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浮世離れな天才①
しおりを挟む「見えるかい?あれがミネルウァだ」
箒に乗って十五分ほど経つと、リヒトはぼんやりと光る場所を指さす。
西の森の中心、少し高い丘に豪奢に聳え立つ「ミネルウァ・エクラ高等魔法学院」は、魔力の色が具現化されオーロラのように光が満ちていた。
「わぁ……!」
フィンは初めて見る光景に、目を輝かせる。何度も繰り返し夢見た、光り輝く魔法学院。パンフレットは擦り切れるほどに眺めた。
「副学長は俺の友人だから、話をしてみよう。少し癖はあるが、良い奴だ」
リヒトの提案に、フィンは目を丸くし振り返る。
「えっ」
「ん?」
リヒトは「どうかした?」と言いたげな表情で首を傾げる。
「う、ううんっ……(ミネルウァ家と友人って、すごいなぁ)」
忘れかけていたが、リヒトは王国でも少数の公爵家の当主。なおかつ大魔法師という王家に継ぐ偉い地位を持っている。
周囲の者が自然と高い地位を持つ者ばかりになるのは、必然だろう。
リヒトはそのまま学院の門の近くに降りると、箒を杖に戻し、フィンの乱れたアスコットタイを丁寧に直した。
「ん。可愛い」
リヒトはそう言ってフィンの額にキスをすると、手を繋ぎながらミネルウァの閉じた門の前に立つ警備兵に声をかける。
「夜分遅くにすまない。副学長にお目にかかりたいのだが」
リヒトはすっかり“シュヴァリエ公爵”としての顔になり、威厳ある態度で警備兵を睨む。
夜の訪問者とあってか、一瞬警戒する二人の警備兵だったが、王都で大魔法師を知らない者はいない。
「「……シュヴァリエ公爵!?」」
「ああ、名乗るのを忘れていた。リヒト・シュヴァリエだ」
リヒトは凛とした表情で名乗ると、警備兵は敬礼をし冷や汗を流した。
「すぐに副学長の部屋へ案内します……!しかし、本人確認と言ってはなんですが……」
警備兵の一人がそう言うと、リヒトは察したように肩に手を置く。
「……名前はサイラー。朝ご飯はベーコンと焼いたトースト。昼ご飯は妻が作ったトマトとレタスとチーズが入ったサンドイッチ。夜はまだ食べていないが、1時間後の交代で今日のシフトは終わるため、同僚と三等地の居酒屋に行く予定だな。ちなみに昨日は愛人に会ってるか?娼婦かもしれないが」
「ご、ご協力ありがとうございます!!!(そこまで分かるのかよ!)」
瞬時にアカシックレコードで警備兵の過去を見たリヒトは、スラスラと個人情報を述べると、警備兵は冷や汗をかきながらすぐさま門扉を開きリヒトとフィンを通し、副学長がいる部屋の前まで案内をされる。
「副学長、シュヴァリエ公爵がお見えです」
「通せ」
中から低い声が返ってくると、警備兵は扉を開ける。
奥の椅子に腰掛けていた赤髪黒眼のハイエルフは、リヒトを目にすると立ち上がり軽く笑って出迎えた。
「久しいな。こんな時間にお前が尋ねるなんて何事だ……ん?」
リヒトの後ろにいたフィンを目視した赤髪は、目を丸くする。
「夜分にすまないエリオット。ちょっと相談があってな」
「あ、あぁ。とりあえず掛けろ」
エリオット・ミネルウァ。ミネルウァ・エクラ高等魔法学院の副学長を務める若き秀才で、自身も教授として魔法を教えている。
基本的に冷静で論理的な性格だが、リヒトが手を繋ぎ引き連れているエルフが一体何者か気になっている様子だった。
リヒトはフィンをチラッと見ると、フィンはおどおどしつつ、エリオットにぺこりと一礼する。庶民から貴族に対する礼儀作法だったため、エリオットは瞬時にフィンが貴族ではないことを察した。
「お初にお目にかかります、フィン・ステラと申します」
フィンがはにかむと、エリオットもつられて小さく笑みを浮かべる。
「宜しくフィン君」
リヒトは先にフィンを座らせると、自分もその横に座り、ニコッと笑みを見せる。簡単に笑わないリヒトを笑顔にさせているフィンに、エリオットは勘を働かせた。
「なるほど、アレクが言ってたのはこの子のことか?」
「もう聞いたのか。ああ、俺の恋人だ」
「本当だったんだな……」
エリオットは驚きつつもじっとフィンを見つめると、フィンは困ったような表情を浮かべる。
「?」
「あぁ、すまない。リヒトはこういう趣味なのかと思って」
「どういう意味だ」
「いや、ずいぶんと若い子じゃないか。12歳ぐらいか?」
エリオットは訝しげにリヒトを見ながら問いかけるが、リヒトは飲んでいた紅茶を気管に流しゲホゲホとむせ込む。
「馬鹿を言うなエリオット……」
「もうすぐで16です!」
フィンは落ち込んだ表情を浮かべるも、慌てて自分の年齢を伝えると、エリオットは驚きの表情を見せた。
「そ、そうなのか?すまない、もっと若く見えたんだが……エルフにしては発育が。160cmぐらいか?」
「は、母があまり大きくなかったようで……それに似たのかと……背は測ってないので分かりません」
「エリオット、俺は真面目な話をしに来たんだぞ」
リヒトはコホンと咳き込み、本題に入ろうと学院の封筒を手渡した。
「あぁそうだったなすまない。うちの封筒だな。どうした?まさか恋人だからって俺の学院に無理矢理入れさせようってか?」
エリオットは眉を顰め疑いの目でリヒトを見つめる。
「馬鹿かお前は……俺がそんなこと提案すると思うか」
リヒトはその後、すべての事情をエリオットに話すと、エリオットは盛大に溜息を吐いた。
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