総務部人事課慰労係

たみやえる

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 すごい、王子様はなんでもお見通しみたい……っていうか、聞き間違いじゃなければさっき「僕たち双子ですよ……」って言ってなかった?!


 氷雨先輩がこんなに心を許した風に他人ひとと話すのって初めて見たし。津々木さんの口調も何気にくだけてたし? 課長が来たらいつものビジネスモードに戻っているけどさぁ……。


 うぅむ、と考え込む私の横で、

「ひとのこと、考えなしみたいに言うな」

と先輩は怪我した背中を後ろ手に押さえながら津々木さんに不貞腐れた表情を向けた。それにフンと鼻を鳴らして、
「考えなしでしょう。あなたは会社の長なんですから」

と、津々木弁護士。先輩は正論を言われて気分を害したのか、

「ちぇっ」

と、舌打ちした。でもすぐに「痛て……」と顔を顰める。氷雨先輩以外の私たち三人は慌てて先輩の手を取り腕を弾きながら課長が乗ってきた車に乗り込み、改めて病院に向かったのだった……。






 あれから五ヶ月。


 事故のことは(当たり前だけど)ニュースになって、煤影サンは逮捕され、テロまがいのことをした犯人として散々叩かれるんじゃないかって心配してたけど、そうはならなかった。


 あぁ、罪を免れたわけじゃなくて、ちゃんと逮捕されたよ。業務上過失なんちゃらっていう罪名だって。
 ことがことだけに実刑になるだろうってこの間聞いた。それでもさ、極悪犯扱いじゃないみたいだからほっとした。


多分だけど、マイケルが庇ったんだよね、煤影サンのこと。


 そういえば、私のこと心底怖がらせたあの鮫は実はライオン同様マイケルのペットだったんだって。マイケルは豪華客船の壁ぶち抜いてたっぷりと空間をとった部屋をこさえて、そこに恐ろしく大きなプールを作り鮫を飼育していたんだって。プログラマー(ということになっている煤影サン)のミスで蛇行運転し始めた船の中でプールに貯められた何トンもの水が振り子の役割を果たして、無理な改造を施した船の壁にストレスを与え発生した応力にこらえきれずに崩壊したとかなんとか。


 ……文系の私にはちんぷんかんぷんザマス。


 まぁ、死人が出なかったのと、莫大な費用のかかる大破した船の撤去も船がぶち当たって一部壊れてしまったっていうデカい橋の補修も、ぜーんぶ、マイケルのポケットマネーからポンと出したものだから、話題はそちらの方にごっそり持っていかれた。


 忘れられるってことはないけど、日々流れてくる雑多なニュースに上書きされ人々の記憶から薄れ去ってゆくようだ。


 なかったことになるわけじゃないけどさ。





 年が明けた。


 会社は年末年始で休みだから出勤時間を気にしながらせかせかしなくていいのが嬉しい。


 時計がわりにつけっぱなしにしているテレビを目の端に入れながらダイニングテーブルのいつもの椅子に座る。テーブルにはこんがり焼かれたトーストとバターナイフが突っ込まれてベレー帽みたいに蓋がひっかかっているイチゴジャムの瓶が置かれていた。


 テレビに映る女性アナウンサーはテンション高めに、今、人気の若手俳優が電撃結婚したとしゃべっていた。所属事務所も寝耳に水の極秘入籍で、ファンの人たちは〇〇君ロスに咽び泣いているんだって。


 平な画面に映し出された〇〇君のペラっとした顔を見ながらパンにジャムを塗る。


 元旦と二日、連続しておせちとお雑煮だったから、食パンの朝食が不思議と新鮮に感じられた。


 もぐもぐやっているとグレーのスウェットの上下を着た氷雨先輩が私の向かい側に座る。すかさずコーヒーの入ったマグカップが三つ置かれた。


 一つは私、もう一つは先輩の分、そして最後は……驚いてよ、津々木弁護士だ。そして全てを聞かされた後でも、嘘でしょ? 私のことからかってるんじゃあない? って、思うけど、実は先輩の生き別れの双子の弟だっていう事実。なんで朝からここにいるのかっていうと、彼はマンションがわりに泊まっていたホテルを引き払い、先輩の部屋に引っ越してきてしまったのだ。




 あの夜、先輩の傷を縫ってもらって動けるなら入院しなくていいでしょと部屋に帰った頃には翌朝だった。課長にマンション前まで送ってもらって、車から降りてから気づいた。津々木さんまでいるんだけど! って。その後目が覚めると、彼は私と先輩の部屋以外、使っていない部屋の中を確認し、町の便利屋さんを調べ、先輩に断りなく中にあった家具や諸々を処分してしまい……はっきり言うと、居着いてしまった。


 その行動は明らかに氷雨先輩の意思とプライバシーを無視しているんじゃないかって思ったけど、オロオロしっぱなしの私に先輩は肩をすくめて見せただけだった。


 ……先輩が文句言わないなら、私がどうこういう権利はないもん。


 さぁ。一つ屋根の下、男二人に、女ひとりの不安定なフォーメーションになってしまった。けど、なんでだろ。この状況に私、不安より安心を感じていた。自分でも説明がつかないんだけど。先輩に言わせればそれは、私たちが過去出会っていたからなんだって。
 


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