2 / 43
月末までに、お前を払ってもらおう
私の夫はどの人ですかっ
しおりを挟むいや、来いと言われた月末まで、まだ時間あるんだが……。
真珠は谷中に借りている古い一軒家で縁側の朝顔を眺めつつ、旅の支度をした。
なんでも世界一とかいうドバイか~。
金持ちが多く、近未来都市みたいな感じで。
ちょっと怖いイメージだ。
桔平がドバイから迎えに来ると言うので、大丈夫です、と返したが。
三日後ならちょうど仕事で日本に来るというので、連れて帰ってもらうことにした。
ちなみに、真珠の代わりのパートの人はすぐに見つかったようだった。
今度はどんな人が天丼盛り付けてるんだろうな、と思いながら、真珠はスーツケースを手に成田へ向かう。
成田の第二ターミナルで待ち合わせをしていた真珠はちょっと困っていた。
大勢の人が行き交う中、おのれの夫がわからない。
有坂桔平とは、慌ててコンタクトを忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていない。
……私の夫はどの人ですかっ。
真珠は、それっぽい男性を次々見つめてみる。
たまたま視線の合った男の人たちは見知らぬ女性が熱く見つめてくるので、ビビったり、照れて俯いたりしていた。
「なにやってんだ、ナンパか」
とよく響くいい声が冷ややかに呼びかけてきた。
振り返ると、スーツのよく似合う、鼻筋の通ったイケメンが立っていた。
今、見つめてしまった男性陣の誰より華があり、整った顔をしている。
知的な目許に、人を惹きつける声と話し方。
この若さでホテル王と言われるだけのことはある、と真珠は思った。
「有坂桔平さんですか?」
まず、間違いないと思いながらも、確認のために訊いてみる。
相手は一瞬、沈黙した。
だが、すぐに、ああ、と言う。
「よかった~っ」
と真珠は安堵し、微笑んだ。
「すみませんっ。
一度しかお会いしてないので、顔がわからなくて」
「そうか。
俺もお前がウエディングドレス着てないからわからなくてな。
それらしい年と背格好で、人を探している風だったから、声をかけただけだ」
突き放したような口調で無表情に桔平は言う。
いや、ここでウエディングドレス着てたらビックリですよね~、と真珠は思っていた。
結婚式でコンタクトしてなかったから、夫がわからない妻と。
ウエディングドレスを着ていないと妻かどうか、わからない夫。
……どうなんだろうな? と自分で思ったとき、色白で明るい髪のハーフっぽい男がやってきた。
桔平と同じくらいの長身だが、桔平より線が細い感じがする。
「未島さん」
と真珠は、ホッとし、彼に呼びかけた。
桔平の秘書の未島侑李だ。
「お前、俺はわからないのに、侑李はわかるのか……」
と桔平が言う。
侑李は桔平の家の執事の息子だと聞いた気がする。
幼なじみのようなものなのだろう。
「だって、あなたとは一度しかお会いしてませんが。
未島さんは打ち合わせに何度かいらっしゃったので。
よかった。
未島さんも一緒なんですね」
知っている人がいるだけで、なんか安心だ、と思ったのだが。
「飛行機では離れてしまいますけどね。
私はビジネスなので」
そう侑李は笑って言う。
「一緒にファーストクラスにしろと言ったのに」
と言う桔平に侑李は、
「いえ、落ち着きませんので、新婚さんと一緒だと」
と言ったが。
まあ、幼なじみとはいえ、上司。
離れてゆっくりしたいのかもしれないなと思った。
っていうか、新婚さんって、結婚したのは五年前なんだが……。
では、ドバイで、と微笑み、侑李はいなくなってしまった。
いや、同じ飛行機なんじゃないんですか。
いいじゃないですか、まだ一緒にいても。
気を利かせているのでしょうか。
利かせなくていいんですが、と思いながら、真珠は、ちょっと寂しく侑李を見送る。
騒がしい空港に、桔平と二人きり。
……なんか困ったぞ、とチラ、と桔平を見上げてみたが、桔平は視線も合わせず言ってくる。
「時間はまだある。
ラウンジで少し休むか」
すっとスーツケースを持ってくれた。
4
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
課長のケーキは甘い包囲網
花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。
えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。
×
沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。
実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。
大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。
面接官だった彼が上司となった。
しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。
彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。
心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!
まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。
人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい!
そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。
そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。
☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。
☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。
☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。
☆書き上げています。
その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる