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完璧だったはずの男
苦手な取引先の社長と話すより緊張する
楓日子の母親は日子とはまた全然違う雰囲気の、大柄な造りの美人だった。
日子よりは常識人のようにも見えたが、
「どうしたの、日子。
ジャージなんてあなた持ってたの?
二人で走ってきたの?」
などと不思議なことを訊いてくる。
そんな莫迦な、母よという顔を日子はしていた。
ガラス窓から、さっきの犬にグルグル回られている軽トラがここからもバッチリ見えていたからだ。
……あの犬、こっちに来てくれないだろうかな。
広いリビングでお茶をいただきながら、誠孝は思っていた。
日子の母と向かい合い、お茶を飲む。
それだけのことなのに、何故か、苦手な取引先の社長と話すより緊張していた。
無性にもふもふもしたものに包まれたいっ、
と大きな白いもふもふ犬を見ながら、誠孝は思っていた。
サモエドという種類の犬らしい。
「すごい大型犬に見えるけど、ほとんど毛で、実際はそんなに大きくないんですよ」
と日子が言っていた。
ほとんどがもふもふ。
今の自分にとっては理想的な犬だ、と思いながら、明るい日差しの中、ぐるぐる軽トラの周りを回っている犬を見る。
それにしても綺麗に片付いている家だ。
そのあと、弟のルシファー高道が家の中を案内してくれたが、どこもかしこも綺麗だった。
高道の部屋はもちろん、高道の荷物に占拠されつつあるという日子の部屋も綺麗だった。
きちんと整理整頓された状態で、物が押し込められている。
高道が日子の部屋を片付け、そこに自分の荷物を入れたらしい。
思わず、
「日子さんは、ほんとうに、この家のご家族なんですか?」
と訊いてしまい、日子母に笑われた。
日子が庭に出て、ミカエルと遊ぶと言うので、誠孝はお手洗いを借りたあと、少し遅れて庭に出ることにした。
ミカエルとは、あのもふもふ犬の名だ。
堕天使ルシファーの双子の兄、ミカエル……。
高道くんがつけんだろうな、と誠孝は思った。
トイレを出て玄関に向かい歩いていると、誠孝は高道に呼び止められた。
「沙知見さん」
真面目な顔で高道が言ってくる。
「姉と別れてくれませんか?」
……いや、そもそも付き合ってないんだが。
「あなたのような人と付き合っても、姉は捨てられるに違いありません」
と姉をよく知る弟は言い切った。
「あんな、
『泡立て器ないから、これ使ってもいい?』
と泡立て器を手にやってきたり、
朝起きていきなり、
『今日はピーマンに囲まれた夢を見た』
とか言ってきたりする姉なんて」
いや、君のその姉のとんでも話により、断る男もいるのでは、と思いながらも、
「和んでいいじゃないか」
と誠孝は心にもないことを言った。
姉思いの弟に心配かけたくなかったからだ。
すると、高道は、
「そうですかっ。
ありがとうございます、沙知見さんっ」
と誠孝の手を握ってきた。
……なにがありがとうございます?
と思っている間に、深く頭を下げられる。
「末長く姉をよろしくお願いいたしますっ」
「いや……」
「そうだ。
あとでゲームでもしませんか?
沙知見さん、ゲームとかされますか?」
と機嫌よく話す高道と明るい庭に出る。
せっかく楽しそうなので、水を差すのも悪いかと思い。
楓日子とは、ただのお向かいさんなんです、と言えないまま、誠孝は高道の話に、うんうん、と頷いていた。
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