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7 妊娠発覚

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 アドリアンの結婚式が終わってひと月たった頃、私は自分の体の異変に気付いた。

 …生理が遅れている?

 初めはアドリアンが結婚した事による心理的なものから遅れているのかと思っていたが、どうやらそれも違うようだ。

 …まさか…妊娠?

 私の脳裏にあの日の出来事がまざまざと蘇る。

 媚薬の影響があったとは言え、アドリアンに愛された事は紛れもない事実だ。

 …でも、あの時、アドリアンは私に避妊薬を飲ませたはず…

 あの夜、行為に及ぶ前に確かに錠剤を飲まされたのに、効かなかったのだろうか?

 本当に妊娠したのかどうか、確信が持てずにいつものように本館に向かった。

「おはようございます、お義母様」

「おはよう、ヴァネッサ。あら、具合でも悪いの? 何だか顔色が悪いわよ」

 義母に指摘されたとおり、今日はやけに体がだるい。

「…大丈夫ですわ。お仕事を始めましょう」

 私は平静を装い、いつもの執務机に腰掛けると書類に目を通していった。

 だが、書類に数枚目を通したところでクラリと目眩に襲われた。

「ヴァネッサ!?」

 義母の呼びかけに応えようにも体が起こせない。

「すぐに医者を呼びなさい! それからヴァネッサをソファーに寝かせて!」

 義母の指図の声を遠くに聞きながら、私は数人の侍女によってソファーへと寝かされた。

 程なくして呼ばれた医者が私の診察をする。

 彼は脈を取ったあと、私の体に手をかざしていったが、お腹の辺りでその手をピタッと止めた。

「…おや、これは…」

 しばらくお腹の辺りに手をかざしていた医者はその手を下ろすと私に微笑みかけた。

「おめでとうございます。ご懐妊していらっしゃいますよ」

 そう告げられたが、医者の言葉がにわかには信じられず、ポカンとしてしまった。

 医者の言葉に即座に反応したのは義母だった。

「先生! 今のは本当ですか?」

 ソファーの横に置かれた椅子に座っていた義母が医者に詰め寄る。

「大奥様。おめでとうございます。間違いなく若奥様は妊娠していらっしゃいますよ」

 それから医者は私にしばらくは安静にして過ごす事と、定期的に診察に訪れる事を告げて帰って行った。

 医者が帰った後で義母は急いで寝室を整えさせて私をそこに寝かせた。

「王宮に使いをやりましたからね。すぐにリュシアンが戻って来るわ」

 まさか私の妊娠くらいでリュシアンを呼び戻すとは思っていなかった。

「お義母様、いくら何でもそれは…」

 やり過ぎではないかと進言しようとしたが、義母は意に介していないようだ。

 義母が寝室を出て行った後、ベッドの中で私はこの子をどうすべきかと迷っていた。

 このお腹の中にいる子は紛れもなくアドリアンの子だ。

 リュシアンもそれをわかっているはずだから、この子を産む事を許さないかもしれない。

 もしリュシアンに堕ろせと言われたら、私は離婚して実家に帰ろう。

 そして一人でこの子を産んで育てようと思った。

 そんな事を考えながらうつらうつらしていると、ゆっくりと扉が開いた。

 誰かが近寄ってくる気配に目を開けると、満面の笑みを浮かべたリュシアンが立っていた。

 リュシアンは私の枕元に跪くと、私の手を取って更に微笑む。

「ヴァネッサ。子供が出来たって? 良くやった! こんなに嬉しい事はないよ」

 思いがけないリュシアンの言葉に私は目を見開いた。

 どうしてそんなふうに私の妊娠を喜べるのだろうか。

「リュシアン、本気で言っているの? だってこの子は…」

 リュシアンは自分の口に人差し指を当てると、私の言葉を遮った。

「その先は言っちゃ駄目だよ。これは僕達三人だけの秘密だからね」

 …三人って…

 …まさか、アドリアンも私の妊娠を知っているの?

 リュシアンは嬉しそうに布団の上から私のお腹をさすった。

「嬉しいよ。ここに彼の子供がいるんだからね。間違いなく妊娠するとはわかっていたけれど、報告を聞くまでは気が気じゃなかったよ」
 
 …間違いなく妊娠するって、どういう事?

「あの時、飲まされた薬は避妊薬じゃなかったの?」

「あの時にアドリアンが飲ませた薬は必ず男の子を妊娠する為の薬だよ。王家の秘薬でね、夫婦に一粒だけ与えられるものさ。アドリアンはそれを君に使ったんだよ」

 リュシアンにサラリと恐ろしい事を言われてしまった。

 確かにこの国の王妃は必ずと言っていいほど、男の子を産んでいる。

 だけどそれが王家に伝わる秘薬のせいだとは知らなかった。

「…それじゃ、アドリアンはアンジェリック様には秘薬を使えないと言う事?」

 そんな貴重な秘薬をとうして私なんかに使ったのだろうか。

 そしてリュシアンがそんなにも私の妊娠を喜ぶと言う事は…

「もしかして、リュシアンが好きなのは…アドリアンなの?」

 否定して欲しいと思った質問にリュシアンはあっさりと頷く。

「僕とアドリアンは愛し合っているのさ。だけど、どんなに愛していても僕達に子供は望めないだろう? だから代わりに産んでくれる女性を探していた。そんな中、君は条件にピッタリだったんだ。僕と血縁関係だし、アドリアンの事が好きだからベッドを共にする事に抵抗はないだろうからね」

 そう告げるリュシアンの顔は黒い微笑みで満たされている。

 そこに来てようやく私は悟った。

 私はアドリアンの子供を産む為の道具に過ぎないのだと…。
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