昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ

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これは本気の恋かもしれない

お前に言いたいことがある


 これがキャンプである意味は何処に?
と思っていた誠孝だったが。

 自分たちではできないような手の込んだ野外料理は確かに美味しかったし。

 なにより、日子が楽しそうなので満足だった。

 そして、気のせいかもしれないが。

 日子が『シゲタカ』ではなく、『誠孝』と呼んでくれている気がする、
と誠孝は思っていた。

 あのスコール騒動の一体感のせいだろうか。

 そんなこんなで機嫌がよかった誠孝だったが、日子の一言で、いきなり地獄の底まで叩き落とされることになる。

 湖を見る日子の美しい横顔を眺めていたら、日子が言ったのだ。

「素敵ですね。
 今度またみんなで来たいですね」
と。

 ……それは、俺とはもう来たくないという意味かっ。

 俺とでは楽しめなかったということかっ。

 もちろん、そんな意味ではない。

 誠孝と二人で来て、とても楽しかったから、今度は出資者の節子も一緒に。

 いや、ベルゼブブやルシファーも一緒に。

 いやいや、羽根やゆーちゃんたちもこういうの好きそうだから一緒に、
と日子は思っていただけなのだが。

 誠孝はその一言でかなりナーバスになってしまった。

 日子と二人きりの旅。

 ここで彼女に言いたいことがある、と思っていたからだ。

 

 いろいろ考えながらも、誠孝は日子の話にはちゃんと相槌を打ち、夕食を終えた。

 さっきびしょ濡れになったときに、もう温泉に入っていたので、あとは寝るだけだった。

「楽しかったですね~」

 片付けもスタッフの人がやってくれるらしく、自分たちは残った酒とちょっとのつまみを手にトレーラーハウスに戻っていた。

 日子はレトロな風合いのレザーとスチールのソファに腰掛け、呑みながら笑っている。

 そんな日子を眺めながら、誠孝はおのれに問いかける。

 大丈夫か?
 俺は日子に、ただの呑み友だちだと思われてないか?

 大丈夫か?
 俺は日子に、ただのゲーム仲間だと思われてないか?

 日子と戦う会議の前に、こちらのミスをつつかれないようダブルチェックするときのように、誠孝は過去から今までの日子の言動をすべてを思い返し、チェックする。

 だが、すぐに、するのではなかった……と後悔した。

 どう考えても、ただの呑み友だちだと思われてそうだし。

 ゲーム仲間だと思われてそうだ……。

 仕事のときには考えられないことだが、実行する前に、心が折れそうになる。

 自分がこんなに弱い人間だとは知らなかった。

 そう思った誠孝の頭に、ふと、以前聞いた日子の言葉が浮かんだ。

 時間ギリギリでデータを差し替えるとき、手が震えてできないと日子の後輩が言ったときのことだ。

「私も手が震えるときあるけど、やらなかったら、どのみち終わるから、私はやるわ」

 そうだっ。
 ここで言わなかったら、どのみち終わるっ。

 自分がぼうっとしている間に、積極的なベルゼブブや、方向性がおかしいが、自分よりは積極的に日子に近づこうとする東城たちが、先を行きそうな気がしたからだ。

「日子っ」
と誠孝は覚悟を決め、振り向いたが、日子はソファの背にひっくり返って寝ていた。

 いや……お前、女子として、その格好どうだ。

 酔っ払って、駅のベンチで背もたれに仰向けになって寝てるオッサンみたいになってるが……。

 一週間考えて用意した可愛い服もだいなしの行為だった。

 だが、そんなグタグダな日子を見慣れている誠孝は、どうだと思いながらも、怯まず口を開いた。

「寝ているのならちょうどいい。
 ……聞いてもらおう」

 

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