昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

文字の大きさ
42 / 63
恋か純愛かストーカーか

今のところ、一番怪しいのは……



「実は犯人に心当たりがある」

 夜、みんなが訪れた日子のマンション入り口で、唐突に東城がそう語り出した。

 東城はいつも、日子のインスタに書かれた批判コメントを日子が瞬時に消す前に見ていたらしく。

 日子の周りに不審な人物が現れないか、監視してくれていたようだった。

「犯人はおそらくボブカットの小柄な女だ。
 何処のどいつかまでは突き止めてはいない。

 濡れ衣の可能性もないではないし。
 日子にはまだ教えずに、ちょっと様子を見ていたところだったんだ」

 社長令嬢のストーカーという濡れ衣を着せられた経験があるからだろう。

 東城は慎重だった。

「だが、少なくとも、今のところ、一番怪しいのはあの女だ。
 四日前と昨日と今日。

 駅と新しいスーパーと、日子の会社近くのコンビニで、彼女はじっと日子を見ていた」

 重々しく語る東城の整った顔を見ながら、みんな内心思っていた。

 ……で、あなたは四日前と昨日と今日、何処からそれを見てたんですか?

 ほんとうに日子のストーカーではないのですか?

 そう全員が思っていたが、誰も突っ込まなかった。

「さすがです、東城さんっ。
 素晴らしい観察眼ですっ」
と裕子だけが手を叩いている。

 そして、そんな裕子を見ながら、日子は確信していた。

 こいつはきっと今日もエントランスから上には上がって来ない、と。

 そのとき、誠孝が帰ってきた。

「どうしたんだ。
 大人数で集まって」
と驚く彼に、日子は、みんなが例の批判コメントの犯人を探しに来てくれたのだと説明した。

 誠孝の顔には、

 いや、ネット上の犯人探すのに、なんの機材もない日子の家に集まる意味はあるのか……?
と書いてあったが。

 まあ、気持ちの問題か、と思ったらしく、
「そうか。
 お前の部屋で大丈夫か?

 うちでもいいぞ」
と誠孝は言ってきた。

「えっ?
 いえ、申し訳ないですっ。

 大丈夫ですよ、沙知見さん。
 最近は片付いていますから。

 と言いますか、沙知見さんのおかげで、散らかす物がないですから」

 そう苦笑いして見せながらも、日子はものすごく不安になっていた。

 もし、沙知見さんの部屋になったらどうしよう、と。

 みんながあの素敵な香りの沙知見さんの部屋に上がるのか。

 なんだろう。
 なんとなくやだな。

 なにが嫌なのかわからないけど、ちょっとやだな、と思う日子の頭に、誠孝と料理を作ったり……

 いや、誠孝が料理を作ったり、日子が運んだりして、楽しく呑んだ日々が蘇った。

 あの部屋でのことは、ふたりだけの思い出のままでいたいというか。

 いや、よくはわからないのだが。

 人様の部屋なのに、そんな勝手なことを思うとか……、と思ったとき、誠孝と目が合った。

 どきりとしてしまう。

 何故、どきりとしてしまったのか。

 誠孝の部屋にみんなに入ってほしくないと思ってしまったのは何故なのか。

 答えが出ないまま、日子は、
「あのっ、うちで大丈夫なんで。
 みなさん、上がってくださいっ。

 沙知見さんもっ」
と早口に言い、みなをうながした。

「そうか?
 お前のうちでいいのか?」

 そう誠孝は不満そうに言う。

「全員で入ったら、狭いだろう」

 いや、同じ広さですから、沙知見さんちと。

 今、うちに来いとあなた言いましたよ?

「こいつくらいは、うちで引き取ってもいいぞ」

 誠孝は何故か星野の腕をつかむ。

「いや……ひとり減ったところでたいして変わりませんから」

 そう言い、日子は断った。



感想 1

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

親愛なる後輩くん

さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」 雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。 同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。 さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?