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冷たい眼差し
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︎︎私は不安そうなイサベルの頭を優しく撫でると、そのまま屋敷を後にした。
城へと辿り着くと、私は休む暇もなくどこかへと連行される。
途中でアレクやアーグレンに出くわさないかという微かな期待があったのだが、そんな偶然あるわけない。きっと皇后は私が逃げ出す可能性を限りなくゼロにするために二人と私が出会わないよう細工しているはずだ。
少なくとも、私が皇后の立場で、呼び出した人物と誰にも邪魔されずに話がしたいと思うのであれば、そうすると思う。
辿り着いた部屋に通されると、そこには美しい女性が冷たい目で玉座の間に腰掛けていた。
「リティシア嬢。来てくれると思っていたわ」
そう呟くと、皇后陛下は私をじっと見つめる。その瞳は一切笑っておらず、私への敵意がひしひしと感じられる。
皇后から嫌われるようにわざと動いていたから当然といえば当然だが、なんとなくそれだけの恨みではない気がした。
本物のリティシアがこの身体にいた頃から既に相当嫌われていたのだろう。そうでなければこれほどの憎悪を感じるはずがない。
「…勿論、皇后陛下のお誘いとあらばどこにいても駆けつけます。またお会いできて大変光栄でございます。」
「急に呼び出してごめんなさいね。どうしても貴女と話したいことがあったの」
「いえ、皇后陛下が謝る必要はございません。それで話というのは……」
その謝罪に申し訳ないという感情が一切込められていないことに憤りを覚えつつも、私は冷静に言葉を返す。
「ところでリティシア嬢。私は何度も貴女の名前を呼んでいるのに、私の名前を呼んでくれたことはないわよね。もしかして、私の名を知らないのかしら?」
「…とんでもございません、私などが皇后のお名前を口にするなど不敬に値するかと思いまして……」
「そんな心にもないことは言わなくていいのよ。知ってるの?それとも知らないの?ねぇ、どっちなの?」
適当に言ってるって気づくなんて流石は皇后ね……ってそんなことより話が変な方向に向かってるんだけど?
私と話がしたいって言ってたのにどうして私が名前を知ってるかどうかになるのよ。この世界では相手の名前を知ってるのが常識なの!?
私は気持ちを落ち着けるために深く息を吐くと、皇后の瞳を鋭く見据えた。
「……存じております。」
「…あら、それは意外ね。言っておくけど私の名前は当てずっぽうで当たるほど分かりやすい名前ではないわよ」
「当然、当てずっぽうではありません。私は本当に知っています」
私の言葉が余程意外であったのか、多少の驚きを見せたが、それでも私が名前を知らずに意地を張っていると考えたようだ。
だが皇后、それは間違いだ。なぜなら私は小説ではっきりと皇后の名前を見たことがあるのだから。そんなに頻繁に出てくる名前ではなかったけど、他のキャラよりも珍しい名前だから一発で頭に入ったわ。
「リザベツィア=エトワール皇后陛下……でございますよね」
一度聞けば忘れない珍しい名前だが、確かに知らなければ一生当てることができない。
名前を呼べなかった私を無礼だと罵るつもりだったのだろうが、たまたま知っていて助かった。
仮にこの場にいたのが本当のリティシアだったとしても答えられたかと言われたらそれは否だ。
彼女は皇后に…というか他人に興味がなかったから名前なんて覚えていないだろう。恐らく彼女はそれを知っていてこの喧嘩をふっかけてきたのだ。
皇后は私が正しい答えを知っていたことが相当面白くなかったようで、不機嫌そうに口を尖らせると「……私の名前くらいは知ってて当然よね」と呟いた。
「はい。国民とあらば皇后陛下のお名前を存じているのは当然でございます。…それで…リザベツィア皇后陛下、私に一体何の御用でございましょうか。」
「……そうね。早速本題に入りましょうか」
皇后は扇子を取り出し自身の口元に当てると、不敵な笑みを浮かべる。
アレクと同じ美しい瞳であるはずなのに、彼のように優しい印象は全く伝わってこない。彼女と彼は決定的に違う。親子だからと同じ枠で捉えてはいけないと直感が捉えていた。
「…陛下と貴女のお父様である公爵は昔からの親友。だから貴女とアレクシスを婚約させたのよね。」
「はい。その通りです」
「でも婚約というのはあくまでも約束。そのまま結婚できるなんて思わないで頂戴。」
「……はい。」
かつて私がアレクに告げた言葉だ。軽々しく言い放たれたその言葉が、重く私にのしかかる。
「はっきり言うわ。貴女は私の息子に相応しくない」
皇后は玉座から立つと、私の首元に扇子を当てる。殺傷能力などないはずなのに、何故だか剣をあてがわれているかのような感覚を覚えた。
「貴女みたいな悪女はいらないの」
「……皇后陛下、私は今まで悪女と思われても仕方のない行動をしてきました。ですが……ですが、アレクシス殿下のことを愛していることだけは、本当です。だから……」
