ここは猫町3番地の1 ~雑木林の骨~

菱沼あゆ

文字の大きさ
12 / 15
雑木林の骨

では、推理してみよう

しおりを挟む

 今、この店内に犯人が……?
と思いながら、将生は店内を見回した。

 入り口付近に陣取っているOLの集団。

 雑木林とは反対側の窓際の席で、イヤホンで曲を聴きながら、ノートパソコンでなにかを打っている男。

 ウォーキングの格好の年配の夫婦。

 そして、雑木林側の窓際で、カレーを食べながら、雑誌を見ている若い男。

 ……どうでもいいけど、美味そうだな。

 先程から、珈琲の匂いをかき消すほどのカレーのいい香りがしている。

 その視線に気づいたのか、琳が、
「カレー、ご馳走しましょうか?」
と言ったあとで、すぐに、佐久間さんも、と言う。

「えっ? いいんですかっ」
と佐久間が身を乗り出す。

 脱線するな、と思いながら、
「……お前の思う疑わしい人物が、今、この店内に居るんだな?」
と琳に言った。

 うっかりその人物と目を合わせてしまわないために、あまり顔を上げないでいるのだろう。

 はあ、と琳は曖昧に返事をしてくる。

「でも、困りましたね。
 先程も申しましたように、私、お客様の秘密は暴かない主義なので」

「待て。
 じゃあ、この店の客になったら、犯人だとわかっても、告発しないということか」

「……そういうことになりますよね」
と困ったように琳は言い出した。

「……仕方がないな。
 お前が疑うに至った状況を説明してみろ。

 俺が推理してやろう」

 確かな主義主張を持って仕事をするのは悪いことではない。

 琳にそれを曲げさせるのも悪いような気がして……

 というのも、よく考えたら、おかしな話なんだが。

 とりあえず、琳が気がついたこと、というのを聞いてみることにした。
  


「実は以前ですね……」
と琳は何故か前のめりになり、コソコソと言ってくる。

「すごい花が庭にあったことがあるんですよ」

「すごい花ってどんな花だ」
と将生もつられ、身を乗り出して、小声で聞いた。

 琳の前髪が自分の前髪に触れそうになり、どきりとする。

 それを見ていた佐久間が、
「あ、なんなんですか。
 僕も入れてください」
とよくわからないまま、頭を突っ込んできた。

 今、入ってきた客が居たら、なんなんだ、この店は……と思われることだろう。

「庭にあったって。
 そういえば、お前が植えてるわけじゃないんだろ? 此処の庭」

「そうなんです。
 業者の人が管理してるんですけど。

 他所よそに納入する予定が、いらなくなったから、次が見つかるまで、ちょっと置かせておいてくれって言われたんですよね~」

 たまに不思議な植物を置いていくんですよね、と眉をひそめる琳に、

「怪しい植物を密輸してるんじゃないだろうな、お前んちの庭師」
と言うと、

「いえいえ。
 そういうわけではないんですが」
と笑う。

「で、業者の方が、そこの雑木林側の窓の外に、簡易の温室みたいなのを作って、サイコトリア・エラータを並べてたんですよ。

 きっとお客さんも面白がるよって言って」

「サイコトリア……?」


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...