昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

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恋か純愛かストーカーか

ちょっとプロポーズに聞こえなくもない

 

 一度やると決めたら、仕事のように、日々、コツコツとやる日子は、食事の前に撮った写真を今日もインスタに上げているようだった。

 それを見ながら、誠孝は心配になる。

 投稿しながら不安げな表情になっている日子に誠孝は言った。

「日子。
 もうやめたらどうだ? インスタの投稿。

 お前は一人暮らしだからな。
 せっかく頑張って作ったあかしを誰かに見せたいのなら……」

 俺が毎日見てやる。
 そう言いかけ、誠孝は黙った。

 ……ちょっとプロポーズに聞こえなくもないな、と自分で深読みしてしまったからだ。

 読みすぎだ……。

 日子の心配通り、今上げた写真にも批判のコメントがついた。

「早く消せ。
 ベルゼブブさんが見るぞ。

 あの人に殺人を犯させたくないんだろう?
 俺も殺させたくない」

 そう言いながら誠孝は思っていた。

 俺が殺したい。
 日子のために。

 それに、ベルゼブブさんが殺してしまったら、日子が、なんて素敵で頼りになる人っ、と思って、ベルゼブブさんと恋に落ちてしまうじゃないか、と日子が激しく手を振りそうなことを思う。

「きっとバチが当たったんですよ」

 寂しく日子が呟いた。

「私なんぞがインスタ様をやるだなんて。
 きっとバチが当たったんです……」

 待て。

 なんだ、インスタ様のバチって。

 さも凄腕のように料理を載せてるから、料理の神様のバチが当たるとか言うのなら、まだわかるが。

 インスタはいつから神様になった?

 どうも、自分なんぞには相応しくない世界だと、日子はインスタと、インスタをやっている人々を神格化しているようだった。

 仕事のときは強気なのに。
 実生活では、ほんと自己評価低いな、と呆れながらも笑ってしまう。

 深刻な状況だったのに、いきなり笑い出した自分を日子が、

 突然、どうしたんですかっ?
という目で見ていた。



 二人はそんな風に、批判コメントに振り回されていたが。

 批判コメントを入れている香椎も振り回されていた。

 い、入れたくない、批判コメント。

 自分で自分を捜査するとか絶対嫌だし。

 沙知見さんが他の人にも頼んでたら、すぐに足がつくかもしれないし。

 香椎はコメントを入れたその瞬間に、アパートの周囲をパトカーで囲まれる幻を見る。

 暗闇に光る赤いランプの幻影に怯えながらも、香椎は震える指先で批判コメントを打ち、投稿する。

 いきなり、投稿が止まったら不自然だからだ。

『いまいちですね』
というパンチにかけるコメント。

 だが、それが今の香椎の精一杯だった。

 なんで批判コメント打ってる方が追い詰められてんのっ。

 神様、助けて~っ、と香椎が祈る神様が、インスタの神様だったのかどうかは定かではない。



 翌朝、暗い気持ちで通勤電車に乗っていた香椎の目の前に、いきなりすごいイケメンが現れた。

 混まない時間に乗りたいので、いつも出勤時間はかなり早めにしている。

 一度、楓日子を間近で見たくて遅めに出たとき、人の多さにうんざりしたので、あれから、より早い電車に乗るようになっていた。

 そこそこ空いてるのに、何故、この人、こんな側に立ってるの?
と不審に思う香椎にその精悍な顔をしたイケメン様はスマホを向けてくる。

「お前を盗撮していいか」

 ひっ、なにこのイケメン様っ。

 そんなことを言いそうもない顔で、淡々と言ってくるのが余計怖いっ。

「俺はそのようなことをしたくないのだが。
 日……

 ある機関に命じられて」

 いや、あなた今、日子って言おうとしましたよっ。

 楓さんに命じられて?

 そんな顔色を読んだのか。

「いや、命じたのは日子じゃなくて。
 もっとなんとなく恐ろしい人だ」

 なんとなく恐ろしい人ってなんだ!?

 まさか……

 沙知見さん?

 そうか。
 沙知見さんは最初から私が犯人だとわかってて。

 自ら名乗り出るようにと、私にあんな話を振ってきたのか。

 香椎はちょっと泣きそうになる。

「……すみませんでした。
 私、子どもの頃からずっと兄の友人の沙知見さんに憧れてて。

 なのに、最近知り合ったばかりの楓さんと沙知見さんが急接近して悔しかったんです。

 あんなすごい人相手じゃ私なんかが叶うはずないし。

 沙知見さん、きっとすべてわかってたんですね。

 だから、私に調査を頼むフリして思いとどまらせようと……」

 すると、東城は少し考える風な顔をした。

「いや、日子はなにもすごくない。
 ただの頑張り屋だ。

 まあ、頑張り屋なところがすごいと言えばすごいんだが。

 あいつの場合、頑張りきれていない自堕落なところがたくさんあるからな」

 この人、本当に日子さんの友だちなのでしょうか。

 私の方が楓さんの評価、高くないか? と思う香椎にそのイケメン、東城は言ってきた。

「あんた、沙知見さんに頼まれるくらいだ、凄腕なんだろう。
 顔も可愛いし。

 日子なんかにこだわる必要はないと思うが」

 えっ? と香椎は東城を見上げた。

 まっすぐ自分を見つめてくる彼の瞳に赤くなって、視線をそらす。

「楓日子をちゃんと知ってみろ。
 あんたのようなきちんとした人が嫉妬するような女じゃないってわかるから」

 ……いや、そんなことはないと思いますよ、と東城のあまりの言いように、日子をかばいたくなる。

 日子を認めているからこそ、この人こそ、沙知見さんに相応しい、と思って嫉妬していたのだから。

 そんな香椎の表情を見ていたらしい東城が言った。

「俺はあんたを突き出さない。
 写真を撮って、沙知見さんに教えるのもやめる。

 あとのことは自分で考えろ」

 突き放した口調ではあったが、香椎は、その言葉に限りないやさしさを感じていた。

 

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