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スークと砂漠に行きました
吊り橋効果ですよっ
しおりを挟む一時間ほど街から走ると砂漠だった。
何台もの車が連なって砂漠を走る。
真珠は後ろを振り返り、驚いた。
「砂漠の向こうにすごいビルがいっぱい建ってますよ~。
不思議な感じですね。
火星にいきなり、都市が現れたみたいな……」
そこから真珠たちが乗った車は結構な傾斜の砂丘を疾走しはじめた。
ドライバーの腕がいいので、そんなに怖くはないが、なかなかのスリルがあった。
激しく揺れたとき、桔平に捕まりそうになってしまったが踏ん張る。
「いや、なんでそこで踏ん張るの……」
と言う侑李の声が聞こえた気がしたが。
いやだって、社食でいつも天丼を頼むおじさんよりも顔を合わせる機会の少ない夫の腕をつかむとか恥ずかしすぎる……と真珠は思っていた。
あまりに激しい揺れに同乗していたスペイン人家族と盛り上がる。
桔平が横で、
「全然お互い言葉通じてないだろうにな……」
と呟いていた。
こっちは日本語、向こうはスペイン語で叫んだりしゃべったりしていたからだ。
だが、言っていることはわからなくとも、表情や雰囲気で伝わってくる。
「やっぱりあれですね。
ピンチを共にすると、仲が深まりますよねっ。
吊り橋効果ですよっ」
と真珠が叫ぶと、桔平は自分と真珠との間に空いた微妙な空間を見ながら、
「俺とお前の間には吊り橋はないのか……?」
と呟いていた。
途中ガゼルの群れに出会ったりしているうちに、車が止まった。
「どうぞ、みなさん、シャッターチャンスですよ」
と言われ、砂漠で車を降りる。
砂漠に沈んでいく夕日は圧巻で、みんな、これを誰かに見せたいと必死に写真に収めた。
ちょうどラクダに乗った別のツアーの人たちが横切っていったので。
並ぶラクダの影が砂漠に伸びている、いい感じの写真が撮れた。
あとで、みんなに送ろう、と真珠も思う。
「あっ、そうだ。
有坂さん、撮ってあげますよ。
そこ立ってください」
と真珠は桔平を夕日の前に立たせる。
真珠がスマホを覗いていると、砂漠に沈みゆく夕日を背にした桔平は、何故かいきなり、ふっとやさしく笑った。
……なんなんですか、その表情。
格好いいではないですか。
前の職場で写真とか売りさばいたら、すごく売れそうですよ、と、
「いや、夫の写真を売りさばくな……」
と言われそうなことを思う。
桔平はずっと遠く離れた場所にいた妻が今、一生懸命、前屈みになったり、妙なポーズをとったりしながら、自分をいい感じに撮ってくれようとしているのを見て、微笑ましくなり、笑ってしまったのだが。
もちろん、真珠はそうとは気づかなかった。
さっきのスペイン人家族が、真珠と桔平に、写真を撮ってあげようと言ってきた。
真珠は緊張しながら、桔平と並んで写真を撮ってもらう。
それから、彼らの写真も撮ってあげた。
「連写してるぞ、真珠っ」
と桔平に怒られながらも。
「す、すみません、すみませんっ」
貸せっ、と桔平がスマホを受け取り、取り直していた。
スペイン人家族はなにか言って笑っていた。
真珠もなんだかわからず、雰囲気に合わせて笑う。
「スマホ、大丈夫か?」
と桔平が訊いてきた。
「細かい砂にやられますよ、とさっき教えてもらったが、わかってなかったろ」
「あ、さっき言って笑ってたの、それだったんですか」
そう真珠は言ったが、
「いや、あれは違う」
と桔平は言う。
「なんて言われてたんですか?」
わからずに適当な返事するなよ、という顔をしたあとで、桔平が、
「楽しいご夫婦ですねって言われたんだ」
と言う。
「……夫婦なんて名乗りましたっけ?
同じ苗字だったからですかね?」
「兄妹でも苗字同じだろ」
顔が似てないじゃないですか、と言いながら、また車に乗り込む。
ひーっ、すでに砂だらけ、と思いながら。
「探検隊みたいな格好で間違いなかったです」
「ビーチサンダルの探検隊いないと思うが……」
砂漠はビーチサンダルの方がいいと言うので、桔平が買ってくれていたビーチサンダルに履き替えていた。
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