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忍び寄る影
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「百倍になって返ってきますよ。」
「……否めないわね」
流石にそんなことはしないだろうが……そうする可能性があるというだけで怖い。これはありがたく受け取っておこう。折角選んでくれたものだしね。
「ではそのネックレスは大切にしまっておきますね。あ、それとも今日着けていかれますか?」
ルナのその思わぬ提案に私は少し悩む。
「あ……じゃぁそうしようかしら。特に出掛ける予定もないけどね」
「予定がなくても使ってあげると物は喜ぶと思いますよ」
ルナがそう言いながら私を座らせ、私の首にネックレスをふわりとかけると、一瞬で鎖同士を引っ掛けてくれる。流石は侍女、こういうのは手慣れているらしい。イサベルもその手付きを見て感心していた。
私の胸元でネックレスが光を反射してキラリと輝く。いつ見ても飽きない美しさだ。
「本当にリティ様によくお似合いですね。私もアクセサリーを贈れば良かったです」
「何言ってるの。貴女から貰った薔薇もなかなかのものだったわよ?」
「本当ですか?お優しいですねリティ様は。」
イサベルは嬉しそうにくすくすと笑う。この笑顔に主要人物達が次々と惚れてしまうのは分かる気がする。
というか最早国宝級だと思う。なんとも愛らしい存在だ。
主人公だからと助けただけだったが、結果的にこの子と仲良くなれてよかった。なんてったってこの可愛らしさを毎日拝めるんだからね。もう城へ無理やり連れて行く必要もなくなっちゃったし。
「あっ!そうだリティ様、こちらへ!昨日はお疲れですぐ寝てしまったので見ていませんよね?リティ様宛のプレゼントが沢山来ているんですよ!」
「えっ?全て送り返すってのは……」
「ダメです。受け取って下さい。」
「ルナ……はぁ、分かったわ」
ルナに完全否定され、諦めた私は重い腰を上げる。二人と共に知りもしない貴族や王族からのプレゼントを確認しに向かうのであった。
【???】
時は少し遡り、前日の夜のこと。
静かな空間にコツン、コツンと響く靴音があった。現状この空間で聞くことのできる音は、私の履いたハイヒールの音と、そして私が息をする音だけだ。
侍女や執事達は皆頭を垂れ、私が通り過ぎるのを息を呑んで待っている。私の機嫌を損ねることは自分の首がはねられる時だということを、彼らはよく知っているのだ。
そして私はとある部屋に辿り着くと、ノックもせずに扉を開く。本来ならば叱られる場面であろうが、私はそうすることが許された人間だから関係ない。
私は玉座の間に足を踏み入れると、輝く王冠を被る人物に対し、微笑んだ。
「陛下。そろそろあの女を始末する時ではありませんか?」
私の言葉を受け、陛下はにやりと笑みを浮かべた。
「そうだな」
その言葉に、今度は私が笑みを浮かべる。これは全て私の思惑通りに進んでいるということへの……喜びの現れである。
「ではどうか私にお任せ下さい。良い考えがございますの。陛下は大船に乗ったおつもりでいてくだされば結構ですわ」
「そうか。流石…我が妻は頼もしいな」
そう言って再び笑い声を上げる陛下に私は微笑んでみせる。そう、私はいつだって有能でなければならない。
陛下はふと何かを思い出したのか、笑い声をピタリと止める。そして思い悩むかのように口を開いた。
「それにしてもあの男は…一体何をしているのだ…奴ほどの腕前なら既に始末できているはずなのに…」
私は笑みを崩さず、口元を扇子で隠し答える。
「彼では甘すぎますわ。私達の息子の親友なんですもの。あの子がどれだけ他人に甘くて優しい子か……貴方もご存知でしょう」
「うむ……それもそうだな。ではお前に任せるとしよう。任せたぞ」
