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茨の道
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今までの私の言動とリティシアの過去の性格から推測したらそう思われても仕方ないのに。またこの悪女は何か企んでるなって。
だが彼は確信めいてそう呟くのだった。
「リティの目の光が凄く綺麗だったからだ。嘘をついたり他人を陥れようとする人間の目は酷く濁って見える。どんなに隠そうとしても本性が見えるんだよ」
「……訳分かんないわ」
……悪役の目の光が綺麗だなんて言えるのは世界中探してもアレクだけでしょうね。悪役令嬢ほど濁った瞳をしている人間なんて他にいないもの。
リティシアじゃない私自身だってそんなに褒められた人間でもないし…きっとこの顔が美形だからそう見えただけね。
「……というか、あんなに真剣に言われたら誰だって信じるって」
「うっ…だって……これ以上貴方を傷つけたくなかったから……。私は今だけじゃなく前世でも貴方に救われたのよ。命の恩人と言っても過言ではない貴方に、こんな仕打ちをするなんて耐えられなかったのよ」
アレクが隣国のエリック王子のような人間だったらこんな罪悪感も感じなかったことだろう。彼の優しい一面を知る度に心が苦しかった。
でも今は違う。彼を傷つける必要もなければ、こうして本音を伝えることができる。これがどれだけ幸せなことか私にはよく分かる。
「リティ」
「……何?」
「リティがそんな風に思ってくれてるのに、俺がお前を怒れる訳ないだろ?」
「でも……私は貴方に一度怒られるべきだわ。わざと冷たい態度を取って傷つけたんだから…」
私が悲しげに俯くと、アレクは驚きの言葉を口にする。
「……残念だけど俺は例えリティに殺されても君を怒るつもりはないぞ」
「…え!?それは怒りなさいよ。というか反撃しさいよ!」
衝撃すぎる発言に私が目を見開いて大声をあげると彼がくすくすと笑い声を零す。
だが全く笑い事ではない。悪役に第二の主人公が殺されることを当の本人が許すだなんてどう考えてもあってはならないことだ。
「リティになら殺されても構わないさ」
アレクはそう言って微笑むので、私はなんと返すべきか迷ってしまう。
私になら殺されてもいい――そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
それは恐らく……例え私がアレクを裏切ろうと……彼は全てを受け入れるという意味だ。
「何よそれ……殺さないわよ、何があっても!」
「それなら良かった。まだ生きられそうだな」
「もう……」
私は感情が高ぶって振り上げた拳を力なく下げる。殺さないと言い切ったが、それはあくまでも私の意思であり、この先何があるか分からないのだということを思い出したからだ。
私は微かに震える声で声を発した。
「ねぇ、もし、もし私達の魔力の問題が解決しなかったら……本当に貴方は眠りについたまま死んでしまうかもしれないわ。私に殺されるというのはあながち間違いじゃないかもしれない。それでも、それでも……私を側においてくれるの?」
仮に嫌だと言われたら、私は離れなければならない。彼が消えるということはそのままこの国の未来が消えるということだからだ。
それに私のせいで彼の可能性を未来を奪うなんて嫌だ。はっきり否定されなくても、少しでも嫌な顔をしたら私はやはり離れなければならないだろう。彼は優しいから、言えないかもしれないから、私が察してあげなければならない。
次から次へと不安が押し寄せてきて私は感情に耐えきれず俯いてしまう。どうしても思考が悪い方へと向かってしまい、涙腺がどんどん緩んできて涙がうっすらと浮かぶ。
これで終わりかもしれない。もう二度と会えないかもしれないという耐え難い不安が拭いきれないのである。
彼は涙を浮かべる私を引き寄せると、突然強く抱きしめた。
私の理解が追いつくより早く、彼は言葉を口にする。
「リティが側にいたいと望んでくれる限り、俺はお前の側にいたい。離れる時があるとすればそれはお前からだ。俺から離れることは絶対にない。約束するよ。だから…泣かないで」
「酷いわ、そんなこと言われたら……泣いちゃうじゃない」
やっぱりまだ怖い。私の選択が大好きな彼を傷つけることになるかもしれないから。例え彼が望んでいたとしても私はその事実を受け入れることなどできないだろう。
そうなる前に離れたい。でも側にいられるのならそうしたい。
「……私は……どう考えても危険だわ。貴方とイサベルを苦しめるだけの存在なんだから。でも、離れたくない。ずっと側にいたいの。」
側にいたい。その感情だけで相手の側にいるなんて不可能だ。それが相手を傷つけるようなことになるのならば、私には絶対に無理だから。
「折角貴方が私を受け入れてくれたのに貴方を傷つけるような結果になるかもしれないなんて……そんなの私には耐えられない。貴方を殺してしまうなら私はやっぱり側にはいられない」
一緒にいるという選択肢はどう考えても茨の道だ。アレクが示してくれた唯一の光。唯一の希望。
