昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

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恋か純愛かストーカーか

正体を暴く!



 今日も素敵な沙知見さん。

 兄と沙知見さんは大学で同期。

 兄は大学時代から、そういう方面にけていたので、沙知見さんもいろいろご存知のようだ。

 私のヤバさ×10くらい。

 でも、私程度でも、楓日子さんを攻撃している悪い奴の正体を暴くくらいはできるかも。

 

「お前、知ってるよな?
 楓日子」

「はい。
 ここの前、楓さんとこの会社に派遣されてましたから」

「実は日子のインスタに嫌がらせする奴がいるみたいなんだよ。
 文面からして、仕事関係の奴みたいだ。

 仕事に支障が出ても困るから、香椎、ちょっと調べてみてくれないか。
 楓日子に嫌がらせしているのが誰なのか」

 今日も素敵な沙知見さん。

 何故、それを私に依頼してくるのですか。

 楓さんに嫌がらせをしている人物。

 それは私です、と香椎百合は思っていた。




 あの会社に派遣されていた期間は短かったので、そんなに接触はなかったけど。

 美人で感じがよくて、切れ者の楓日子さん。

 沙知見さんが日子と呼んでいるらしいと、私のあと、あの会社に入った派遣仲間から聞きました。

 ほんとうだったんですね。

 とても綺麗な人だけど、デスクの上は雑然としていて。

 ああ、この人、意外に駄目な感じの人かもって思ってました。

 家事もできそうにないって思ってたのに。

 その派遣仲間が楓さんのファンで、
「楓さん、インスタはじめたらしいよ」
と教えてくれました。

 なんて美しいテーブルコーディネイトと料理!

 美人で仕事ができて、料理も上手くて、センスもいいとかっ、
と香椎は誠孝が聞いていたら、

「いやいやいや」
と手を振りそうなことを思っていた。

 まれにある、アンチの方が対象者を過大評価しているパターンだった。

 実際、日子を愛する誠孝の、日子と日子の料理に対する評価は意外と低く。

「味はともかく、レパートリーと包丁さばきは、いまいち」
と思っていた。

 実際、美しく切るために、日子はものすごくゆっくり切っている。

 あのあと、ちょっとした野菜スティックを日子が作ったのだが。

 段取りの良さはさすがだが、技術的には、まだまだだ、と容赦なく判定した誠孝は、

「……鍛えねばな」
と中国四千年の技を叩き込もうとする師匠か仙人のように思っていたのだが。

 自らもあまり料理をしない香椎は、技術力が低いがゆえの、レパートリーの少なさには気づかずに。

 美人で優秀で料理までできる楓さんは非の打ち所がない人だから、沙知見さんに愛されているのに違いない、と思っていた。

 誠孝は、
「いや、あいつの『非』以外のところが知りたいんだが」
と思っていたかもしれないが……。



 誠孝が大失敗なすけっ人《と》選びをしていたその頃。

 日子の社食では、裕子がパスタのフォークを手に吠えていてた。

「日子さんをいじめてる奴、裕子が制裁してきますっ」

 そのフォークでっ!?
とトマトソースのついたフォークを見つめ、日子は青くなる。

 すでに血がしたたっているように見えたからだ。

「どこのどいつでしょうっ。
 私が天罰を喰らわしてやりますっ」

 フォークから神のいかずちが降ってきそうな勢いだった。

 いや、あんた、ポセイドンか、
と思ってしまったのは、そのフォークが海神ポセイドンの三叉のほこに見えたからだろうか。

 ありがとう、ゆーちゃん、と日子は感謝した。

 だが、裕子はさらに熱く語る。

「でも、犯人はこの会社の人間ではないと思います」

 裕子は無駄に勘が良かった。

「この会社の人たちは、日子さんが素敵なだけではなく、駄目人間なことも知っています。
 激しく嫉妬するほどの対象ではないと思っていると思いますっ」

 裕子は思ったことを素直に口にする性格だった。

「……今、日子さんに恨まれることがあるとすれば。

 ズバリ!
 沙知見さんのことですっ。

 沙知見さんと同じマンションに住み、日子、シゲタカと呼び合っている関係なことが女性陣の恨みを買う可能性があると思いますっ。

 この会社で沙知見さんをよく知っている人は日子さんの部署の人がほとんどです。

 他の女性は遠目に見て憧れているだけなので、そこまで恋心がつのっている人はいないでしょう。

 そして、日子さんの部署はおっさん率が高く、若い女性でフリーなのは日子さんだけですっ。

 だから、犯人はきっと、沙知見さんをよく知る人か、沙知見さんの会社の人ですっ。

 ほら、同じクラスのイケメンをよそのクラスの女子や他校の女子にかっさらわれると、それ、うちのなのにって思うじゃないですかっ。

 あれですっ」

 いろんな意味で衝撃だっ。

 そして、ひとつ間違っているっ。

 私は、沙知見さんをシゲタカとは呼んでないっ。

 だが、裕子の推理はある程度正しかった。

 女の勘だろう。

 それは日子にはないものだった。

「沙知見さんは優しいから、強硬手段には出ない気がします。
 ベルゼブブ新太さんに頼むべきです」

 あの、みんな、楓・ベルゼブブ・新太になってるみたいなんだけど、違うから……。

 そう日子が思ったとき、一時期、星野・シゲタカ・丈太郎になりかけていた星野が、
「日子」
とカレースプーンを手に真剣な顔で呼びかけてきた。

「やはり、なんらかの対策を立てるべきだ。
 お前の家に行ってもいいか」

「ありがとう。
 ……家に来ることとの繋がりがいまいち読めないけど」

 今、片付いてるからいいよ、と日子は言った。

「あっ、星野さん、なに抜け駆けしてるんですかっ。
 私も行きますっ」
と三叉の矛を手に裕子が叫んだが。

 いや、君はきっとまた先輩のいるエントランスで満足して帰るよ……と日子は思っていた。




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