ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ

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月末までに、お前を払ってもらおう

真珠、大いに語る

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 真珠は無事にやっているだろうか。

 不安になりながら、桔平は仕事を終えた。

 真珠たちとはホテルの中のレストランで待ち合わせている。

 桔平が今建設しているホテルと同じく、そのホテルのだけのための人工島に建っている七つ星ホテルだ。

 七つ星は自称なのだが、そこに異論を唱えるものは誰もいない。

 ほんとうに世界一豪華なホテルだ。

 セキュリティもしっかりしていて、ホテルの宿泊客か、レストランやスパの予約客でないと入れない。

 うちがオープンしたら商売敵ではあるのだが。

 いいものはやはりいいな、とつい、職業病で、人工島に渡る橋の辺りからマジマジと観察してしまう。

 ロビーで真珠たちと合流した桔平は、潜水艦を模したエレベーターでレストランへと向かった。

 レストランは海底をイメージした空間になっていて。

 巨大水槽には、美しい魚や海亀などか泳いでおり、青い光とハープの音が店内を満たしていた。

 そんな中、真珠は大興奮なまま昼間の冒険を語る。

「ドバイフレームに行ってきたんですよっ」

 それは俺がお前を連れていこうと思ってたところだな……。

 巨大なドバイフレームのスカイデッキにはビックリするくらい長いガラスの床があって、150メートル下にある地上が見える。

「端から端まで歩いてみましたが、めちゃくちゃ怖かったですっ」
 そう言いながらも、真珠は楽しそうだった。

「アトランティスにも行ってきましたっ」

 それも俺が連れて行きたかったスポットだな……。

 パーム・ジュメイラにある海に沈んだアトランティスを再現したホテルに行ってきたようだ。

「ほんとうに古代遺跡の中を海洋生物が泳いでるみたいですごかったですっ」

 ……そうか、それはよかったな。

「イルカの水族館に行って、イルカも見てきましたよ」

 侑李も楽しそうに言い、お土産です、と小さな絵を渡してくる。

 カラフルだが、幼稚園児が適当に描きなぐった感じの絵だ。

「イルカが描いたんですよ」
と二人同時に言う。

「イルカショーのオークションで買ったんだな。
 そんなもの高額な値で競り落とすやつは何処のどいつだと思ってたんだが……」

 ここに莫迦がふたり……と桔平は真珠たちを見て呟いたが、二人はそれでも笑って、楽しそうだった。

 旅と観光のハイテンションで二人で金を出し合って買ってしまったようだ。

「……まあ、ありがとう」
と桔平はその絵を鞄にしまった。

 だが、
「それで、ドバイ・ファウンテンも見て……」
と言いかけた真珠の話を、

「待て」
と桔平は止める。

「なんで、俺とじゃなくて、お前たち二人で、ここぞというスポットで思い出を作ってくる」

 そのとき、後ろから、いかにも実業家な恰幅のいい男が桔平に話しかけてきた。

 桔平は驚き、急いでアラビア語で挨拶をする。

 彼は侑李とは面識があるので、真珠の方だけ紹介した。

 真珠はアラビア語はわからないのだろうが、ニコニコして上手く合わせてくれていた。

 少し話をすることになり、真珠は彼の席にいた奥さんと子どもたちの方に行く。

 向こうはもうデザートも終わっていたらしく、子どもたちは退屈そうだった。

 真珠は土産に買っていたのか、美しい色の絵本を取り出すと、子どもたちに読み聞かせはじめた。

 奥さんはそれを笑顔で見つめている。

 ……あいつ、アラビア語の本読めたのか?

 それとも英語で書いてあるのだろうか。

 話は終わったが、男は少し侑李と競馬の話をしていた。

 桔平は興味がないので、
「奥様とお子さんたちの様子を見て来ますよ」
と言って、立ち上がる。

 真珠が手にしていた絵本は装丁はアラビア風で美しいが、やはり英語で書かれているようだった。

 青い光に包まれた店内。
 すぐ側を泳いでいるサメや魚たち。

 読み聞かせる真珠はその幻想的な光景の中でもとりわけ美しく。
 熱心に聞いている子どもたちの様子も微笑ましかったが。

 近くに行って初めて、なにを語っているのかわかった。

「なに生々しいアラビアンナイトを読み聞かせてるんだっ」
と本を奪う。

「大ウケですよ」

 絵本とかだと綺麗でいいですよね、アラビアンナイト、と真珠は言う。

 真珠が読んでいたのは、絵本のように挿絵が多いだけの、子ども向けでない艶っぽいアラビアンナイトだった。

 ……よく奥さんニコニコ見てたな、と思う。

 まあ、真珠が一生懸命子どもたちの相手をしてくれているのが嬉しかったのかもしれないが。


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