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これは本気の恋かもしれない
呪われた部屋を片付けに行くんです
「日子、この土日は暇なのか?」
ほうれん草を茹でながら誠孝が訊いてきた。
夜、偶然帰りに出会った誠孝と、日子の家で一緒に料理を作っていたのだ。
今まで仕事で疲れているから、料理をしたくないのだと思っていたが。
キッチンが綺麗だとやる気になる。
いや……ひとりじゃないからかな、と日子はチラと真剣な顔で茹で加減を窺っている誠孝を見た。
一日どっぷり浸かっていたゲームの世界から目覚めて、真っ先に思ったのは、この人のことだったなと思いながら。
「いいえ、それが今週末も用事があって。
あっ、そうだ。
お暇なら、あのゲーム、また貸しましょうか?」
「だから、何故、心が遠くへ行ってしまいそうなクソゲーを俺に貸そうとする。
そういえば、日曜は何処に行ってたんだ」
昨日は、いまいち正気じゃなかったので、訊きそびれた、と言う誠孝に、
そうですね。
二度、世界が滅びた極寒の大地にいらっしゃいましたもんね、と日子は苦笑いする。
「昨日は、祖母の米寿のお祝いの打ち合わせだったんですよ、新ちゃんと。
ちょっとした軽い感じの話し合いだからって言われて会いに行ったんですけど。
何故か、なんで、俺との待ち合わせにもスーツで来るっ、て怒られました。
スーツがあんまり考えなくていいから、楽なんですけどね~」
「……ベルゼブブさん、それ、『ちょっとした軽い感じ』をやたら強調してなかったか?」
「そういえば、そうでしたね~」
日子はそこでゴマをすっていたすり鉢を見下ろした。
「この間、雑貨屋さんに『簡単にゴマがすれますっ!』ってシールが貼ってある電動ゴマすり機があったんですよ」
「そのキャッチコピーだけ見たら、違う意味に聞こえるな」
「そうなんですよ。
実は、同じものを小学生の頃、おばあちゃんの誕生日にあげたんですよね。
あのときも、あげたあとで、『簡単にゴマがすれます!』をお祝いにあげるのどうだろうなって思ったの思い出しました」
そう言って、日子は笑った。
「そうだ。
今週末はおばあちゃんちの呪われた部屋を片付けに行くんです」
「……現実世界でもゲームが続いてるのか?」
違いますよ、と日子は苦笑いする。
「おばあちゃんが入ったら呪われそうな部屋があるから、米寿の祝いの前に片付けてくれって。
スペインバルに行ったあと、おばあちゃんちでみんなお茶するので」
「どの辺が違いますよなのかよくわからん発言だが。
それ、お前だけが行くのか」
「それなんですよ~。
実は、新ちゃん、出張になっちゃったらしくて、遅れて来るかもって言ってました。
弟の高道も遅くなるみたいで」
「なんだかよくわからんが。
男手がいりそうなら手伝ってやろうか?
お前ひとりで呪われるのも可哀想だし」
「おばあちゃんも居ますよ」
「おばあさんと二人で呪われても状況は変わらんだろうが。
呪われたように散らかってる部屋なのか?」
さすがお前のおばあさんだな、と言われたが、
「いや、たぶん、そうじゃないと思いますね~」
と日子は、また苦笑いした。
目にも鮮やかなほうれん草の白和えが出来上がり、今日は和風なセッティングをして写真を撮る。
「そうだ、アンチの方がインスタ投稿し始めたんですよ。
今日のガチャガチャとか投稿されてて、とても楽しいです」
「……そうか。
なんだかわからんが、よかったな」
と言いながら、誠孝は自分でも白和えを写真に撮っていた。
「シゲタカさんもインスタはじめますか?」
「やるわけないだろう」
と言いながらもう一枚撮ったあとで、誠孝がこちらを見た。
「ついでにお前も入るか」
とスマホを向けて言ってくる。
「いえ、私は。
これ味付け、ほとんどシゲタカさんですし。
私が入ったら、私の手柄みたいじゃないですか」
「いや、単に一緒に作った記念だ」
と言う誠孝に一枚撮られたが、綺麗に撮れているか、社報の写真よりも気になった。
『近所の人と作りました』と書いてインスタに上げる。
いつもより遅れて、アンチの人から、いいねがついた。
「おいしそうですね」
というコメントとともに。
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