昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

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これは本気の恋かもしれない

あなたの名前


 

 それぞれ買い物を済ませ、自宅に戻った。

 日子が適当な晩ご飯を食べていると、誠孝からメッセージが入ってくる。

「今日の晩ご飯はクリームソーダか」

 さっき、インスタに可愛い100均のグラスに作った色鮮やかなクリームソーダを上げたからだろう。

「いえいえ。
 本日はご飯は手抜きなので、飲み物で」
と日子は打ち返す。

 早速、あのアンチの人から、いいねが来ていた。

「そうか。
 まあ、美味しそうだな」

「お暇なら、飲みに来られますか?」

 ご飯を食べながら、軽く打っていたので、その勢いで深く考えずに、そう訊いてしまう。

 だが、すぐに入ってきていた返事がない。

 しまった。

 余計なこと言っちゃったかな、と思ったとき、

「ついでにゲームでもしないか」
と誠孝が言ってきた。

「いいですね」
と日子は打ち返す。

「じゃあ、明日も仕事だし、一時間ほど」

 そう入ってきて、そうですね、と日子は返したが、この二人のゲームが一時間で終わるはずもなかった。



 クリームソーダの残骸と、ゲーム廃人の残骸が部屋に行き倒れている朝。

 スマホの目覚ましが鳴り、日子は飛び起きる。

 横に誠孝が倒れて寝ていた。

「シゲタカさん、シゲタカさんっ」
と慌てて日子が起こす。

「ん?
 ……すまない。

 あのまま寝たのか」

「もう七時ですよっ、シゲタカさんっ」

 そう叫んで支度しようとしたが、誠孝が倒れたまま動かないのに気がついた。

「どうしました? シゲタカさん」

「いや……まだ夢を見ているようなので、寝過ごしたのもきっと夢だろうと思って」

 は? という顔をした日子に、誠孝が顔だけこちらに向けて半信半疑な様子で言う。

「お前、俺を誠孝と呼んでるぞ」

 ああっ、ほんとだっ、と日子は叫んだ。

「すみませんっ。
 寝るまでずっと、対戦してるゲーム画面のシゲタカって文字を見てたので、焼きついちゃって」

 誠孝は、いや、いい……と言いながら、むくりと起き上がる。

「俺もお前を日子と呼んでるし、誠孝でいい」

「あっ、ありがとうございますっ。
 シゲタカさんっ」

 そう日子は苦笑いして言ったが、誠孝は、微妙になにかが違うような……という顔をしていた。

 日子が呼ぶ誠孝が、名前のそれではなく、ゲーム画面のカタカナのシゲタカなままなのが、雰囲気として伝わっているようだった。



 東城が緑も眩しいマンション前庭を眺めながら、玄関前に立っていると、日子たちが来た。

「おはようございます」
「おはよう」
と日子と誠孝が挨拶してくる。

 今日も朝から日子はエレガントな微笑みを浮かべている。

 ハイセンスな服を抜群のスタイルで着こなす日子だが、身支度を整えている間は、相当ドタバタしてるんだろうなと想像できて笑ってしまう。

 東城が警備員らしく二人に、
「おはようございます」
と返したとき、日子が足を止め、

「あっ、先行ってください、シゲタカさんっ」
と言った。

 ……誠孝さん?

「忘れ物……

 いや、鞄に入ってました。

 偉いですね、昨日の私」

 鞄の中を確認しながら笑う日子に、誠孝が呆れたように、
「偉いか? 昨日の私。
 コントローラー握ったまま、寝腐ねくたれてたのに」
と言っている。

 誠孝さん?

 沙知見さんの前で寝てたとか。

 まさか二人で熱い夜を過ごしたとかっ?

「違う意味で熱い夜だったな」
と誠孝が昨夜の熱い対戦を思い出しながら、言ってきそうなことを東城は思っていた。

「日子、いつから沙知見さんのこと、名前で呼ぶようになったんだ?」

 星野なら訊いていなかっただろうが、東城なので反射的に訊いていた。

 いや、人が見ていたら反射的なだけで、東城的には一瞬で思い詰めたあとに、一瞬で臨界点を突破して、やけくそになり訊いたのだが。

 日子が笑って言う。

「いや、名前で呼んでるわけじゃなくて、ゲームのキャラクター名で呼んでるんです。

 シゲタカさんが、格闘ゲームの自分のキャラの名前をシゲタカにしてて。

 一晩中やってたから、刷り込まれたみたいで。

 シゲタカさんの顔を見たら、あのキャラが被っちゃうんですよね」

「待て。
 俺はあんな袖が引きちぎれたような服は着てないし。

 肩をいからせて歩いてないし、変なポーズでも立ってないっ」
と誠孝が反論しているが。

 楽しそうだな……と東城は、うらやましく思ってしまう。

 二人仲良く日子と誠孝は行ってしまった。

 俺も一晩中、日子とゲームとかやってみたい。

 オンラインゲームなら叶うだろうか。

 沙知見さんみたいに、日子に名前で呼ばれたい。

 名前……イースト キャッスルから変えようかな、と東城は思っていた。



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