きませんっ」
「大丈夫よ。
これ、もともとマニュアル通りに動かないやつだから」
――つまり、何時間やっても動かないときもあるんだよ~っ。
「楓さん、神ですっ」
「……付き合うから、動くまで」
私はできる女
……と人が言ってるだけのポンコツです。
周りの評価が高すぎて、頑張ってそれに合わせてるだけのポンコツなんです。
「楓さん、美人だし、スタイルいいし。
仕事もできるし、やさしいしっ。
ほんと神ですっ」
いや、スタイルよく見せるために履いてるヒール痛いし。
スカートはウエストぴったりしすぎてて、ご飯食べたら、密かに少しゆるめとかないと座れないし……。
「神ですっ」
「……ありがとう。
じゃ、急いでやろうか……」
「後輩可愛いし、上司にも頼りにされてるし。
仕事もやりがいあるし。
でも……、
でも、ときどき、このまま、ここにパタッと倒れて寝たいと思うのよ」
トイレで化粧直しをしながら、楓日子がそうもらすと、同期の中村羽根が、
「いいよ、倒れなよ、このトイレの床で」
と笑って言ってくる。
「いや~、最近、遊びに行く時間もないしさ~。
家で寝る前にちょっとゲームやるのが息抜きだったんだけど。
それすらも、職場のパソコン以外で目使うのやだなって思っちゃって、やってないしさー」
と日子が愚痴ると、羽根は、はははは、と笑い、
「あんたって見た目華やかで、仕事も実績あげてるし、上手く職場ってものを乗りこなしてるように見えるけど。
あんたみたいなのもある意味、社畜よね」
と言いながら、ポーチに口紅を放り込む。
「今度、早く上がれそうな日に呑みに行こうよ。
お疲れっ」
と言って、羽根はトイレを出て行った。
いいなあ、羽根はいつも生き方が軽やかで、と思いながら、日子は羽根を見送る。
プライベートもそこそこ時間とれて充実してそう。
私は元来不器用だしな~。
時間の使い方、要領が悪いのかも。
日々のルーティンの何処かを見直すべきなのか……。
とりあえず、時間のある日は気分転換に遊びに行ってみようっ、と覚悟を決めた日子は、なんとか時間を作って遊びに行き、憂さを晴らした
はずだった……。
呑んで帰って、そのままの勢いでゲームやったのかなあと最初は思った。
だが、つけっぱなしだったVRゲームの画面。
終了させようとしてよく見ると、一位から十位まで、全部自分の名前だったはずなのに。
一位に見知らぬ男の名前が君臨している。
実はこれ、オンラインゲームだったとか?
と床に投げてあったガンシューティングゲームのパッケージを思わず見る。
そもそもオンラインゲームじゃないし、今、ネットにつながってもいない。
シゲタカって誰だ……。
酔って出てきた私のもうひとつの人格だろうか、と日子は阿呆なことを考える。
だが、そこに出ているスコアはとても自分では出せそうにないものだった。
自分もそこそこ強いと思っているが、これはまた桁違いだ。
……泥棒だろうか。
だが、私の記録も更新されている。
泥棒なら、泥棒と楽しくゲームのスコアを競ったことになってしまう。
いや、泥棒だったとしても、
すごいスコアだ。
……ガンシューティングだよね、これ。
誰だかわからないが、この男、敵に回したら、殺される気がする……と寝不足の目に眩しい朝の光の中、日子はゲームの画面を見つめていた。
「泥棒とゲームね。
酔ったあんたなら、幽霊とだって陽気に対戦してそうだけど。
私、途中で帰っちゃったからな~」
そう言った羽根は社食で後ろの席にいた後輩の西森裕子を振り向き、訊いてくれる。
「ゆーちゃん、知ってる? 日子が最後に誰と呑んでたか」
「知りません。
私、途中で消えたんで。
確か、星野さんが付き合ってましたよ、最後まで」
と裕子は日子の同期の名前を上げる。
そういえば、星野、途中から来たっけな……と日子が思ったとき、羽根が言った。
「そのゲームの男、星野じゃないの?」
「待って。
星野の名前、丈太郎じゃなかった?
シゲタカってなによ。
ミドルネーム?」
星野・シゲタカ・丈太郎とか、と日子が言うと、羽根が、
「いや、あいつ、なに人よ?」
と言う。
「羽根が言ったんじゃん、星野じゃないのって~っ」
「オンラインゲーム用の名前とか?」
「普通、そういうのだったら、ルシファーとかパパイヤとかつけない?」
「誰よ、そんな名前つけるの」
「うちの弟、ルシファー。
従兄はベルゼブブ」
「……どんな身内よ」
と羽根は言ったあとで、
「いや、待って。
今、ゲームの話じゃないのよ。
だって、星野、あんたに気があるもん。
介抱するフリして送ってったんじゃないの?」
と言い出す。
「でも、それなら、なにもせずにゲームだけして帰りますかね?
楓さん、スーツ着たまま行き倒れて寝てたんですよね?」
「だって、日子だもん」
「そうですね。
楓さんですもんね。
そんな雰囲気にならないですよね」
とふたりは勝手に納得し合う。
「そんなことより」
と言う羽根に、あ、この話題投げ捨てられた……と思う日子を羽根が急かす。
「あんた、このあと、この間の件で、代理店の人が来るんでしょ?
早くしなさいよ」
「えっ?
もしかして、沙知見さんも来ますっ?」
と裕子が身を乗り出す。
「やだっ、私も同席したいですっ」
「いや、あんた、総務でしょうが」
関係ないじゃん、と羽根は言うが、裕子は、
「私、沙知見さんみたいなクールなイケメン、大好物なんですっ」
と祈るように手を合わせて言ってきた。
「……いや、見た目はそうかもなんだけど。
一度、一緒に仕事したら、二度とそんな言葉、出ないと思うよ」
日子は片付けに立ち上がりながら、そう呟くように小さく言った。
耳聡い沙知見がどこかで聞いていそうな気がしたからだ。
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