昼と夜の間の女

たみやえる

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 玄関そばに置かれた自転車には見覚えがある。フレームには廣木の名前と住所が入ったシールが貼られていた。今時こういうのを貼る自転車屋は珍しい。個人情報がダダ漏れじゃないか、とも思うが、今回はこれのおかげで彼女を捕まえられる。結婚式で親族の席に座る彼女を見た時は心底驚いた。逃げられたくなくて友人代表スピーチは他の奴に代わってもらった。
 彼女が早くに結婚して廣木を生んだことも、廣木の結婚前に旦那と離婚したこともその時知った。人妻じゃないと分かれば、林の気持ちを遮る要素は何もなかった。
 廣木が遠慮のない動作でドアを開ける。人待ち顔の彼女が姿を現す。
 林は我慢できずに駆け寄った。玄関の三和土にひざまづき、彼女の手をとる。二人の呆気にとられた表情かおに口元が緩みそうになる。精一杯真剣な顔つきに戻して取り出した小箱の蓋を開けた。
 煌めく一粒のダイヤが麗しい銀の指輪に女が息を飲むのがわかった。サイズはあの夜触れた記憶だけを頼りに決めた。合わなければ直せばいい。
 不思議と断られる気がしなかった。


〈了〉






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