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完璧だったはずの男
俺が勝ったら――
「本日もご馳走になってしまって」
と言いながら、日子はキッチンのお片づけを手伝っていた。
そうだよなー。
こうして日々、きちんと片付けていたら、人が来るからって慌てなくていいんだよなー。
私も、十分後に来て、とか言ってみたい。
妄想の中の自分の部屋は、北欧風の家具やファブリックに、アロマキャンドル。
程いいところに形の良い観葉植物など置かれていて素敵だった。
いや、片付けて飾り付けさえすれば、いつでも、そんな部屋に住めるはずなのだが。
その馬力が日々の疲れとものぐさによりない。
お皿を片付け終わり、日子は鞄を手に頭を下げた。
「ありがとうございました。
今から帰ってお片づけします」
「無駄なことはやめろ」
うっ。
下げた頭の上から浴びせかけられた容赦ない言葉に、日子は固まる。
「土曜、空いてるか?」
空いてるというより、掃除のために空けてますが、と思いながら、日子は、そろっと顔を上げた。
「片付けを手伝ってやろう。
お前ひとりでやるより効率がいいだろ」
「えっ。
そんな恥ずかしいっ」
と日子はまたお片づけの誘いを断ったが。
「お前の散らかった部屋はもう見たと言っただろう。
片付けさせろ。
向かいにジャングルがあると思うだけで、イライラしてくるんだ」
いや、あなたがご存知ないだけで。
他のご近所さんもジャングルかもしれませんよ、と思っていたが、ご近所さんに悪いので、口には出せなかった。
「じゃあ、今からゲームでもするか」
と誠孝は言い出した。
「俺が勝ったら、片付けさせろ」
いやあの、普通、逆じゃないですかね?
お掃除って、どっちかと言えば、罰ゲームでは……?
と思いながら、あまりにも美しく収納されていたので、あるとは気づかなかったゲーム機を誠孝が出してくるのを眺めていた。
「……勝ってしまいました」
おそらく、誠孝は日子がお掃除を断れなくなるように勝負しようと言ったのだろうが。
初めてやった格闘ゲームで日子が勝ってしまった。
ルシファーやベルゼブブが格闘ゲームをやっているのをよく眺めていたせいだろうか……。
「あっ、なに、もう一勝負はじめてるんですかっ」
と勝手にまたはじめる誠孝に日子は言ったが。
誠孝は、いつも通りの冷静な顔で、
「大丈夫だ、これで最後だ。
明日、早いしな」
と言う。
数分後、誠孝は言った。
「大丈夫だ、これで最後だ。
明日、早いしな」
二十分後、誠孝は言った。
「大丈夫だ、これで最後だ。
明日、会社に寄らずに、相手先まで駅から直行するから、大丈夫だ」
「もう寝たらいいと思いますよ……」
「大丈夫だ、これで最後だ。
朝食は、ゼリー系飲料で済ませるから、大丈夫だ」
この人、案の定、負けず嫌いだな。
というか、今、この瞬間、帰って掃除をはじめた方が、沙知見さんの手をわずらわせなくていいのでは……と思いながらも、また倒してしまった。
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