アンバランサー・ユウと世界の均衡 第二部「星の船」編

かつエッグ

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アンバランサー・ユウと世界の均衡「星の船」編

ジーナが、えへへと笑う。

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 ウォリスさんの馬車は、わたしたちを、タマルカンの町まで送り届け、王都にもどっていった。

 「ありがとうございました、ウォリスさん」
 「いえいえ、とんでもない、御用のさいは、いつでも言ってください」

 にこやかなウォリスさんだが、こんなことではウォリスさんはいつまでたっても、家族の待つ故郷の町にかえれないのではないか、と心配になってしまう。
 タマルカンは、王国の、西の外れにある辺境の町だ。
 タマルカンのその先には、広漠とした砂漠地帯が広がっている。
 なぜわたしたちが、今、この町にきているかというと、ここが、護衛隊の冒険者たちの集合地点だからだ。
 古代遺跡調査隊の目的地は、まさに、この先、タマルカン=ロウランド砂漠のなかにあるのだった……。

 王都の西方五百キラメイグ。
 タマルカン=ロウランド砂漠地帯のまっただ中。
 そこに、「絶望の湖」と称される土地がある。
 湖といっても、水はない。
 半径五キラメイグにわたる、真っ平らな土地がそこにあるだけだ。
 そこでは、大地が、なんらかの理由で激しい熱にさらされ、融解し、そして固まった。
 そのために、表面はガラス化しており、草も生えることがない。
 その土地は、遠くからはまるで、キラキラと光を反射する、水をたたえた湖のように見えるのだった。
 砂漠を旅してきたものが、オアシスを発見したと勘違いし、狂喜してたどり着いてみるとそこには水は一滴もない。
 それが、この土地の名前の由来である。
 この異常な場所が、なんらかの古代遺跡ではないのかということは、以前から言われていた。
 そして、今回、ついに、王立古代遺跡院が大規模な調査隊を組織、徹底的な調査をおこなうことになったのだ。
 しかし、危険は大きい。
 犯罪者にとって襲撃する値打ちのあるものは、古代遺跡の遺物だけではない。調査隊のもつ装備、糧食、そして調査隊自身と、お宝には事欠かない。
 王都からはるかに離れた砂漠の中である。
 護衛なしでは、彼らの格好の餌食となるだろう。
 とはいえ、こんな辺境まで大規模な軍をおくるわけにはいかない。
 結論として、多数の冒険者を護衛として雇うことになる。
 それが、もっとも効率がいいのだ。
 冒険者は生きるも死ぬも自己責任である。
 雇う側にしてみれば、使い捨ての駒である。
 冒険者は冒険者で、活躍して自分たちの名を上げるために、あるいは、発見のおこぼれをかすめるために、あるいは、くいつめて報酬だけをめあてに、参加する。
 そんなわけで、端から、調査隊と、護衛の冒険者とのあいだには、お互いの思惑と契約だけの結びつきしかないのだった。

 町役場の前には、仮設の受付所ができていた。
 わたしたちが、そこに近づいていくと、椅子にすわっていた係の者が

 「あんたらも、登録に来たのかい?」
 「はい、遺跡発掘の護衛隊に……」

 人のよさそうな係員は、心配そうな顔をして

 「そうか……みたところ、荒事は向いてなさそうだが……あまり無理はしなくても」
 「大丈夫ですよ。はい、これが推薦状」

 カテリナ団長が手をまわしてくれたのだった。

 「ほう、こんなものをもってるとは、あんたらは名の通った冒険者なのかい」
 「いえ、ごく普通の……」
 「なになに、パーティ名は『獣人女王の歌声』。ふうん……」
 「えへへ」

 その名を聞いて、ジーナが得意そうに笑った。
 ユウが三秒で考えた、このパーティ名もどうかと思う。
 しかし、目的を考えると、わたしたちが「雷の女帝のしもべ」であることは、できるだけ伏せるべきであるから、偽名で参加はしかたがない。
 ひょっとして、あの大混乱となった王都ギルドの実技審査をみていた冒険者がいるかもしれないが、

 「あのときは、完璧な変装してたから、大丈夫だよ。わからないよ」

 ユウが自信たっぷりに言った。
 うーん、そうだろうか。
 けっきょく最後に「狂気山脈」と戦った時には、変装解いちゃったし、それにそもそもわたし、あれは変装と言えないし……。

 「心配なら、新しい変装してみる? すてきな案が、いくつかあるよ!」

 うれしそうにユウが提案してくるが、ユウの言うところの変装というのは、たんに悪目立ちするだけの、とても恥ずかしい仮装であるということがよくわかったので、もちろん、却下だ。
 というわけで、わたしたちは、名前だけ変えて、素のままの姿での参加である。
 ばれないことを祈るばかりだ。

 「はい、登録終わりと。では、明日の三の刻に、砂虫乗り場に集合だよ」
 「はい、わかりました」

 と答えたユウが

 「あっ、まずい! ライラ、ジーナ、ふりかえっちゃだめ。急いで隠れるよ」

 緊迫した声をだし、わたしたちを路地に誘導した。

 「どうしたの?」
 「しっ」

 路地に隠れたわたしたちが、こっそり様子をうかがうと、登録所にむかう冒険者パーティの姿があった。
 四人組のパーティが、意気揚々と歩いている。

 「ああ……また、あいつらじゃん……」
 「すごいね、彼らの、あのやる気は。こんな辺境のクエストにまで参加するなんて」
 「でもさぁ、あの連中って、いっつもいっつも、なんだかへんな引きをもってるんだよね。こんどもまた……」
 「だめ、ライラ! そこから先は言っちゃダメ」
 「とにかく、見つからないように移動しよう。まあ、参加の冒険者は大勢いるから、出発しちゃえばみつからないだろう」