「それが問題なのよ」
「……え?」
城へと辿り着くと、私は休む暇もなくどこかへと連行される。
途中でアレクやアーグレンに出くわさないかという微かな期待があったのだが、そんな偶然あるわけない。きっと皇后は私が逃げ出す可能性を限りなくゼロにするために二人と私が出会わないよう細工しているはずだ。
少なくとも、私が皇后の立場で、呼び出した人物と誰にも邪魔されずに話がしたいと思うのであれば、そうすると思う。
辿り着いた部屋に通されると、そこには美しい女性が冷たい目で玉座の間に腰掛けていた。
「リティシア嬢。来てくれると思っていたわ」
そう呟くと、皇后陛下は私をじっと見つめる。その瞳は一切笑っておらず、私への敵意がひしひしと感じられる。
皇后から嫌われるようにわざと動いていたから当然といえば当然だが、なんとなくそれだけの恨みではない気がした。
本物のリティシアがこの身体にいた頃から既に相当嫌われていたのだろう。そうでなければこれほどの憎悪を感じるはずがない。
「…勿論、皇后陛下のお誘いとあらばどこにいても駆けつけます。またお会いできて大変光栄でございます。」
「急に呼び出してごめんなさいね。どうしても貴女と話したいことがあったの」
「いえ、皇后陛下が謝る必要はございません。それで話というのは……」
その謝罪に申し訳ないという感情が一切込められていないことに憤りを覚えつつも、私は冷静に言葉を返す。
「ところでリティシア嬢。私は何度も貴女の名前を呼んでいるのに、私の名前を呼んでくれたことはないわよね。もしかして、私の名を知らないのかしら?」
「…とんでもございません、私などが皇后のお名前を口にするなど不敬に値するかと思いまして……」
「そんな心にもないことは言わなくていいのよ。知ってるの?それとも知らないの?ねぇ、どっちなの?」
適当に言ってるって気づくなんて流石は皇后ね……ってそんなことより話が変な方向に向かってるんだけど?
私と話がしたいって言ってたのにどうして私が名前を知ってるかどうかになるのよ。この世界では相手の名前を知ってるのが常識なの!?
私は気持ちを落ち着けるために深く息を吐くと、皇后の瞳を鋭く見据えた。
「……存じております。」
「…あら、それは意外ね。言っておくけど私の名前は当てずっぽうで当たるほど分かりやすい名前ではないわよ」
「当然、当てずっぽうではありません。私は本当に知っています」
私の言葉が余程意外であったのか、多少の驚きを見せたが、それでも私が名前を知らずに意地を張っていると考えたようだ。
だが皇后、それは間違いだ。なぜなら私は小説ではっきりと皇后の名前を見たことがあるのだから。そんなに頻繁に出てくる名前ではなかったけど、他のキャラよりも珍しい名前だから一発で頭に入ったわ。
「リザベツィア=エトワール皇后陛下……でございますよね」
一度聞けば忘れない珍しい名前だが、確かに知らなければ一生当てることができない。
名前を呼べなかった私を無礼だと罵るつもりだったのだろうが、たまたま知っていて助かった。
仮にこの場にいたのが本当のリティシアだったとしても答えられたかと言われたらそれは否だ。
彼女は皇后に…というか他人に興味がなかったから名前なんて覚えていないだろう。恐らく彼女はそれを知っていてこの喧嘩をふっかけてきたのだ。
皇后は私が正しい答えを知っていたことが相当面白くなかったようで、不機嫌そうに口を尖らせると「……私の名前くらいは知ってて当然よね」と呟いた。
「はい。国民とあらば皇后陛下のお名前を存じているのは当然でございます。…それで…リザベツィア皇后陛下、私に一体何の御用でございましょうか。」
「……そうね。早速本題に入りましょうか」
皇后は扇子を取り出し自身の口元に当てると、不敵な笑みを浮かべる。
アレクと同じ美しい瞳であるはずなのに、彼のように優しい印象は全く伝わってこない。彼女と彼は決定的に違う。親子だからと同じ枠で捉えてはいけないと直感が捉えていた。
「…陛下と貴女のお父様である公爵は昔からの親友。だから貴女とアレクシスを婚約させたのよね。」
「はい。その通りです」
「でも婚約というのはあくまでも約束。そのまま結婚できるなんて思わないで頂戴。」
「……はい。」
かつて私がアレクに告げた言葉だ。軽々しく言い放たれたその言葉が、重く私にのしかかる。
「はっきり言うわ。貴女は私の息子に相応しくない」
皇后は玉座から立つと、私の首元に扇子を当てる。殺傷能力などないはずなのに、何故だか剣をあてがわれているかのような感覚を覚えた。
「貴女みたいな悪女はいらないの」
「……皇后陛下、私は今まで悪女と思われても仕方のない行動をしてきました。ですが……ですが、アレクシス殿下のことを愛していることだけは、本当です。だから……」
「それが問題なのよ」
「……え?」
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