昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

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恋か純愛かストーカーか

犯人は誰だ……?



 機嫌良く日子はインスタにさっきのチキンを上げ、風呂に入って出てきたが。

「ああ~、また叩かれてるっ」
と呟きながら、急いでそのコメントを消した。

 だが、なんとなくその文面が気になった。

『こんなことしてるヒマあったら、仕事したらどうですか?』

 ……仕事したらどうですか?

 もう消しちゃったけど、なんか引っかかるな~。

 毎度、違うアカウントから送られてくるのだが、どうも同じ人のような気がする。

 全然知らない人が攻撃してくる場合、こういう言い方するかな?

 何故、仕事限定?

 私、なんにも自分のこと書いてないから、学生かもしれないし、専業主婦かもしれないし、子育て中かもしれないのに。

 何故、仕事のことだけ……?

 まさかっ。
 職場とか。

 仕事関係とか。

 私のことをよく知っている人が誰かっ。

 私のつたない料理を快く思ってなくてっ!?
と日子が衝撃を受けているころ、誠孝はインスタにいいねを押していた。

 いつも寂しく眺めていた日子のインスタが今日は光り輝いて見えるのは、ここに載っている料理を自分が口にしたからだろう。

 そう思いながら、満足げにコメントを見てみた誠孝は凍りつく。

 今まで、日子の友だちがコメントしているのを見るのさえ、疎外感を感じて見ていなかったのだが。

 日子がたまに批判的なコメントをもらうと言っていたので、気になってコメントを見てみたのだ。

『こんなことしてるヒマあったら、仕事したらどうですか?』

 あんなに頑張っている日子になんてことをっ。

 日子はちゃんと仕事もやってるぞっ、と思う誠孝の頭の中では、このコメントした人物は、さっきのサラミのように串刺しになっていた。

 何処のどいつだ。

 今すぐ血祭りにあげてやる。

 やはり、明日、システムの香椎かしいか、ベルゼブブさんにっ。

 日子が嫌なコメントをすっかり忘れて、眠りについている頃、誠孝は犯人の殺害(?)計画を練っていた。

 誠孝の頭の中を日子が見たら、

 コメントの人より、こっちの方がヤバイ人ですーっと叫びそうだったが。

 


 鼻歌を歌いながら、日子が部屋から出ると、誠孝が立っていた。

「おはよう」

 日子はガシャンッと鍵を落としてしまう。

 朝、偶然出会うことは今までにもあったが。
 今の誠孝は完全に日子を待っていた感じだったからだ。

 ……ど、どうしたんですか、沙知見さん。

 まさか一晩経って、あの料理、やはりまずかった、と思い、駄目出しを?

 それかお腹を壊されたとか?
とその厳しい顔つきに怯えながらも、

「お、おはようございます」
と日子が挨拶すると、

「じゃあ、行こうか」
と誠孝は言う。

「え、あ、はい?」

 小首を傾げながら日子が後をついていくと、誠孝は油断なく周囲を窺いながら呟いた。

「……何処に誰が潜んでいるかわからないからな」

 何処にっ?

 誰がっ?

 一体、なんのためにっ!?
と緊張する日子は、昨夜のコメントのことは忘れていた。

 嫌なことがあっても、ずっと考え続けていると、仕事に支障が出るので、すぐに切り替える癖をつけていたからだ。

「……なんで今日に限って、東城はいないんだ」
と玄関先で文句を言った誠孝は電車の中で、

「職場まで送っていこうか」
と日子を見つめ、言ってくる。

「けけけ、結構ですっ!」

 どうしたんですかっ、沙知見さんっ。

 なにがなんだかわからないまま、日子は、大丈夫ですっ、大丈夫ですっ、ありがとうございますっ、とぺこぺこ頭を下げ、断った。




 日子のアンチか。

 有名なインスタグラマーでもないのに、なんでそんなものが湧いてくるんだ?

 昼休み前。
 仕事が一段落して、日子への嫌がらせ対策を考えはじめた誠孝は、まず、そこを疑問に思った。

 そして、日子同様、昨夜のコメントがひっかかっていた。

『こんなことしてるヒマあったら、仕事したらどうですか?』

 ……犯人は、日子のことをよく知っている、仕事関係の奴じゃないのか?

 まあ、どのみち、そいつを放置しておくことはできん。

 日子が悲しむし。

 日子の身近な奴なら、そのうち、日子のインスタ以外のプライベート部分までさらして、批判しはじめるかもしれん、と思ったところで、誠孝は気がついた。

 スポーツ選手や芸能人へのコメントがたまにニュースなどで、目に入ってくるが、行き過ぎたアンチは熱狂的なファンと似ている。

 対象者の一挙手一投足を見逃すまいと監視している。

 ……コメント欄で、『今日の日子』とか報告してくれるかもしれん。

 微に入り細に入り、俺の知らないことまでも。

 ……一瞬、教えて欲しくなってしまったではないか。

 社内の日子のことはわからないからな、と誠孝は思う。

 今、どんな感じに仕事してるんだろうな、日子。

「目を血走らせて、ミスがないか、トリプルチェックをしています。
 ミスがあると、代理店に殺されるからです」

 もうすぐ昼か。
 なに食べるんだろうな。

 ちゃんと栄養のある美味しいものがあそこの社食にはあるのだろうか。
 みんなと楽しく食べているかな。

「美味しいですけど、沙知見さんが作る料理ほどではないです。
 でも、ゆーちゃんや郁美さんたちといつも楽しく食べてますよ」
と訊いたら、日子がすぐに返してきてくれそうなことを誠孝は知りたがっていた。

 どう考えても、日子のアンチの人や、ストーカーに訊くより、日子本人に訊いた方がいい話ばかりなのだが、訊く勇気はなかった。

 日子はちゃんとしたものを食べているかな、と思いながら、自分は仕事をしつつ、サンドイッチを齧っていた誠孝だったが。

 ふと思いついて、社食を覗いてみた。

 探している人物の姿はない。

 システム情報部まで行くと、彼女はいた。

 何故か煎餅を手に、システムの部長と笑って話している。

香椎かしい

 ボブカットで小柄な彼女にガラス張りのシステム情報部の入り口から呼びかけた。

 煎餅と刷り出されたデータを手に香椎百合かしい ゆりがやってくる。

「なんですか、沙知見さん」

「すまないが。
 ちょっとやって欲しいことがあるんだが。

 報酬は払う」

 すると、香椎は、ははは、と笑い、
「別に報酬なんていいですよ。
 沙知見さんにはいつも兄共々、お世話になってますもんね」
と言ってくる。

 いや、払う、と律儀に誠孝は言ったあとで、

「実はお前か、お前の兄さんに調べて欲しいことがあるんだ」
と香椎百合に調査を頼んだ。



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