皆が応援してくれている私達の恋が最悪な結末で終わるのであれば、いっそのことここで断ち切るべきだ。一日だけだったが、夢のような時間を……過ごせたのだから。
だが彼は確信めいてそう呟くのだった。
「リティの目の光が凄く綺麗だったからだ。嘘をついたり他人を陥れようとする人間の目は酷く濁って見える。どんなに隠そうとしても本性が見えるんだよ」
「……訳分かんないわ」
……悪役の目の光が綺麗だなんて言えるのは世界中探してもアレクだけでしょうね。悪役令嬢ほど濁った瞳をしている人間なんて他にいないもの。
リティシアじゃない私自身だってそんなに褒められた人間でもないし…きっとこの顔が美形だからそう見えただけね。
「……というか、あんなに真剣に言われたら誰だって信じるって」
「うっ…だって……これ以上貴方を傷つけたくなかったから……。私は今だけじゃなく前世でも貴方に救われたのよ。命の恩人と言っても過言ではない貴方に、こんな仕打ちをするなんて耐えられなかったのよ」
アレクが隣国のエリック王子のような人間だったらこんな罪悪感も感じなかったことだろう。彼の優しい一面を知る度に心が苦しかった。
でも今は違う。彼を傷つける必要もなければ、こうして本音を伝えることができる。これがどれだけ幸せなことか私にはよく分かる。
「リティ」
「……何?」
「リティがそんな風に思ってくれてるのに、俺がお前を怒れる訳ないだろ?」
「でも……私は貴方に一度怒られるべきだわ。わざと冷たい態度を取って傷つけたんだから…」
私が悲しげに俯くと、アレクは驚きの言葉を口にする。
「……残念だけど俺は例えリティに殺されても君を怒るつもりはないぞ」
「…え!?それは怒りなさいよ。というか反撃しさいよ!」
衝撃すぎる発言に私が目を見開いて大声をあげると彼がくすくすと笑い声を零す。
だが全く笑い事ではない。悪役に第二の主人公が殺されることを当の本人が許すだなんてどう考えてもあってはならないことだ。
「リティになら殺されても構わないさ」
アレクはそう言って微笑むので、私はなんと返すべきか迷ってしまう。
私になら殺されてもいい――そんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
それは恐らく……例え私がアレクを裏切ろうと……彼は全てを受け入れるという意味だ。
「何よそれ……殺さないわよ、何があっても!」
「それなら良かった。まだ生きられそうだな」
「もう……」
私は感情が高ぶって振り上げた拳を力なく下げる。殺さないと言い切ったが、それはあくまでも私の意思であり、この先何があるか分からないのだということを思い出したからだ。
私は微かに震える声で声を発した。
「ねぇ、もし、もし私達の魔力の問題が解決しなかったら……本当に貴方は眠りについたまま死んでしまうかもしれないわ。私に殺されるというのはあながち間違いじゃないかもしれない。それでも、それでも……私を側においてくれるの?」
仮に嫌だと言われたら、私は離れなければならない。彼が消えるということはそのままこの国の未来が消えるということだからだ。
それに私のせいで彼の可能性を未来を奪うなんて嫌だ。はっきり否定されなくても、少しでも嫌な顔をしたら私はやはり離れなければならないだろう。彼は優しいから、言えないかもしれないから、私が察してあげなければならない。
次から次へと不安が押し寄せてきて私は感情に耐えきれず俯いてしまう。どうしても思考が悪い方へと向かってしまい、涙腺がどんどん緩んできて涙がうっすらと浮かぶ。
これで終わりかもしれない。もう二度と会えないかもしれないという耐え難い不安が拭いきれないのである。
彼は涙を浮かべる私を引き寄せると、突然強く抱きしめた。
私の理解が追いつくより早く、彼は言葉を口にする。
「リティが側にいたいと望んでくれる限り、俺はお前の側にいたい。離れる時があるとすればそれはお前からだ。俺から離れることは絶対にない。約束するよ。だから…泣かないで」
「酷いわ、そんなこと言われたら……泣いちゃうじゃない」
やっぱりまだ怖い。私の選択が大好きな彼を傷つけることになるかもしれないから。例え彼が望んでいたとしても私はその事実を受け入れることなどできないだろう。
そうなる前に離れたい。でも側にいられるのならそうしたい。
「……私は……どう考えても危険だわ。貴方とイサベルを苦しめるだけの存在なんだから。でも、離れたくない。ずっと側にいたいの。」
側にいたい。その感情だけで相手の側にいるなんて不可能だ。それが相手を傷つけるようなことになるのならば、私には絶対に無理だから。
「折角貴方が私を受け入れてくれたのに貴方を傷つけるような結果になるかもしれないなんて……そんなの私には耐えられない。貴方を殺してしまうなら私はやっぱり側にはいられない」
一緒にいるという選択肢はどう考えても茨の道だ。アレクが示してくれた唯一の光。唯一の希望。
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