 わたしたちは、こそこそとその場を離れたのだった。

 その日の夜は、宿の食堂で食事をした。
 食堂は、護衛隊に参加する冒険者でにぎわっていた。空席がないほどの繁盛ぶりだ。(いちおう、例の「暁の刃」の連中が、同じ宿にいないのは確認してある)

 「あっ、これ食べよう! これも食べてみたいな。知らない料理だ」

 ジーナはメニューをみて、興奮している。

 「ええと?」

 注文し、運ばれてきたのは、ガボテンステーキ、ガボテンは、水の少ない砂漠に適応して生えている、刺だらけの植物で、水分をたっぷり含んだ幹の部分(じっさいはそれが葉だということだが)を輪切りにして、焼いたもの。淡白な味である。
 (「ぼくたちのところでは、というやつだな。どうも、この世界、向こうと微妙に野菜の名前が似ているんだよな……だれかの手抜き?」などと、例によってよくわからないことを、ユウはつぶやいていた)
 砂トカゲのグリル、ガボテンを食べて生きている大きなトカゲを焼いたもの、見た目はよくないが鶏肉みたいでおいしい。
 デザートは、茶色の皮に包まれた丸い果実で、中には、みずみずしい白い果肉があり、これが甘くて、さわやかだ。

 「これってなに?」
 「ガボテンの果実らしいよ」
 「へえ、すっきりしてて、おいしいねえ」

 などと、わたしたちが料理を楽しんでいると、

 「なあ、まさか、お前らみたいなのが冒険者なんてことはないよな?」

 粗暴な声がかかった。
 わたしたち、冒険者にきまっている。ジーナは刀を携えているし、わたしには杖がある。
 まあ、ユウは、ちょっとアレだけど。
 わかって、因縁をつけてきているのだ。

 「冒険者さまの席がないんだよ、代わってくれや」

 見ると、筋骨隆々の、鎧をきたむさくるしい大男である。背中に大剣を背負っている。
 その男の後ろにも、目つきのわるい、細身の男。おどろおどろしい長い槍を手にしている。

 「なあ、いいだろう。おれたちは、とても、とても、腹がへってるんだよ」

 なんというか、絵にかいたような困った連中であった。
 おそらく、テーブルについている冒険者たちをながめて、わたしたちがいちばん頼りなくて、脅したら言うことをききそうだと判断したのだろう。
 大間違いである。
 よりによって、わたしたちを選ぶという時点で、すでに、この連中の実力がたいしたことないのが明らかだ。

 「席がない、それはお気の毒に」

 ユウが、ガボテンステーキをナイフで切りながら、まったくいつもの調子で答えた。

 「まあ、もう少し待てば、どこかが空くんじゃないでしょうか」
 「ああ?!」
 「お二人とも、待った方が、料理がおいしくなりますよ」
 「なめてんのか!!」

 男がいきり立つ。
 いや、なめてるのはどっちだといいたい。

 「、といっておろうが!」

 砂トカゲの肉をつかみ、かじりついたまま、ジーナ/イリニスティスが、太い声で言った。
 男たちを睨むジーナの目は黄金に輝いている。

 「それとも、お主ら、我に細切れにされたいのか?」

 その迫力ある口調に男たちはたじろぐ。
 そして気がつく。
 いつの間にか、彼らの頭上に黒い雷雲が発生し、不気味な鳴動が始まっていることを。
 雷雲の中で光がきらめき、今にも雷撃が落ちそうな気配に、

 「げっ。か、雷魔法」

 青ざめた男たちは、無言で、じりじりあとずさりして、そして脱兎のごとく消えていった。
 男たちが出ていくと、緊張がとけ、どっと食堂に喧騒がもどる。
 みんな、固唾をのんで展開をみまもっていたらしい。
 ああ、なんだか、またわたしたち目立っちゃったよ……
 注目をあつめたらダメなんだって。
 なんでこうなる。

 「すみませーん、この、コーピーって飲み物くださーい」

 ユウが、まったくの平常運転で、注文を出している。

 「たぶん、が来ると思うんだよ」

 また、わけのわからないことを言いながら。


 翌日。
 わたしたちは、砂虫乗り場に到着した。
 砂虫乗り場はすでに、おおぜいの人でごったがえしている。
 大規模な調査団だ。
 古代遺跡院の職員である学者、研究者をはじめとして、随行の者たち、そこに加えて護衛の冒険者パーティ、すべてあわせると、そうとうな人数である。
 乗り場には、巨大な砂虫サンドワームが五匹、すでに待機していた。
 全長百メイグ以上ある、この巨大な生物は、砂漠にすみ、砂の中を潜ることもできるし、砂の上を進むこともできる。研究によると、本来、この星の生き物ではないものを、古代文明の人たちが、どこか別の星から連れてきたのだという。
 連れてこられた砂虫たちは、この地に適応して、繁殖している。しかし、かれらは砂漠にしか生きられないので、それ以上生息地が広がることはないらしい。
 ほかの星からなんて、あまりに途方もなくて信じられない話ではある。研究者たちによれば、アラキスという星が、彼らの故郷だというのだが…。

「うん、……」

 例によってユウが、自分にしかわからないことをいって納得しているようだ。
 それはさておき、この巨大な砂虫をどうやってか飼いならし、砂漠での移動手段にしているのが、砂漠の民たちである。
 砂虫の背には、足場を組み、船のように艤装がとりつけらている。
 これに乗って、わたしたちは目的地にむかうことになるのだ。
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