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これは本気の恋かもしれない
誰かの視線
この一緒に料理作った近所の人って……沙知見さんだよな、きっと。
自分ひとりで作ったんじゃないとバラす辺りが楓さんらしいと言うか。
そんなことを思いながら、香椎は早朝の空いた電車で日子のインスタを眺めていた。
溜息をついたとき、
「おはよう」
と真横で低いいい声がした。
びくりと振り返ってしまったのは、声フェチだからか。
何処かで聞いた声だったからか。
真横に、いつぞや自分を脅してきたイケメンが立っていた。
「元気か?」
げ、元気です……と言いながら、視線をそらしてしまう。
視線をそらしてしまったのは、おのれの罪を知っている相手だからなのか。
顔も声も結構好みだからなのか。
これまた、わからない、と震えながら香椎はつり革を手に立っていた。
そういえば、沙知見さんを最初にいいと思ったのも、あの声のせいだったかも。
当時ハマってたアニメの声優さんと声似てたんだよな~、と思い出す。
彼は自分が怯えているのに気づいてか、ゆっくりと落ち着いた口調で話しかけてきた。
「沙知見さんにも日子にも、あんたのことは言ってないから。
あの二人は、ぼんやりして人がいいから。
騒動が収まったら、もうアンチの正体には興味なくなったみたいで」
「……そんな感じですね」
でも、いつか二人に暴露して謝りたい気はしている。
楓さんは笑って許してくれそうだ。
……沙知見さんはわからないけどな。
楓さんにメロメロのようだから、楓さんを傷つけた人間が私だと知ったら、許さないかもしれないな。
そう思ったとき、
「じゃあ」
と彼はちょうど着いた駅で降りていった。
「あ、ありがとうございます」
頭を下げたあとも目で追っていると、向かいの電車に乗るのが見えた。
彼は今来た方角に戻っていったようだった。
えっ?
もしかして、今の一言を言うために、早朝、電車に?
香椎は彼の乗った電車の方をいつまでも見ていたが。
ふいに背後から視線を感じた。
誰っ? と振り向いたが、こちらを見ている人間は誰もいない。
だが、視線をそらすと、また、刺すような視線を感じる。
ええっ? なにっ? 怖いんですけどっ、と香椎は怯えながら電車に揺られていた。
「東城さんはお元気ですか?」
社食で日子はふいに裕子にそう訊かれた。
「うん、今朝も元気そうだったよ。
朝一でどっか行って、駅からジョギングしながら出勤したとか言ってた」
「さすが。
素敵ですね、東城さん」
と言う裕子の横で、郁美が、
「私も一緒にジョギングしたいわ~」
と言い出す。
「ジョギングウェア買おうかしら。
さりげなく後ろから走ってって、おはようございますって話しかけるの」
「いや、東城先輩、めちゃくちゃ足速いですよ」
後ろから軽い感じに声かけながら追いつけるだろうか。
まあ、幾ら身体を鍛えるのが趣味の東城でも、歩道を全力で走りはしないと思うが。
「では、私は犬を連れて正面から現れることにします」
「ゆーちゃん犬飼ってたっけ?」
「これから飼います。
それか日子さん、実家に犬いましたよね?
裕子の未来のためにお貸しください」
「いや……、ゆーちゃん、引きずられると思う」
上から乗られたら、潰されそうな我が家のもふもふ犬を思い出しながら、日子は言う。
「それにしても東城先輩人気ね」
「だって、格好いいし。
やさしいし。
一途に日子さんを思う姿もきゅんと来ちゃうし。
ちょっとストーカー気味なところは目をつむります」
と裕子は言う。
「どうせ、日子には振られるしね」
郁美がそう言い笑った。
「そうですよね。
日子さんにはもう沙知見さんがいますもんね。
他のイケメンは解放してください」
なんの話だ、と思う日子に向かい、裕子が繰り返す。
「他のイケメンを解放してください。
東城さん、ベルゼブブさん、星野さんの解放を要求します」
「あ、星野か。
星野もいいなあ」
と郁美が呟いた。
いや、あなた方、その星野を目の前に語ってますけど……。
星野は、何故、突然、俺の話題にっ? という顔で挙動不審になっている。
「ベルゼブブさんもいいですけど。
日子さんの身内でもあるし。
幼い頃から日子さん一筋っぽくて難しそうだし。
やっぱり、私は爽やかなイケメンストーカー東城さんで。
東城さんについてるストーカーもいそうですけど。
日子さんが敵よりはマシそうですしね」
「あの~、東城先輩についてるストーカーって誰?」
と訊いた日子に、なに言ってんですか、という顔で裕子が言う。
「問題の社長令嬢に決まってるじゃないですか。
東城さんに汚名を着せた。
絶対、帰国して、東城さんを付け回し。
東城さんに近づく女をチェックしてますよっ」
「やだっ。
私もチェックされたいっ。
そして、この女が一番東城さんに近くて怪しいとか書かれたいっ」
裕子と郁美は盛り上がっていた。
その社長令嬢は密かに香椎をチェックしていたのだが、二人は知るよしもない。
そんな裕子たちを見ながら、日子は、いいな~、なんかいろいろ楽しそうだなあ、と思っていた。
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