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完璧だったはずの男
シゲタカとランチ中
しおりを挟む昼休憩。
裕子や羽根たちと社食で楽しく食べていた日子だったが、スマホが鳴ったのに気づいて開けてみた。
……うっ、こんなおいしそうなパスタの写真。
いや、今、食べてる社食のも悪くはないんだが、万人向けなので、そこそこ美味しく、まずくはない、といった感じだった。
日子は、それを食べたら、いっしょに食べている他のものの味がわからなくなるくらい強烈なパスタが好きだった。
今、写真に写っているパスタは、色といい、魚介類までソースで染まっている感じといい、まさにそんなパスタのようだった。
まず、そのインパクトあるパスタの写真が目につき、そのあとで文字が目に入る。
『シゲタカとランチ中。
いいだろう~』
どこのシゲタカだーっ、と日子は小洒落たパスタとグラスしか写っていない写真をガン見する。
このグラスに敵の姿が映り込んでいないかと調べ尽くすスパイのように。
だがそもそも、送ってきているのが、ベルゼブブであり、『シゲタカ』と表記している時点で、沙知見誠孝のことで間違いない気がする。
ど、どこで沙知見さんと出会ったんだ、ベルゼブブ……。
いや、新ちゃん、と画面を見つめていた日子だったが、裕子がじっとこっちを窺っているのに気がついた。
なに? と見返してみたが、裕子は、
「……あとで言います」
とこしょこしょっと言ってきた。
食後、日子は裕子に手招きされ。
ロビー近くで笑って話している羽根や星野たちから、さりげなく離れて、そちらに行った。
「あの東城さんって、前、結構大きい会社にいらっしゃったんじゃないですか?」
「……そうだね」
「それで、学生時代からバスケとか強かったんですよね?」
「うん」
と頷くと、やっぱり、間違いないか、と裕子はちょっと困った顔をする。
「あのー、東城さんのちょっとよくない噂を聞いたんですけど」
さすが、なんにでもアンテナを張っている裕子の情報網、あっという間に東城の過去にたどり着いたようだった。
「おかえり」
遅い時間、マンションに帰ると、東城がそう言い、出迎えてくれた。
日子が笑うと、
「どうした?」
と訊いてくる。
「いえ、東城先輩がそこにいてくれるだけで、なんか落ち着くなって思って」
そう言い、日子は笑った。
日子~っ!
日子が裕子の話を思い出しながらも、東城のおかえりに、ほっこりしていたそのとき。
後方の暗がりには、誠孝が鞄を握りしめ、立っていた。
なんだ、東城がそこにいてくれるだけで、なんか落ち着くってっ。
お前は、俺の前では、いつも落ち着きをなくしているようなんだがっ!?
機嫌悪くなりながらも、正面玄関を避けて裏口から入るのも妙なので。
誠孝は仕方なく、ふたりの話している場所まで行く。
「お疲れ」
と素っ気なく言った。
すると、ふたりは自分を振り向き、
「あっ、沙知見さんっ、おかえりなさいっ」
「沙知見さん、今日もお疲れ様ですっ」
とすごい笑顔で言ってくる。
……くっ。
腹を立てていたはずなのにっ。
朝出かける前、飼っている仔犬がイタズラをしたので叱って出たが。
家に帰った瞬間、その仔犬が激しく尻尾を振りながら、
おかえり~っ、というように飛びついてきたので、やっぱり可愛くて仕方がない。
……そんな感じだった。
何故、お前たちは従順な二匹の仔犬みたいに、あどけない笑顔を向けてくるんだっ。
腹も立てられないじゃないかっ、と思いながら、誠孝は、その二匹の仔犬から視線をそらし、
「……ただいま」
とちょっと照れつつ、ぼそりと言った。
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