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王都とチョコレート④
「ありがとう、リヒト。すごく嬉しい」
フィンは照れ笑いを浮かべながら、心から嬉しそうにリヒトに笑いかけた。
「……お店ごと買おうか?」
店を出たリヒトは、フィンの笑顔を見て心臓に強い衝撃を受け、こんな笑顔を見られるならと店の購入を検討する。
「そ、そこまでしなくていい!極端だよもう」
フィンは店を眺めるリヒトの手を引き、慌ててその場からリヒトを離すように引きずった。
「俺は元来、かなり慎重な方なんだけど、君のことになると……そうはいかないようだね。大好きだよフィン。君のためなら何だって与えたい」
リヒトの突然の愛の言葉に、フィンは真っ赤な顔で俯きながら前を歩く。
リヒトを引っ張っていた手が、いつの間にか手を繋いでいた事に気付いたリヒトは、その手を優しく握り返した。
「あの……」
「ん?」
「お願いがあって」
フィンは路地で立ち止まり、少し照れた顔でリヒトを見上げる。
「どうしたのかな」
リヒトはキョトンとした顔でフィンの言葉を待つ。
「チョコレート、全部違う味だから……毎日一つずつ、半分こして一緒に食べて欲しいんだ」
フィンの小さな声で紡がれたお願いに、リヒトは目を細める。
「構わないけど、どうしてだい?」
リヒトは即答で承諾するも、理由が気になり首を傾ける。
フィンは過去を思い出すように寂しそうな表情で口を開いた。
「えと……もうかなり前の話なんだけどね。お母さんが死ぬ前、小さなチョコレートをくれて。僕はお母さんにも食べて欲しくて、一緒に食べようって言ったんだけど、お母さんは僕に全部くれて。次は一緒に食べようねって約束したんだ」
ピタリとフィンの足が止まる。
「それなのに」
フィンは、魔物に襲われて原型を留めていなかった両親の死体を思い出す。目の瞳孔が開き、少し呼吸が早まった。
明らかに様子がおかしい事に気づいたリヒトは、慌ててフィンを抱き締め頭を撫でる。
「……それ以上は言わなくても知ってる。大丈夫、大丈夫だから、フィン」
アカシックレコードは本人とシンクロして過去を視る能力のため、リヒトはその結末を知っていた。
リヒトの呼びかけに、フィンはハッとした表情で我を取り戻す。
「ご、ごめん!えと、だからつまり、えっと」
フィンはその場を取り繕って笑顔を見せる。
「食べよう」
「え……」
リヒトはフィンからチョコレートの袋を取ると、箱から一粒チョコレートを出す。
「今日の分、食べよう、フィン」
リヒトは摘んだチョコレートをフィンの口元に持っていき、ニコリと笑みを浮かべる。
「……」
フィンは小さい口で半分齧ると、リヒトはその残りを頬張る。
口の中に広がるのは、甘酸っぱいイチゴとビターチョコレートの風味。
「「いちご」」
2人は同時に味を言うと、お互い顔を合わせて自然と笑った。
「初めて食べる味だ。チョコレートに興味はなかったが、君のお陰で好きになったよ」
「……うん、美味しい!これからしばらくこんな美味しいチョコレートが毎日食べれるんだぁ」
フィンは、ふわりと柔らかく笑みを浮かべながらリヒトを見上げた。
歩きながらチョコレートの味について話していた2人だが、リヒトがふとフィンを見ると、大粒の涙を流している事に気づく。
「フィン」
名前を呼ばれると、急いで涙を拭うフィンだったが、自分でも抑えが効かないのか、ぽろぽろと溢れて止まらない。
「ごめんなさ、色々思い出しちゃっただけ、へへ……こんな風に、美味しいものを誰かと共有できて、嬉しいなって思ったら、なんか、勝手に……っ何でだろう」
チョコレートを引き金に母親を思い出し、そこから色々と思い出してしまったフィンは、感情が入り混じり勝手に涙が溢れて止まらなかった。
リヒトはフィンの涙を優しく拭い、心配そうに見つめ口を開く。
「……君は独りじゃない。今日からは毎日チョコレートを一緒に食べるんだよ。無くなったら次は別のものを買って、それを繰り返すんだ」
リヒトはフィンをお姫様だっこし、周囲の目を気にせず家路へと急ぐ。
「美味しくても、不味くても、それを共有して俺と会話をしよう。毎日だ。約束する」
リヒトはそう言いながらフィンの額にキスをすると、ミスティルティン魔法図書館の扉を開き自室へと繋げた。
「うっ……うぅ、ひぐっ……り、ひと」
フィンはリヒトの言葉に、余計に涙を流し嗚咽する。リヒトの服をぎゅっと握って自分の顔をリヒトの顔に押し付け涙を隠した。リヒトを呼び、溢れる感情を涙に変えて必死に呼吸をする。
「ここまでよく頑張ったね、愛しいフィン。これからは俺が守ってあげる。愛してるよ。」
フィンをそっとベットに寝かせたリヒトは、そのままリヒトに優しく口付けをする。
何度も繰り返し口付けをしているうちに、フィンの顔は紅潮し蕩けていく。
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