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恋か純愛かストーカーか
犯人は俺が捕まえる
「素敵ですっ、日子さんのお部屋っ。
なんにもなくてスタイリッシュでっ」
とついに日子の部屋に入った裕子が手を打って喜ぶ。
ちょうど交代の時間だった東城も、みんなと一緒に日子の部屋に来たからだ。
「えーと、珈琲か紅茶か淹れましょうか?」
そう日子が言い、覚束ない手つきで支度しようとすると、誠孝が、
「俺がやるから、お前は座って東城が見た女の話でも聞いておけ」
と言ってくれた。
誠孝は全員に、飲み物はなにがいいか訊き、サッと淹れてくれる。
「すごいですね、沙知見さん。
手際いいし。
日子さんちのキッチン使い慣れてるし」
最後に付け加えられたその言葉に並んでラグに座っていた星野と東城が、何故かビクリとしていた。
「どっちかって言うと、東城さんの方が、
『紅茶なら此処に……』
とか言って棚の奥から見つけてきたりしそうで怖いなって思ってたんですけど」
そう言い、裕子は笑ったが、日子もみんなも笑えなかった。
ゆーちゃんの頭の中の東城さんが一番サイコで怖い……と青くなっている日子には気づかずに、裕子はご機嫌なまま誠孝に話しかけている。
「沙知見さん、カプチーノにしてくださいとか言ったら、インスタントとかじゃなくて、ちゃんと淹れたやつ出してくれそうですね」
「うちでなら淹れられるが。
淹れてこようか」
そう裕子に訊く誠孝を見ながら、日子は、
……まるでカフェだ、
と思っていた。
いつも見慣れた我が家のキッチンなのに。
手際のいいイケメン様が立っているだけで、小洒落たカフェと化しているっ。
素敵な焼き菓子が添えられた珈琲が、アンティークな器に入って出てきそうだ。
対面キッチンに立つ誠孝は真剣に蒸らし中の珈琲を見つめている。
その横顔を眺めながら日子は、カフェにこんな店主がいたら、うっかり通いつめてしまいそうだ、と思っていた。
「東城」
とドリッパーから視線を上げ、誠孝が訊く。
「その怪しい女の写真はないのか」
「いや、女性を隠し撮りするのはちょっと」
と東城は真っ当なことを言う。
「じゃあ、今度、その女を見かけたら、すぐに俺に連絡してくれ」
そう誠孝は東城に言った。
案の定、犯人を見つけに来たはずが、みんな日子の部屋を見たり、インスタはこんな感じ撮っている、という話を聞いたりしただけで、満足して帰って行った。
ただ東城だけが帰り際、
「日子、俺は間違っていた」
と言い出した。
「俺は今まで、このセキュリティのしっかりしたマンションの入り口さえ見張っていれば、お前は安全だと思っていた。
……なにも安全ではなかったな」
なにが安全ではなかったのでしょう……。
「すでに中にケモノが放たれている場合、出入り口を塞ぐのはむしろ逆効果だとわかったよ。
おやすみ」
だから、なんの話なんですかっ、と思っている間に、東城は星野と話しながら帰ってしまった。
ふたりは何故か気が合うようだった。
中で片付けをしてくれていた誠孝に、
「沙知見さん、ありがとうございました。
あとは私が……」
と言いかけた日子は、その言葉を途中で止めた。
誠孝はキッチンは片付けていたが。
何故か、部屋の中央にソファのクッションや本棚の本などを置いて、らしくもなく、散らかそうとしていたからだ。
「えーと……。
なにしてるんですか? 沙知見さん」
「片付いてると、簡単に部屋に人を呼べるだろうが」
呼べてはいけないのですか……。
「お前は考えなしだからな。
それでも、一応、若い女性だろう」
一応でなくとも、若い女性ですが。
「気軽に部屋に男を呼んだら物騒じゃないか」
「いえ、あの、基本、女性しか呼びませんが」
ひとりで来る男性は、あなたくらいのものですよ、と日子は思っていたが、誠孝はクッションを手にしたまま、こちらを見、
「その女が男を連れてくるかもしれないじゃないか」
と言う。
女性が男性を連れてきて、なにがいけないのですか。
っていうか、なんですか、その、一匹見たら百匹みたいな。
暖かくなってくると現れる、あの黒くてつやつやした、いきなり飛んだりする生き物であるかのように誠孝は、若い男について語っていた。
みんなが帰ったあと、日子と誠孝は少しずつ料理を作って二人で食べた。
いや、少しずつというか、日子は一品なのだが……。
あとは買ってあったポテトサラダだ。
自分の料理と、付け足した野菜で美しく彩られたポテトサラダの写真。
それを、
『コンビニのポテサラと一緒に』
と書いて投稿する。
いつも見てくれる人が、
『わあ、こうやって食卓に出したら、豪華な一品に見えますね』
とすぐに書き込んでくれる。
いえいえ、手抜きの極みですよ、と苦笑いしながら、日子はスマホの画面を見つめる。
批判的なコメントが書き込まれるのをなんとなく待ってしまった。
どんなコメントか予想しながら。
『はじまりましたね、手抜き』
とかかな。
『野菜の切り方、ちょっとおかしいですね』
とか。
ああ、なにもかもおっしゃる通りで言い返せませんっ、と自らが妄想した批判コメントにも恥入っていると、誠孝が呼びかけてきた。
「日子。
もうやめたらどうだ? インスタの投稿」
……言われると思ってました。
「お前は一人暮らしだからな。
せっかく頑張って作った証を誰かに見せたいのなら……」
そう言いかけ、誠孝は黙る。
だが、見せたいのなら、の続きはなかった。
「犯人は俺が捕まえる。
だから、心配するな。
おかしなコメントがあったら、すぐ消すか、俺に言え」
「はい、ありがとうございます」
と日子は深々と頭を下げた。
だが、その瞬間、日子のインスタにコメントがついていた。
『いまいちですね』
日子はしゅんとする。
誠孝が日子のスマホを取り、その画面を見つめている。
沙知見さんにまでご心配やご面倒をおかけして。
みんなにも……。
もうやめるべきですかね? と日子が思ったとき、誠孝がスマホを戻してきた。
「早く消せ。
ベルゼブブさんが見るぞ。
あの人に殺人を犯させたくないんだろう?」
俺も殺させたくない、と誠孝は日子を見つめる。
「……沙知見さん、やさしいですね」
と日子は微笑んだが、誠孝は困った顔をし、
「いや、違う」
とだけ言った。
なにが違うのかはわからないが。
「きっとバチが当たったんですよ」
寂しく日子は呟いた。
「私なんぞがインスタ様をやるだなんて」
きっとバチが当たったんです……。
そう日子は繰り返す。
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