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なんだかんだで、目が覚めたら……
ああ、心臓が痛い
「スダチお好きなんですよね?
またいただけるみたいなんで、今度、お持ちしますね」
夕食をとったあと、誠孝はダイニングテーブルでノートパソコンを広げ、仕事のつづきをしていたが。
つい、何度も日子の言葉を思い出してしまう。
なんとなく、ネットでスダチの収穫時期について調べてしまった。
スダチの旬、夏じゃないかっ。
夏まであいつは来ないのかっ?
と一瞬、思ってしまったが、よく考えたら、春なのに、たくさんもらっていたようだから。
そもそもハウス栽培かなにかのスダチなのだろう。
……なんか、あいつと関わると、自分が莫迦になってく気がするな。
仕事のときには、気持ちいいくらい頭が冴えていてるのに。
この間から、楓日子を前にすると、思考に霞がかかったみたいになる。
普段やらないような阿呆なことをやったり考えたりしてしまったり。
あいつには積極的に関わらないのが得策だな、と思いながら、誠孝はネットを遮断し、仕事に戻った。
「最近、面白いことないんですよね~」
仕事中、日子が死ぬ勢いでパソコンを打っていたら、後ろからそんな呑気な言葉が聞こえてきた。
振り返ると、案の定、配布物を手にした裕子が立っている。
「ゆーちゃん、ここの仕事、やらせてあげようか。
面白いことなんてなくても。
ミスもなく、ペナルティも食らわず、日々、淡々と過ぎていくことが一番素晴らしいってよくわかるから」
いやあ~、結構です~、と笑って裕子は言った。
「新人のときは、毎日、緊張して疲れてたけど。
なにもかも新鮮で楽しかったんですよね。
最近、単調っていうか」
と溜息をついたあとで、
「楓さんのご自宅にうかがってみたいんですけど、いいですか?」
と裕子は言う。
待て。
今、話がどこをどう飛んで、そんなことに……?
フリーズする日子に裕子が言う。
「なんか最近、目標がないっていうか。
楓さん、新しいマンションに引っ越されたんですよね?
いいなあ。
素敵なんでしょうね~。
楓さん、センスいいから。
雑誌みたいな感じのお部屋かなあ」
うっとりと語る裕子は、
「楓さんのおうちに伺って、楓さんとお茶とかしたら、私、元気になれそうな気がします」
と言った。
……あなた、いつも私より元気ですよ。
「楓さんの素敵なおうちを拝見したら。
こんなところに住めるようにお仕事頑張ろうって思える気がするんですよね」
……ゆーちゃん、仕事をやめてしまうかもしれない、
と我が家の惨状を思い出し、日子は怯える。
家どころか、私の人生自体、仕事やめますか、人間やめますかくらいの惨状ですよ。
っていうか、このデスクのひどい有りさまを見て、どうして我が家に夢が抱けるのですか、裕子さん……。
後輩に憧れられたり、慕われたりするのは、嬉しいが。
この過剰な期待には応えられそうにない。
あなたの夢をつぶしてしまいそうなので、申し訳ないから、パスさせてください、と夢見がちに輝く裕子の瞳を見ながら、日子は思っていたが。
「日子のマンション、私も行きたい~」
唐突に、そんな声が降って湧いてきた。
振り返ると、ファイルの棚の前に郁美が立っている。
「そういえば、あんたの新しいマンション見てないわ~。
羽根がすごいいい立地って言ってたけど。
前より広いんだって?
この日曜とかどう?
暇?」
うっ。
郁美さんに言われると断れないっ。
「い、一ヶ月後とかどうですか」
と誠孝に言ったのと同じことを言ってみたのだが。
「別に散らかっててもいいわよ。
想像ついてるから」
と日子のデスクの上を見て、郁美は言う。
いやあの、これ、仕事終わりには片付けてるんですよ……。
時間がなくて、打った端から、横に積み重ねてるから雑然としてるだけで。
「やったあ、郁美さんも一緒っ。
楽しみですっ。
日子さんがお好きなケーキ、持っていきますねっ。
郁美さん、この間行ったカフェのケーキ買っていこうと思うんですけど。
どれがいいですか?
ああっ。
なんか、わくわくしてきましたね~」
無邪気に喜ぶ裕子を見ながら、日子は、
そう?
私はなんだか、ドキドキしてきたんだけど……、
と思いながら、心臓に手をやった。
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