【完結】呪われた悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される

伽羅

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52 サイモンの行方(アラスター王太子視点)

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(やはり、宰相が知っているのか?)

 アラスター王太子は安堵したような顔で国王を見たが、苦り切った顔の国王に釘を刺される。

「かも知れん、と言っただけだ。サイモンについては宰相と話をした事はないからな」 

「それでは、これから僕が行って宰相に話を聞いてきますが、よろしいですね」

 駄目だとは言われないようにアラスター王太子が勢い込んで告げると、国王はため息と共に頷いた。

「好きにしろ。取り調べは既に終わっているから後は処刑を行うだけだしな」

 午前中、国王とサリヴァン侯爵はアラスター王太子に執務を任せたまま、宰相とブリジットの取り調べに向かっていた。

 執務室に二人が戻っているという事は取り調べが終わったからにすぎない。

 アラスター王太子はウォーレンと共にバタバタと執務室を出て行った。

 地下牢へ向かう階段を降りると、昨日とは打って変わってしんと静まり返っていた。

 昨日の騒動を知っている身としては拍子抜けするよりも逆に不安に駆られた。

(何故、こんなに静かなんだ? まさか既に二人共処刑されたんじゃないだろうな…)

 歩く速度を速めてブリジットが入れられている牢に近付くと、ソファーに座っているブリジットの姿が見えた。

 アラスター王太子はブリジットの姿にホッとしたものの、その表情にただならぬものを感じて立ち止まった。

 ブリジットはだらしなくソファーに寄りかかり、その目は何処を見ているのか焦点が合っていないようだ。

「自白剤を使われた後ですね。昨日のあの様子じゃ、大人しく事情聴取なんて出来なかったでしょうからね」

 後ろのウォーレンに説明されて、アラスター王太子はなるほど、と納得した。

 それでは宰相の方もこのような状態なのだろうか?

 ブリジットから目を逸らして隣の宰相の牢に向かうと、そこにはゆったりとソファーに座って読書をしている宰相が見えた。

 全面に鉄格子がなければ、普通にソファーに座って寛いでいるように見える。

 アラスター王太子の気配に気付いたのか、宰相がふと顔を上げてこちらを見た。

「アラスター様、こんな所に何の御用ですか? わざわざ私達の顔を見に来たわけでもないでしょう?」

 宰相に問われてアラスター王太子はここに来た目的を思い出す。

「サイモンという魔法使いが何処にいるか知っているか? 何でもいいから知っている事を話してくれ」

 アラスター王太子の問いかけは宰相には思いがけないものだったようで、怪訝そうに眉を寄せた。

「サイモンですか? 随分と懐かしい名前ですな。しかし、何故サイモンをお探しなんですか?」

 それに対してアラスター王太子がどう答えようか迷っていると、宰相は首を軽く振った。

「ああ、お答えにならなくて結構ですよ。知ったところで死にゆく私には不要なものですからね」

 その言葉がアラスター王太子の胸に深く突き刺さる。

 幼い頃から父親である国王の側にいた宰相が、まさかこのように処刑を待つ身になるとは思ってもいなかった。

「サイモンならば、この国のはずれにある片田舎に引っ越したはずです。一度だけ手紙をもらいました。私の机の引き出しに入っているはずです」

「そうか、ありがとう」

 アラスター王太子は礼を言ってその場を後にしようとしたが、一つだけどうしても聞きたい事があった。

「…宰相、どうしてこんな事を…」

 悲痛な面持ちのアラスター王太子を宰相はじっと見つめてくる。

 何もかもを諦めたような眼差しにアラスター王太子は更に心を抉られた。

「馬鹿な夢を見た男が当然の結末を迎えただけです。アラスター様が思い悩む必要はありません」

 宰相は話は終わったとばかりに、閉じていた本を開いて視線を落とした。

 アラスター王太子はそんな宰相に向かって一礼すると、身体の向きを変えた。

 後ろにいたウォーレンと向き合うような形になると、スッとハンカチを差し出された。

 そこでようやくアラスター王太子は自分が涙を流している事に気付いた。

 素早く涙を拭うと、表情を引き締めて再び執務室に戻って行った。
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