ここは猫町3番地の1 ~雑木林の骨~

菱沼あゆ

文字の大きさ
8 / 15
雑木林の骨

その女はお前の上司ではない

しおりを挟む

「はい、珈琲です」
と琳は頼んだ珈琲を出してくれながら、渋い顔をする。

「なんでもいいって言ったのに、普通の珈琲なんですね」

「俺はシンプルなものが好きなんだ。
 ゴテゴテいろいろ入った珈琲より、味がよくわかっていいだろう」

「あんまり、よくわかって欲しくないんですけどね~」
と言う琳に、だから、此処はなに屋だ……と思った。

「シンプルな方がよくわかると言えば、すごい深いところから汲み上げた水を使ってる喫茶店に行ったことあるんですよ~。

 ああいうのって、いいですよね」

 ココアが美味しかったです、という琳に、

 ……それ、水関係なくないか? と思った。

 ココアなら、牛乳と生クリームだろうが。

「此処も地下掘ってみようかなあ」
と呟く琳に、

「やめろ」
と言う。

「俺か佐久間が穴を掘らされているところしか思い浮かばないんだが……」

「やだなあ、業者の人に頼むに決まってるじゃないですかー」
と琳は笑う。

 まあ、庭も業者に丸投げらしいからな、と思いはしたが。

 何故か頭の中では、狭く深い穴の中に居るのは、自分と佐久間だった。

 ワイシャツを腕まくりして、泥まみれになりながら、木の桶で水をすくっては地上に連携プレーで持ち上げていた。

「……絶対やめろ」

 だからなんでですか……という顔で琳が見たとき、
「お疲れ様ですーっ」
とまるで職場に戻ってくるかのように佐久間がやってきた。
 


「科捜研が行った骨への紫外線照射により、白骨死体のぬしは、四~五年前に死亡していたことがわかりました」

 佐久間はカウンターに座り、手帳を見ながら、琳にそう報告していた。

 この女がお前の上司か、という勢いだった。

「……おい、佐久間。
 部外者にペラペラしゃべっていいのか」
と横に座る将生が言うと、

「だって、雨宮さん、第一発見者ですから。
 ご意見を伺わないと」
と言ってくる。

 いや、第一発見者はお前だ……と思っていると、佐久間は、

「僕は今、宝生さんにも報告してたんですよ」
と言い訳のように言い出した。

 いや、お前、今、完全に雨宮の方だけ向いてただろうがっ。

 二人が揉めている間、琳は小首を傾げ、林の方を見ていた。

 庭の柵も垣根も低いので、店内からでも、雑木林がよく見える。

 そんな琳を見ていた佐久間が言い出した。

「此処から死体が埋まっていた雑木林がよく見えますね。
 もしかして、犯人は此処から、いつも死体を見張っていたりして……。

 雨宮さんっ」

 はっとしたように佐久間が言う。

「頻繁に此処に通ってきている人間は居ませんかっ」

 琳が無言で自分を指差してきた。

「俺じゃないだろっ」
と将生は立ち上がる。

「っていうか、俺、佐久間より通ってるかっ?」

 そう怒鳴ってみたのだが、二人は、うんうん、と頷いている。

 まあ……、佐久間よりは定時に帰れることも多いから、通っているかもしれないが、と将生は浮かした腰を下ろした。

「だが、まあ、待て。
 俺が一番通っているとしてもだ。

 俺は林の方など見ていない」

「いっつも雨宮さんの方しか見てないですよね~」

 ぼそりと余計なことを言ってくる佐久間の足を踏んでやろうかと思ったのだが、佐久間は察知していたかのように、反対側に足を向けていた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...