「はい。有難うございます」
見てなさい、私の息子に手を出したこと……必ず後悔させてやるわ。私は不敵な笑みを浮かべ、翻すと玉座の間を後にした。
何度も始末するチャンスはあったが、敢えて見逃してきた。それは最高のタイミングを見計らうため。
そう、今がその時だ。
【リティシア】
時は元に戻って、誕生日パーティの翌日の朝である。
大量のプレゼントを前にして嫌気が差しながらもなんとか半分くらいは確認することができた。
悪女に送るプレゼントなんて大したことないだろうと思っていたが、私が変わったのではないかという噂が少なからず広まっているらしく、例年より豪華なものが多くなっている。
そのせいで罪悪感も倍である。
私はリティシアじゃないってのに……。一体どんな気持ちで受け取れっていうのよ。
プレゼント確認が嫌になり、顔をあげると、そこで私はいつも見えるはずの姿が見えないことに気づいた私は、ルナに声をかける。
「ねぇ、そういえばアーグレンは?どこにいるの?」
「アーグレン様は今いらっしゃいません。早朝にお城からのお呼び出しがあって、お嬢様に報告する間もなく行ってしまわれたようです。」
「アーグレン様はリティ様にお伝えできずに発つのがとても申し訳ないと仰られていましたよ。」
次いでイサベルがそう伝えてくれる。
そう、いないのね……それにしても急にお城から呼び出されるなんて何があったのかしら?前も急に呼ばれてたし騎士団長ってほんとに大変ね。
そう思ったその瞬間、部屋の扉が突然開け放たれる。私達の視線は一瞬にして扉の方角に釘付けになった。
「リティ、ちょっとこっちに来て頂戴!」
やって来たのはお母様だった。ノックもせず、とても焦っているようだ。彼女は私の手を引くと、そのまま部屋の外へと連れて行こうとする。
「お、お母様?一体どうしたのですか?」
「皇后陛下がリティを呼んでるんだよ!」
お母様の側にいたお父様が、そう呟いた。
「えっ……皇后陛下が……!?」
「……否めないわね」
流石にそんなことはしないだろうが……そうする可能性があるというだけで怖い。これはありがたく受け取っておこう。折角選んでくれたものだしね。
「ではそのネックレスは大切にしまっておきますね。あ、それとも今日着けていかれますか?」
ルナのその思わぬ提案に私は少し悩む。
「あ……じゃぁそうしようかしら。特に出掛ける予定もないけどね」
「予定がなくても使ってあげると物は喜ぶと思いますよ」
ルナがそう言いながら私を座らせ、私の首にネックレスをふわりとかけると、一瞬で鎖同士を引っ掛けてくれる。流石は侍女、こういうのは手慣れているらしい。イサベルもその手付きを見て感心していた。
私の胸元でネックレスが光を反射してキラリと輝く。いつ見ても飽きない美しさだ。
「本当にリティ様によくお似合いですね。私もアクセサリーを贈れば良かったです」
「何言ってるの。貴女から貰った薔薇もなかなかのものだったわよ?」
「本当ですか?お優しいですねリティ様は。」
イサベルは嬉しそうにくすくすと笑う。この笑顔に主要人物達が次々と惚れてしまうのは分かる気がする。
というか最早国宝級だと思う。なんとも愛らしい存在だ。
主人公だからと助けただけだったが、結果的にこの子と仲良くなれてよかった。なんてったってこの可愛らしさを毎日拝めるんだからね。もう城へ無理やり連れて行く必要もなくなっちゃったし。
「あっ!そうだリティ様、こちらへ!昨日はお疲れですぐ寝てしまったので見ていませんよね?リティ様宛のプレゼントが沢山来ているんですよ!」
「えっ?全て送り返すってのは……」
「ダメです。受け取って下さい。」
「ルナ……はぁ、分かったわ」
ルナに完全否定され、諦めた私は重い腰を上げる。二人と共に知りもしない貴族や王族からのプレゼントを確認しに向かうのであった。
