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完璧だったはずの男
分かり合えるところと分かり合えないところ
二度目の訪問だが、緊張するな、と思いながら、日子は誠孝の部屋の前に立っていた。
さっきからインターフォンを鳴らす勇気がなくて、ずっとここにいるのだが。
今日は誠孝が、何故入ってこないんだと言ってドアを開けてくることはなかった。
乾き物と、いただきものの小瓶だが美味しい日本酒と、さっき買った弁当を手に、日子はインターフォンを見つめていた。
これって、あれじゃない?
子どもの頃、それまでそんなに親しくなかったのに。
たまたま誕生日の頃、仲良くなって。
お誕生日会においでよって誘われて。
うわ~、このおうち、初めてきたんだけどっ。
っていうか、最近、口ききはじめたばかりで、あの子の周りの子もよく知らないし。
家族や兄弟とも顔合わせたことないし。
緊張しちゃうよ~って震えながら、プレゼント持って玄関前に立ってる、みたいな?
と思ったとき、ようやくドアが開いた。
誠孝が、
「お前はこっちからドアを開けないと入ってこれないのか。
呪いか。
それとも、俺をドアを開けてくれる使用人かなにかだと思っているのか」
と言ってくる。
滅相もございません、あなた様を使用人などとっ、と思いながら、日子はペコペコする。
「み、貢ぎ物でございますっ」
と乾き物と酒を差し出した。
日子に十分後、と言ってしまったので、誠孝は急いで食事の準備をしていた。
もっと遅い時間に設定すればよかったのだが。
何故か、口から勝手に、十分後、という言葉が出てしまっていた。
日子の弁当が冷めると思ったせいだろうか。
それとも……と思いながら、支度を整え待ったが、日子はやってこない。
そろそろ十分後だな、と思い、インターフォンのカメラで外を見ると、日子は乾き物と酒瓶と弁当を抱え、ぼうっと廊下に突っ立っていた。
だから、ストーカーか、とちょっと笑いそうになる。
「氷の女王様って感じですよね~」
日子にやりこめられながらも、ちょっと憧れを含んだ口調で日子のことをそう語っていた後輩を思い出していた。
確かに、会議で対峙する日子は、高圧的な女王様といった雰囲気だ。
日子に言わせれば、
「いや、そっちがこっちの足元をすくおうとするからじゃないですか~っ」
というところなのかもしれないが。
だが、今、その日子は酒瓶を手に、ぼうっとしたり、ウロウロしたりしている。
思わず、吹き出してしまった。
が、廊下を歩き、ドアを開けるまでに、気を引き締め直し、誠孝は仕事中と変わらぬ表情で日子に言った。
「お前はこちらからドアを開けないと入ってこれないのか。
それとも、俺をドアを開けてくれる使用人かなにかだと思っているのか」
「このお味噌汁、ダシが効いてますね~。
この煮物もおいしいです」
コンビニ弁当だけでは栄養が偏るだろうと、自分の夕食用に作っていた煮物を日子にもよそってやった。
「ほら、これも食べろ」
焼き上がったばかりで、じゅうじゅう音を立てているブリカマの塩焼きに大根おろしをそえて、日子に出す。
「えっ?
いやそんな、大丈夫ですっ。
沙知見さんの分がなくなりますよ」
「いや、多めに買ってあったから大丈夫だ。
ブリカマは嫌いか」
「大好きですっ」
日本酒とブリカマでご機嫌になった日子は、食後、乾き物をツマミに呑んでいた。
「この間、帰ったとき、すっごい疲れてて。
一階のダイヤル式の郵便受けを家の鍵で開けようとしちゃったんですよね~」
「ちょっとわかる」
と言うと、
「ですよねっ?」
と言った日子は、ザラザラッとミックスナッツを皿の上に出し、
「あ、これ、節分も入ってますね」
と言って笑う。
日子の指先が示す場所には大豆が転がっていた。
「……そこはわからない」
と誠孝は呟いた。
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