昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

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恋か純愛かストーカーか

思わず、いいね、を押したくなる



「お、お待たせしました」

 さりげなくグラスに飾られたグリーンにキャンドル。

 落ち着いた色のテーブルランナーとラタンのランチョンマット。

 黒い陶器の皿の上には大きな骨つきキチンと色とりどりの野菜とハーブ。

 カトラリーにもこだわっていて。

 すごいなインスタ通りだ……と誠孝は当たり前なことをしみじみと思ってしまう。

「すごいな。
 お前にこんなことができるようになるとは……」

 インスタ映えするが、実物はいまいち、という場合もあるかもしれないが。

 このチキンは香ばしくスパイシーな温かい香りが鼻腔まで立ち昇ってきて、インスタ以上の迫力だ。

 思わず、いいね、を押したくなる。

 口で、いいね、と言うべきか、と思いながら、誠孝はいい感じにローストされたチキンを眺めていた。

 手入れのいいワイングラスに日子が優雅な手つきで、ワインを注いでくれる。

 その横にはコンビニの、チンしたばかりの野菜のグラタン。

 袋に入ったままのコンビニのパン。

 そして、プッチンプリンがあった。

「待て」
と誠孝は言う。

「この素晴らしいビジュアルの、この……」
と四角く指でテーブルの上に形を作りながら、日子を見た。

「この枠外の惨状はなんだ」

 いやあ~、とワインボトルを手にしたまま、日子は苦笑いする。

「だって、料理初心者なんで。
 インスタには一品ずつしか載せないんで大丈夫なんですけど。

 実は、時間かけて、一品しか作れないんですよね~。

 あ、この間、久しぶりに食べたら、美味しかったんですよ、プッチンプリン。
 沙知見さんにもぜひ、食べて欲しくて」

 ……お前の料理よりもか。

 っていうか、俺に食べて欲しかったのは、このプッチンプリンか。

「ほら、プッチンできるように、お皿も用意しましたよ」
と日子は笑顔で猫の足跡柄の皿を見せてくる。

 結局、今まで通りの日子に笑ってしまった。

 すると、日子は慌てはじめる。

「だ、駄目な感じですかっ? この料理っ。
 やはり、インスタと実物では違いますかっ?」

「いや……美味そうだ。
 そうじゃなくて、こんな状態だと知ってたら、俺が軽く一品作ってきたのにと思っただけだ」

「沙知見さんなら、小洒落た一品を軽く作ってきてくれそうですよね~。
 やっぱり、三千年修行してからお出しするべきでした」

 だから、お前は何千年生きる気だ……と思いながら、二人で食卓を囲む。

 日子の料理もコンビニのグラタンも、プッチンプリンも美味しかった。

 なにより、久しぶりに日子と食事ができたので、楽しかった。

 ……いや、久しぶりって、三日ぶりだったようなんだが。



 ついに沙知見さんにお料理をご馳走してしまったっ。

 インスタに公開するより、照れるな、と思いながら、日子はプッチンプリンを食べていた。

 ある程度酒が進んだころ、誠孝に訊かれる。

「しかし、インスタとかやって、叩かれたりとか嫌な思いをすることはないのか?」

「たまにありますけど。
 そんなに……」
と日子が言い終わらないうちに、誠孝は人を射殺いころしそうな視線で見て言ってくる。

「なにもできなかったお前がここまでになったのに、そんなお前を叩く奴がいるとはな。

 どこのどいつだ。
 俺がそいつを叩いてやろう」

 口調が淡々としすぎてて、逆に怖いんですけど……と思いながら、日子は、
「いえ、ほんとたまになんで」
と慌てて言う。

 だが、誠孝は、
「うちのシステムにヤバイ奴がいるから、そいつに頼んで、犯人をあぶり出し、制裁を加えてやろう」
と何故かフォークで突き刺したサラミを持ち上げながら言う。

 日子の頭の中で、その犯人が串刺しにされて、ぶら下がっていた。

「い、いやっ、ほんとうに大丈夫ですっ」

「じゃあ、ベルゼブブさんに頼んで、なんとかしてもらおう。
 あの人、そういう方面に詳しそうだったから」

 ひいっ、と日子は悲鳴を上げる。

「いや、それはもう本当に洒落にならないんでっ」

 昔、東城と仲が良すぎるという理由で、日子に辛く当たっていた女の先輩を新太が締め上げた現場を見たことがある日子は震え上がった。

 そんな話をしようものなら、行動力ある新太のことだ。

 次の瞬間、相手を突き止め、あの邪悪なオーラを放つ黒い車で相手の家に突っ込む、くらいのことはしそうだと思っていた。

 こっちが前科者になってしまう。

 だから、否定的なコメントがついたときは、ベルゼブブ新太には見られないよう、すぐさま消していた。

 新ちゃん、身内思いでやさしいからな~と思いながら、日子は、……ははは、と笑って、その話を終わらせた。



 帰り際、玄関で靴を履いた誠孝は、少し沈黙したあとで言った。

「美味かったよ……」

「え」

「プッチンプリン」

 え~、という顔をしたあとで、
「まあ、確かに」
と日子がプッチンプリンの美味しさを認めると、誠孝がちょっと笑う。

 あ、笑った。

 沙知見さんがやさしげに笑ってるっ。

 我が家の玄関でやさしく笑ってるっ。

 笑ったよっ。

 沙知見さんが笑ったよっ。

 繰り返し、沙知見さんが笑ったよっ、と思ったので、頭の中で誠孝がクラムボンになっていた。

 いや、クラムボンって、結局なんなのかよくわからないのだが……。




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