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王様に課せられたこと

妙なところで生真面目なので

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 ……私はなにをしにここに来たのだろうな。

 ひとり、寝室に残されたエルダーは思う。

 いや、あの髪飾りは渡したし、アイリーンも喜んで、ずっとつけてくれていた。

 もうこれで目的は果たしたし。

 うん。
 ……寝るか、と思ったとき、ノックの音がした。

「王様ー。
 王様ー」

 アイリーンだ。

 落ち着かなく、部屋の中を一周したあとで、
「どうした?」
とエルダーは呼びかける。

 だが、返事はない。

 慌てて扉を開けると、アイリーンはもう戻ろうとしていた。

「なにか用かっ」

 諦めが早すぎるぞっ、と思いながら、エルダーは叫んだ。

 アイリーンは足を止め、振り返る。

「ああいえ。
 王様はなにか御用があるのでは?
とみんなに言われたので、来てみました」

「……そうだな。
 眠れないので、ちょっと話に付き合ってくれ」

 とりあえず、そう言ってみた。


「まあ、座れ。
 ……寝台ですまないが、他に腰掛けるところがないので」
とアイリーンを中に通し、言うと、

「いえいえ。
 申し訳ないのは、こちらの方です。

 我々が用意した寝室に椅子がなかったわけですから」

 そうアイリーンは言う。

「今すぐ持ってこさせましょう」
と行こうとするので、エルダーは慌てて彼女の腕をつかんで止めた。

「いや、いいっ。
 今日はもう遅い。

 みなに悪いであろうっ」

 すると、アイリーンは微笑んで言う。

「やさしいんですね、王様」

 その顔を見たエルダーは、そっと手を離しながら、

 今後、夜遅くにみなに用事を言いつけるのはやめよう、そう思った。


 アイリーンはちょこんと寝台の端に腰掛けてくれた。
 軽く咳払いしたエルダーは、とりあえず、世間話から入る。

「しばらくこの城に暮らしてみてどうだ」
「はい、とても快適です」

 いや、崖上のボロボロな古城だぞ。
 とても快適には見えないが、と思いはしたが。

 この自由奔放な娘には、窮屈な街中の暮らしより、多少不便でもこの方が合っているのかもしれないな、とも思う。

「そうか。
 この国に来て、なにか困ったことなどないか?

 外の人間の方がいろいろと改善点など思いつくかもしれないから訊いてみるんだが」

 アイリーンは小首をかしげたあとで言う。

「特にございません。
 街は栄えてますし。

 道が立派だからでしょうね。
 いろんなところから物が流通していて……。

 そう。
 道がとても素晴らしいです」

 何故かもう一度道を褒め、アイリーンは深く頷いた。

「どこからでも、軽快に走って戻れますしね」

 ……なんだって?
と思いはしたが、なんだか突っ込むのが怖く、突っ込まなかった。

 とんでもない話が転がり出て来そうだったからだ。

「あれ、兵隊さんたちが進軍されるときに整えた道ですよね。
 そう思えば、いいことなのかはわかりませんが。

 今はそのおかげで、商人や旅人たちが楽に行き交えて、あちこちの街が発展してますよね」

 アイリーンはそこで、真面目な顔になって言う。

「陛下はおやさしい方なのに、何故、あちこちの国を侵略し、領土を拡大されているのですか?」

「侵略はしていない。
 街を荒らしてもいないし。

 我が友好国となるよう、脅しているだけだ」

 アイリーンよ、逆に問おう、とエルダーは言う。

「お前たちは何故いつも小競り合いを起こしているのだ。

 みながひとつの国となれば、それらは、国同士の威信をかけた戦いではなく。

 となりの町とのちょっとしたいさかいになる。

 まあ、ひとつの国になるのは抵抗があるだろうから。
 友好国という形にしてでも、みなをひとつにまとめ上げたいのだ。

 お前たちは自分たちが起こす諍いを、所詮、小さないくさだと思っているのかもしれないが。

 小さな戦も大きな戦も人が傷つき、先人たちが築き上げてきた街が破壊されることに変わりない」

 そこで、いきなりアイリーンが立ち上がった。

 ……なんか怒ったかな、と思ったが、アイリーンはこちらに向かい、深々とお辞儀をする。

「申し訳ございません。
 そのような深いお考えあってのことだったとは。

 私、喜んで、ここで人質として過ごしていこうと思います」

「いや、別に姫たちは人質というほどのものでもない。
 それぞれ楽しくやってくれたのでいいのだ。

 気に入った者がいたら、婚姻してくれても構わない。
 彼女らが、国同士が手を組む道具とならずにいてくれるのなら」

「王様は立派な方ですね」
とアイリーンに言われ、ちょっと嬉しくなってしまった。

 うっかり、この大陸の未来について語り合ってしまう。

 おかげで、なにもいい雰囲気にならなかった。

 ……なんのために私はこんな遠くまで来て、崖を這いのぼったのだ。
 今度から、寝る前に振る話題には気をつけよう。

 そうエルダーは誓った。




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