ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ

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月末までに、お前を払ってもらおう

無防備になってもいいんじゃないですか?

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 桔平は、寝るか、そこで、といつの間にか寝ている真珠を見下ろした。

 危険なやつだ。

 やはり、侑李について来させなくてよかったと思った。

 男が側にいるのに、こんな無防備に寝るなんて、と侑李に言ったら、

「あなた、夫なんで、別に無防備になってもいいんじゃないですかね?」
と言ってきそうなことを思う。

 寝返りを打った真珠が、ぎゅっと自分の腕に、ひっついてきた。

 桔平は、そんな真珠を見下ろし思う。

 ……こいつはおそらく。

 俺の体温を求めて来てるな。

 桔平は無駄に勘がよかった。

 そこは、こいつ、俺に気があるんじゃ、と勘違いした方が進展したのかもしれないが。

 残念ながら、桔平はこんなときも冷静だった。

 まあいい。

 人は物理的に温かい人を心も温かいと判断し、警戒心を解くというからな。

 それにしても、ちょっと冷えてきたようだ、と桔平は冴え冴えとした月を映す海を見る。

 吹き付ける海風がひんやりしはじめていた。

 風邪ひきそうだな、と思った桔平は真珠を抱き上げ、ベッドに連れていった。

 キングサイズのベッドは美しい白いモスキートネットで覆われている。

 真珠を寝かせ、ふたたびネットを下ろすと、その向こうで眠る真珠は昔、絵本で見たお姫様のように見えた。

 ……まあ、起きて、阿呆な話をはじめなければなんだが、と思いながら、桔平は別のベッドルームに行き、ひとり眠った。



 阿呆な妻の話を聞いたせいか、夜、ヴィラから外を見ていると、その辺の葉っぱの陰から、のそっと前足を出し、ライオンが歩いてくる夢を見た。

「真珠っ」
と妻を逃がそうと振り返ると、モスキートネットの向こうの真珠はベッドの上で小さなライオンと遊んでいた。
 


 朝、ふかふかのベッドで真珠は目を覚ました。

 潮の香りと枕許に置かれたキャンドルの甘いバニラの香り。

 ……そういえば、私、有坂さんとハンモックで寝なかったっけ?

 起きて窓から覗いてみたが、水上ハンモックには桔平の姿もなかった。

 有坂さんが運んでくれたのかな、と思いながら、真珠は桔平を探してみる。

 桔平は奥のベッドルームで眠っていた。

 カーテンも窓も開いたままで、高くなった日が容赦無く差し込んでいるが。
 桔平はぐっすり眠っていた。

 寝ていても乱れなく整っている顔を眺めながら真珠は思う。

 お疲れのようなのに。
 なんでわざわざここまで来たんだろうな~。

 私を呼んだ手前、相手してやらないといけないと思ってくれているのかな?

 でも、そろそろ起こさないと仕事だよね。

 仕事、何時からなんだろ?

 モルディブの方がドバイより一時間早いけど、それにしても、そろそろ……と思ったとき、パチリと桔平が目を覚ました。

 一拍置いてスマホの目覚ましが鳴る。

 むくりと起き上がった桔平はそれを止めながら、
「鳴る直前にいつも目が覚めるんだ」
と言う。

「じゃあ、目覚ましかけなくてもいいんじゃないですか?」

「いや、たぶん、目覚ましをかけることで暗示になってるんじゃないか? おや」
と桔平はスマホを覗き込んだ。

「後輩が彼女を追っていこうと思ったら、彼女の方が移動したらしい。
 何処に移動したのか、知り合いに訊いているところだそうだ」

「そうなんですか」

「頑張れと送っておこう」
と言いながら、メッセージを打っている。

 意外と後輩思いだな、と思ったとき、真珠は自分のスマホにもメッセージが入っているのに気がついた。

「あんた飛行機に乗ったって言ってたけど、今、何処?」

 佳苗だった。

 そのとき、
「真珠、支度しろ。
 朝食が来たぞ」
と桔平が窓の外を見ながら言ってきた。

 なるほど。
 指定していた朝食の時間になったらしく、スタッフの人たちが大きな籠やトロピカルなドリンクなどを運んでくるのが見えた。

「行くぞ」

 あっ、はいっ、と急いだ真珠は、
「今、島です」
とだけ打って返した。


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