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なんだかんだで、目が覚めたら……
時間がないっ
「西森がお前の家に行くってご機嫌だったが」
昼休み、日子が社食近くの自動販売機で疲れをいやす甘い缶コーヒーを買っていると、星野がそんなことを言ってきた。
「ああ、そうなのよ。
……そうだ。
星野、土曜とか暇?」
と言うと、えっ、と一瞬、星野は詰まる。
「ど、土曜はイベントがあるから、泊まりで出てるんだが」
「なんだ、そっかー。
いや~、なにかおごってあげるから、部屋片付けんの、手伝ってくんないかなーと思ったんだけど。
家具も動かしたいし。
ほら、ゆーちゃんに汚い部屋見せたくないから」
「待て。
俺には見せていいのか」
「いやだって、星野は私の部屋の惨状、想像ついてるでしょうが。
新人さんの夢、壊したくないのよね~」
「それはしょうがないだろ。
お前くらい忙しかったら、部屋も散らかるって」
そう星野は言ってくれるが、
でも、同じような条件でも、沙知見さんちは片付いてるんだよな~、
と日子は思う。
「ありのままに、お前の汚い部屋を見せた方が、西森にも、よくわかっていいんじゃないか?
いいマンションに住めるのは、馬車馬のように働いてるからだって」
うーむ。
人様の口から、汚い部屋と言われると、よりグサッと来るな~、
と思う日子に、星野は言う。
「なにもかも完璧にやろうとすると疲れるぞ」
「そうなんだけどね~。
苦もなくやりそうというか。
嬉々としてやりそうな人を見るとちょっとね」
沙知見さんとか、片付けたり掃除したり、きっちりするの、好きそうだもんな~。
向かい合わせにあんな人が住んでると、余計自分が駄目人間に思えてくるな……。
そんなことを考えながら、ガシャンッと缶コーヒーをもう一本買い、
「あげる、星野。
慰めてくれてありがと」
と渡したが、
「いや、俺、甘いの駄目なんだ……」
と言われてしまった。
「あっ、そうだったね、ごめん。
反射でいつもの買っちゃった」
と言って、日子は買い直そうとしたが、いや、いいっ、と慌てたように言われる。
「この方がいいから。
サンキュー。
片付け、ほどほどに頑張れよ」
と言って星野は行ってしまった。
……この方がいいからってなんだ?
と思いながら、日子は手を振り見送った。
余計なことを言ってしまった……。
星野は足早に部署へと向かっていた。
日子に買ってもらったコーヒーか、とつい、笑みがこぼれる。
ぎゅっと缶コーヒーを握ったとき、気がついた。
しまったっ。
土曜は忙しいけど、他の日なら空いてると言えばよかったのではっ。
星野は慌てて振り返ったが、日子の姿はもうなかった。
「星野さん、お疲れです~」
と後輩に声をかけられ、
「お疲れ」
と返しながら、星野は自分の部署に入る。
飲むことのない甘い缶コーヒーをデスクの上にそっと置いた。
「あげる、星野。
慰めてくれてありがと」
そう言い笑った日子の顔を思い出しながら。
星野は一日、日子に言われた言葉を思い出し、ほっこりしていたが。
当の日子は、なにも、ほっこりしてはいなかった。
やばい~。
まずい~。
もう今日という日が終わろうとしている~っ。
今から、片付ける気力なんてないよ~と青ざめた顔で、日子はマンションに戻った。
「お疲れです~」
とマンション入り口に立っていた東城に言って、
「どうした、日子。
道でゾンビに出会ったような顔をして」
と言われる。
……いや、先輩。
なかなか日本の夜道でゾンビに会うことないでしょうよ。
待てよ。
そういえば、この人、高校のときからパニック映画が好きだったな、と思い出しながら、日子は訊いてみた。
「先輩、どうしたら、部屋って、さっと片付けられるようになるんでしょうね」
「そういうことは片付けられる人間に訊け」
……この人も私と同じ人種だったか。
「ありがとうございます。
お疲れで~す」
日子は、昔、部室棟周辺で出会っていたときと同じ感じに挨拶して、エントランスホールを通り過ぎた。
冷蔵庫にあったものをチンして食べ、ラグに、ごろりと転がった日子は、さっきの東城の言葉を思い出していた。
「そういうことは片付けられる人間に訊け」
片付けられる人間、というと、あの人か、と思いながら、寝たまま、日子はラグの上に放り投げてあったスマホを引き寄せる。
うっ。
沙知見さん、電話番号しか入ってないっ。
会社のパソコンにはメールアドレスあるけど。
あれ、職場のアドレスだしな~。
第一、今から職場に戻る気にはなれない。
でも、電話かけるのはハードル高いよな~、と思いながら、日子はスマホを持ったまま、ゴロゴロ、ラグの上を転がっていた。
誠孝が見ていたら、
「その時間に片付けろ~っ」
と叫んでいたことだろうが。
「日曜日に時限爆弾を持っていきますよ~」
目覚まし時計の入った白いケーキの箱を手に、裕子が微笑む夢を見た。
日曜まで時間がない、という思いが、そんな夢を見させたのだろうが。
……だが、当日、時限爆弾持ってくるのはおかしくないだろうか。
私の中では、すでに、ゆーちゃんたち襲来のカウントダウンははじまっているというのに。
夢の中で冷静にそう考えながら、日子は目を覚ました。
どうやらスマホをつかんだまま、ラグの上で寝ていたようだ。
軽くくしゃみをし、スマホを見つめる。
いつもと違う時間に目覚ましをかけると、今度はベッドに入って寝た。
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