昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

文字の大きさ
2 / 63
なんだかんだで、目が覚めたら……

敵に回られると、こんな恐ろしい人はいない

 

「は?
 俺じゃねえよ。

 俺、お前のマンションの下までしか送ってねーから」

 日子たちは社食を出たあと、自動販売機の前で、バッタリ星野と出会った。

 日子が語るまでもなく、羽根が全部話して、送ってってゲームやったのはあんたじゃないのかと星野を問い詰めたのだ。

 違うという星野に、何故か羽根が呆れてキレる。

「いや、なんで、そこで部屋まで行かないのよっ、あんたは~っ」

 すると、裕子は、
「じゃあ、楓さんとゲームやったのは、泥棒か幽霊で確定ですね~」
と笑い、

「そんな楓さんが心配なので、私、会議室まで送ります~っ」
と言って、日子についてこようとした。

「待ったっ」
と羽根が裕子の首根っこをつかむ。

「あんたは沙知見さん目当てでしょうがっ。
 じゃあね、日子。
 早く行きなよ」
と裕子を引きずり、羽根は去っていった。

 

 今日も沙知見さんに締め上げられてしまった。

 あの人、敵でなければ、心強い有能な人なんだろうが。
 敵に回られると、こんな恐ろしい人はいないからな……と思いながら、日子はトボトボ、マンションに帰っていた。

 いつかたまたま利害関係が一致し、共闘を組んだときは、こんなに頼りになる人はいないと思ったものだが。

 常日頃は敵なので、その鋭い言葉の矢を全身に浴びるばかり。
 もっとも会いたくない人間のひとりだった。

 ほどほどの高さのマンションの上にちょうど、ぽっかり月が浮かび、前庭の植栽から虫の音が聞こえてくる。

 ……あ、ちょっと和んだ、と日子が思ったとき、

「お帰り」
と下の方から声がした。

 玄関付近に草むしりをしているマンションの警備員がいる。

 日子に気づき、声をかけてきたらしい。

 日子はその長身でガタイのいい、濃い顔のイケメン警備員に笑顔で挨拶する。

東城とうじょう先輩。
 ただいま帰りました。

 ……草むしりも警備員の仕事なんですか?」
と日子が訊くと、東城は、いや、と言い、立ち上がる。

「単に暇だったから」

 すっと東城が立ち上がると、その顔や体格や姿勢のせいか。
 要人警護をしている人のように見えて。

 これから、なにかすごい事件が起こるのでは、とつい、周囲を窺ってしまいそうになる。

 東城は高校のときの先輩なのだが。
 なんだかんだで、今、ここにいる。

「先輩、防犯カメラって見ることできますか?」

「なにかあったのか?
 ストーカーか」

 いや、何故、ストーカー限定、と思いながら、日子は言った。

「……このマンション、泥棒入ることありますかね?」

「立場上、ない、と言いたいところだが、不可能ではないな。
 どうやったら侵入できるか教えようか」
と言われ、いえ、結構です……と日子は答える。

「泥棒が入ったのか?
 なにかなくなってるものでもあるのか?」

「いや~、特にないんですけど。
 誰か知らない人が、酔って帰った私と一緒に部屋でゲームをしてたみたいなんですよ」

「……それは単にお前が男を連れ込んだという話では?」

 いや、女なのか? と問われ、
「わからないです。
 ゲームにはシゲタカって登録してありましたけど。

 女性かもしれませんよね。
 ハゲタカの打ち間違いかもしれませんし」
と言うと、

「……何故、ハゲタカ」
と呟いたあとで、東城が言う。

「なんだかわからんが。
 泥棒かもしれないってことで、訊いてみてやろう」

 東城がすぐに警備会社に連絡してくれ、マンション入り口とロビーの監視カメラの映像を見せてくれたが。

 カメラには普通に帰ってきて、ひとりエレベーターに乗って上がっていく日子しか映っていなかった。



 しばらく映像を見ていると、家族連れがエントランスに現れ、日子と同じエレベーターに乗り、上がっていった。

「この家族連れとゲームをしたとか?」
「一家全員の名前があったのか?」

「……いえ」

 だが、実際のところ、このマンションの中の人間の可能性が高い。

「仲のいいご近所さんとかとやったんじゃないのか?」

「仲がいいのは、お隣の老夫婦くらいです。
 私、まだ引っ越してきて間もないですし。

 ……ありがとうございました」
と頭を下げ、日子は監視カメラに映っていたのと同じエレベーターに乗り、自宅のあるフロアに戻る。

 そう。
 『仲がいい』のは、お隣の老夫婦。

 部屋の鍵を開けようとして、少し迷い、日子は廊下を挟んで向かいの部屋のチャイムを鳴らしてみた。

 いないといいな、と鳴らしておいて思いながら。

 だが、
「はい」
とすぐに返事がある。

「あ、あのー、たいした用事じゃないので、インターフォン越しで結構です。
 沙知見さん。

 下のお名前、なんでしたっけ?」
 
 インターフォン越しで結構ですと言ったのに、沙知見はドアを開け、出てきた。

誠孝しげたかだ。
 書いてあるだろ、いつも書類に」

 裕子たちがクールなイケメンだと騒ぐ端正なその顔を覗け、仕事中と変わらぬ冷徹さで、そう言ってくる。

 ……いや、読み方までわからないじゃないですか。

 ねえ?
と日子は、『沙知見誠孝』を見た。

 腕組みし、自分を見下みくだすように見て誠孝は言う。

「なんだ。
 ぶっちぎりにゲームで負けた腹いせにやって来たのか。

 さっきは素知らぬ顔をしていたくせに」

「……いや、あなたもじゃないですか」
と言いながら、日子は思っていた。

 シゲタカの正体、

 泥棒よりハゲタカより、タチが悪かったようだ……、と。



感想 1

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

親愛なる後輩くん

さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」 雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。 同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。 さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?