【完結】偽装結婚の代償〜他に好きな人がいるのに結婚した私達〜

伽羅

文字の大きさ
7 / 12

7 妊娠発覚

しおりを挟む
 アドリアンの結婚式が終わってひと月たった頃、私は自分の体の異変に気付いた。

 …生理が遅れている?

 初めはアドリアンが結婚した事による心理的なものから遅れているのかと思っていたが、どうやらそれも違うようだ。

 …まさか…妊娠?

 私の脳裏にあの日の出来事がまざまざと蘇る。

 媚薬の影響があったとは言え、アドリアンに愛された事は紛れもない事実だ。

 …でも、あの時、アドリアンは私に避妊薬を飲ませたはず…

 あの夜、行為に及ぶ前に確かに錠剤を飲まされたのに、効かなかったのだろうか?

 本当に妊娠したのかどうか、確信が持てずにいつものように本館に向かった。

「おはようございます、お義母様」

「おはよう、ヴァネッサ。あら、具合でも悪いの? 何だか顔色が悪いわよ」

 義母に指摘されたとおり、今日はやけに体がだるい。

「…大丈夫ですわ。お仕事を始めましょう」

 私は平静を装い、いつもの執務机に腰掛けると書類に目を通していった。

 だが、書類に数枚目を通したところでクラリと目眩に襲われた。

「ヴァネッサ!?」

 義母の呼びかけに応えようにも体が起こせない。

「すぐに医者を呼びなさい! それからヴァネッサをソファーに寝かせて!」

 義母の指図の声を遠くに聞きながら、私は数人の侍女によってソファーへと寝かされた。

 程なくして呼ばれた医者が私の診察をする。

 彼は脈を取ったあと、私の体に手をかざしていったが、お腹の辺りでその手をピタッと止めた。

「…おや、これは…」

 しばらくお腹の辺りに手をかざしていた医者はその手を下ろすと私に微笑みかけた。

「おめでとうございます。ご懐妊していらっしゃいますよ」

 そう告げられたが、医者の言葉がにわかには信じられず、ポカンとしてしまった。

 医者の言葉に即座に反応したのは義母だった。

「先生! 今のは本当ですか?」

 ソファーの横に置かれた椅子に座っていた義母が医者に詰め寄る。

「大奥様。おめでとうございます。間違いなく若奥様は妊娠していらっしゃいますよ」

 それから医者は私にしばらくは安静にして過ごす事と、定期的に診察に訪れる事を告げて帰って行った。

 医者が帰った後で義母は急いで寝室を整えさせて私をそこに寝かせた。

「王宮に使いをやりましたからね。すぐにリュシアンが戻って来るわ」

 まさか私の妊娠くらいでリュシアンを呼び戻すとは思っていなかった。

「お義母様、いくら何でもそれは…」

 やり過ぎではないかと進言しようとしたが、義母は意に介していないようだ。

 義母が寝室を出て行った後、ベッドの中で私はこの子をどうすべきかと迷っていた。

 このお腹の中にいる子は紛れもなくアドリアンの子だ。

 リュシアンもそれをわかっているはずだから、この子を産む事を許さないかもしれない。

 もしリュシアンに堕ろせと言われたら、私は離婚して実家に帰ろう。

 そして一人でこの子を産んで育てようと思った。

 そんな事を考えながらうつらうつらしていると、ゆっくりと扉が開いた。

 誰かが近寄ってくる気配に目を開けると、満面の笑みを浮かべたリュシアンが立っていた。

 リュシアンは私の枕元に跪くと、私の手を取って更に微笑む。

「ヴァネッサ。子供が出来たって? 良くやった! こんなに嬉しい事はないよ」

 思いがけないリュシアンの言葉に私は目を見開いた。

 どうしてそんなふうに私の妊娠を喜べるのだろうか。

「リュシアン、本気で言っているの? だってこの子は…」

 リュシアンは自分の口に人差し指を当てると、私の言葉を遮った。

「その先は言っちゃ駄目だよ。これは僕達三人だけの秘密だからね」

 …三人って…

 …まさか、アドリアンも私の妊娠を知っているの?

 リュシアンは嬉しそうに布団の上から私のお腹をさすった。

「嬉しいよ。ここに彼の子供がいるんだからね。間違いなく妊娠するとはわかっていたけれど、報告を聞くまでは気が気じゃなかったよ」
 
 …間違いなく妊娠するって、どういう事?

「あの時、飲まされた薬は避妊薬じゃなかったの?」

「あの時にアドリアンが飲ませた薬は必ず男の子を妊娠する為の薬だよ。王家の秘薬でね、夫婦に一粒だけ与えられるものさ。アドリアンはそれを君に使ったんだよ」

 リュシアンにサラリと恐ろしい事を言われてしまった。

 確かにこの国の王妃は必ずと言っていいほど、男の子を産んでいる。

 だけどそれが王家に伝わる秘薬のせいだとは知らなかった。

「…それじゃ、アドリアンはアンジェリック様には秘薬を使えないと言う事?」

 そんな貴重な秘薬をとうして私なんかに使ったのだろうか。

 そしてリュシアンがそんなにも私の妊娠を喜ぶと言う事は…

「もしかして、リュシアンが好きなのは…アドリアンなの?」

 否定して欲しいと思った質問にリュシアンはあっさりと頷く。

「僕とアドリアンは愛し合っているのさ。だけど、どんなに愛していても僕達に子供は望めないだろう? だから代わりに産んでくれる女性を探していた。そんな中、君は条件にピッタリだったんだ。僕と血縁関係だし、アドリアンの事が好きだからベッドを共にする事に抵抗はないだろうからね」

 そう告げるリュシアンの顔は黒い微笑みで満たされている。

 そこに来てようやく私は悟った。

 私はアドリアンの子供を産む為の道具に過ぎないのだと…。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』

みこと。
恋愛
「あなたと子を作るつもりはない」 皇帝シュテファンに嫁いだエリザは、初夜に夫から宣言されて首をかしげる。 (これは"愛することのない"の亜種?) 前世を思い出したばかりの彼女は、ここが小説『冷酷皇帝の最愛妃』の中だと気づき、冷静に状況を分析していた。 エリザの役どころは、公爵家が皇帝に押し付けた花嫁で、彼の恋路の邪魔をするモブ皇妃。小説のシュテファンは、最終的には運命の恋人アンネと結ばれる。 それは確かに、子どもが出来たら困るだろう。 速やかな"円満離婚"を前提にシュテファンと契約を結んだエリザだったが、とあるキッカケで彼の子を身ごもることになってしまい──? シュテファンとの契約違反におののき、思わず逃走したエリザに「やっと見つけた」と追いすがる夫。 どうやら彼はエリザ一筋だったらしく。あれ? あなたの恋人アンネはどうしたの? ※小説家になろう様でも掲載しています ※表紙イラスト:あさぎかな先生にコラージュアートをいただきました ※毎朝7時に更新していく予定です

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】5好きな人のために、出来ること

華蓮
恋愛
エリーナとシアンは、政略結婚で結婚する。 学園の間は勉強がしたいから、婚約者がいることを言わないと。 学園では、シアンの横にはユリナが、、、。

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

処理中です...