【???】
時は少し遡り、前日の夜のこと。
静かな空間にコツン、コツンと響く靴音があった。現状この空間で聞くことのできる音は、私の履いたハイヒールの音と、そして私が息をする音だけだ。
侍女や執事達は皆頭を垂れ、私が通り過ぎるのを息を呑んで待っている。私の機嫌を損ねることは自分の首がはねられる時だということを、彼らはよく知っているのだ。
そして私はとある部屋に辿り着くと、ノックもせずに扉を開く。本来ならば叱られる場面であろうが、私はそうすることが許された人間だから関係ない。
私は玉座の間に足を踏み入れると、輝く王冠を被る人物に対し、微笑んだ。
「陛下。そろそろあの女を始末する時ではありませんか?」
私の言葉を受け、陛下はにやりと笑みを浮かべた。
「そうだな」
その言葉に、今度は私が笑みを浮かべる。これは全て私の思惑通りに進んでいるということへの……喜びの現れである。
「ではどうか私にお任せ下さい。良い考えがございますの。陛下は大船に乗ったおつもりでいてくだされば結構ですわ」
「そうか。流石…我が妻は頼もしいな」
そう言って再び笑い声を上げる陛下に私は微笑んでみせる。そう、私はいつだって有能でなければならない。
陛下はふと何かを思い出したのか、笑い声をピタリと止める。そして思い悩むかのように口を開いた。
「それにしてもあの男は…一体何をしているのだ…奴ほどの腕前なら既に始末できているはずなのに…」
私は笑みを崩さず、口元を扇子で隠し答える。
「彼では甘すぎますわ。私達の息子の親友なんですもの。あの子がどれだけ他人に甘くて優しい子か……貴方もご存知でしょう」
「うむ……それもそうだな。ではお前に任せるとしよう。任せたぞ」
「はい。有難うございます」
見てなさい、私の息子に手を出したこと……必ず後悔させてやるわ。私は不敵な笑みを浮かべ、翻すと玉座の間を後にした。
何度も始末するチャンスはあったが、敢えて見逃してきた。それは最高のタイミングを見計らうため。
そう、今がその時だ。
【リティシア】
時は元に戻って、誕生日パーティの翌日の朝である。
大量のプレゼントを前にして嫌気が差しながらもなんとか半分くらいは確認することができた。
悪女に送るプレゼントなんて大したことないだろうと思っていたが、私が変わったのではないかという噂が少なからず広まっているらしく、例年より豪華なものが多くなっている。
そのせいで罪悪感も倍である。
私はリティシアじゃないってのに……。一体どんな気持ちで受け取れっていうのよ。
プレゼント確認が嫌になり、顔をあげると、そこで私はいつも見えるはずの姿が見えないことに気づいた私は、ルナに声をかける。
「ねぇ、そういえばアーグレンは?どこにいるの?」
「アーグレン様は今いらっしゃいません。早朝にお城からのお呼び出しがあって、お嬢様に報告する間もなく行ってしまわれたようです。」
「アーグレン様はリティ様にお伝えできずに発つのがとても申し訳ないと仰られていましたよ。」
次いでイサベルがそう伝えてくれる。
そう、いないのね……それにしても急にお城から呼び出されるなんて何があったのかしら?前も急に呼ばれてたし騎士団長ってほんとに大変ね。
そう思ったその瞬間、部屋の扉が突然開け放たれる。私達の視線は一瞬にして扉の方角に釘付けになった。
「リティ、ちょっとこっちに来て頂戴!」
やって来たのはお母様だった。ノックもせず、とても焦っているようだ。彼女は私の手を引くと、そのまま部屋の外へと連れて行こうとする。
「お、お母様?一体どうしたのですか?」
「皇后陛下がリティを呼んでるんだよ!」
お母様の側にいたお父様が、そう呟いた。
「えっ……皇后陛下が……!?」
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