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シュヴァリエ家の言い伝え④
「……リヒトはね、イザックと同じだったのよ」
エヴァンジェリンは、昔を思い出すように郷愁に駆られ、話を続けた。
「え……」
フィンはタルトを食べる手を止め、真剣にエヴァンジェリンの話を聞く。
「リヒトは、生まれた瞬間から騒がれててね。歴代最強のイザックと同じ、宝石見たいな碧眼で産まれたもんだから、大魔法師の再来だーっ!て。私も飛び跳ねて喜んだわ。それはもう本当に天才で、私に似て美形だからモテまくり」
「(じ、自分で言ってる!でも本当のことだ……)」
フィンは、リヒトと初めて会った時、開口一番に「きれい」と言ったことを思い出し顔を赤らめる。
「でも、リヒトは恋をしなかったの。出来なかった、と言うべきかな。家族に対する愛情はあるけど、イザックのように、恋人にしたいという感情を、少しも他人に持つことが出来なかった。制約を受けていたのよね」
「え……」
フィンは、愛を囁くリヒトしか知らないため、そのエピソードに驚きを隠せなかった。
エヴァンジェリンはフィンの頭を撫でながら話を続ける。
「あの子がそうね、15の時かしら。イザックの伝記を読んで、自分と全く同じだと気付いてから、イザックが編み出した魔法を試し出したの。それで、誰も住んでいなかったこの屋敷を改装して、1人で住むようになった。もうびっくりよ」
エヴァンジェリンは思春期のリヒトを思い出し、深く溜息をつく。能力が高い分、周りに対しても見下した態度を取っていた時期があったからだ。
「自分は天才、イザックを超えるためにやってるだけって言ってたけど、きっと本心は、イザックと同じだったのよね。誰かを心から愛したいって気持ちがあったのかしら。天才は孤独って言うじゃない?家族だけじゃ埋められないのよね、その穴は」
エヴァンジェリンは飛びっきり優しい顔でフィンを見つめる。
「でも良かった……貴方が現れて。あの子をよろしくね、フィンちゃん」
エヴァンジェリンはフィンに横から抱き付き、涙を浮かべながら頬擦りをした。
「っは、はい、僕の方こそ、感謝してるんです……奴隷だった僕に良くしてくれて、優しくしてくれて」
フィンは、そう言ってエヴァンジェリンにはにかむと、エヴァンジェリンはきゅんっと心臓を高鳴らせる。
「(リヒトが惚れる訳ね……可愛いもの……甘やかしたくなる~!!)」
エヴァンジェリンはふと、フィンの腕を見る。見覚えのある腕輪が身に付けられている事に気づき、目を見開いた。
「あら、その腕輪。なるほど、ベルが鳴ったのは、リヒトの魔力がその腕輪に籠ってるからかしら?それ、シュヴァリエ家の当主にしか引き継がれない魔宝具ね」
「えっ…………!」
フィンは腕輪をまじまじと見つめて、青い魔石をじっと見つめる。
「それも説明も受けてない?」
エヴァンジェリンは驚いた表情でフィンに問いかける。
「えっと、僕を守ってくれるとは言ってました」
フィンは思い出したようにそれを伝えた。エヴァンジェリンはやれやれと軽くため息をついて、フィンに向き直り人差し指を立て口を開く。
「まあ簡単に言えばそうだけど。それ、イザックが残した魔宝具で、魔力を共有出来る物よ。元々魔力があまりなかった運命の恋人に贈った物らしいわ。売ったら金貨何千枚かしらねー」
「ひっ……」
そんな高価な物をつけているのか、とフィンは青ざめた顔でエヴァンジェリンを見つめた。
「そ・れ・と。貴方が怖い思いをすると、リヒトにそれが伝わるようになっている。何処にいても駆けつけることが出来るように、ね。共感性の魔法よ、改めてすごい代物だと思うわ……」
「そう、なんですね……!?」
リヒトがどれだけフィンを心配しているかが分かり、エヴァンジェリンはクスッと笑みを浮かべる。あの堅物で孤独な天才が、他者への愛に目覚めたというのは喜ばしい事だ。
「ねぇ、フィンちゃん」
「はい」
エヴァンジェリンの呼びかけに、フィンは首を傾ける。
「リヒトのこと、好き?」
エヴァンジェリンの問いかけに、フィンはドキッと心臓を高鳴らせ、顔を赤くする。
「そ、そのっ……僕も、恋とか、よく分かんなくて」
「(フィンちゃんっていくつなのかしら?)」
フィンはぎゅっと膝を握って目をぎゅっと閉じた。
「でも、初めて会った時に、心があったかくなって、そのままリヒトの腕の中で寝ちゃったんです、僕。何だかその時、すごく幸せで」
フィンから紡がれる言葉に、幸せが織り込まれている事に気付くエヴァンジェリン。
「それに!その……チョコレートも一緒に食べてくれるって……もう独りじゃないよって言ってくれて、たくさん抱き締めてくれて!」
フィンはパッとエヴァンジェリンを見て必死に想いを語る。
「ドキドキする?」
エヴァンジェリンが核心を突く質問をすると、フィンは顔を真っ赤にして一度頷いた。
「かっ可愛い……!!!」
エヴァンジェリンは堪らずフィンに抱き付き、またもや頬擦りをする。フローラルの上品な香りがブワッと広がり、フィンはリラックスした表情を浮かべた。
「私はもう貴方の大ファンよ!!!リヒトのことで困ったことがあったら、絶対に私に言ってね!!いい!?」
エヴァンジェリンはフィンの肩を掴み真剣な表情をする。
「は、はい!(こんなお姉ちゃんがいたらいいなあ~)」
フィンはふにゃっと柔らかく笑みを浮かべ、エヴァンジェリンの手をふにゃっと優しく握る。
「(かっ可愛い可愛い可愛いー!!)じゃあ早速契約を……」
「!?」
“シュヴァリエ家の家訓は“裏切ること勿れ”。契約を重視する家柄だよ”
フィンはリヒトの言葉を思い出し、さすがシュヴァリエ家だ、と内心思うのであった。
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