悪役令嬢リティシア

如月フウカ

文字の大きさ
43 / 209

訓練場

しおりを挟む
竜は早すぎず、遅すぎず適度な速度で飛んでいったにも関わらず、私が予想していたよりずっと早く訓練場へと辿り着いた。そこは広大な敷地の周りに結界が張られた、至ってシンプルな造りであった。


アレクシスの話に集中していたせいで、周りの景色をあまり見ていなかったのだが…うっすらと見えた眼下に広がる景色は眩しい程に綺麗な風景としか形容の仕様がなかった。


美しい王国に優しい心を持つ王子様がいるとは、まるでおとぎ話の世界ね。当然、王子と結婚するのは可愛らしい美少女…主人公なんでしょうけど。


そもそもここは主人公とアレクの為に作られた世界なんだから当然と言えば当然か。私の出る幕なんて初めからないのよね。


…寂しいなんて感じる暇はないわよ、私。私がしなければいけない事は寂しがることなんかじゃない。悪役令嬢の役を全うするの。


リティシアとアレクシスの関係がどんなに改善しようと所詮は悪役令嬢と男主人公(第二の主人公)。決して結ばれる事は…ないのだから。期待なんてするだけ無駄なのよ。魔法を使える様になって、出来るだけ早く彼の前から…去らなければ。


心ここにあらずといった状態でアレクシスに手を借りながら竜から降りると、彼は「…リティシア、大丈夫か?」と声をかけてくる。


「…えぇ。私がこんな事で怖がるわけないでしょう?」


「やっぱり怖がってたんだな。…ごめん、無理矢理乗せるつもりはなかったんだ。やっぱり俺が運んでくれば良かっ…」


「嫌よ。何度も言わせないで。貴方なんかが私に触れられるとでも思ってるの?」


危ない危ない。墓穴を掘ったわ。自分から怖がってた事を報告してしまうなんて悪役令嬢ランクが一下がってしまうわね…。…そんなランク聞いた事ないから今自分で作ったのだけれど。


…もし王子ランクが存在するならアレクシスは間違いなくカンストしてるわ。絶対に。


…私、一体何の話をしてるのかしら。


「そんな事は思ってないけど、お前が怖がったり嫌がるような事はしたくないからな。遠慮せず言ってくれよ」


「だから貴方に触れられるのが嫌だって言ってるじゃない」


「…さっきは普通に俺の手を取ったのに?それにパーティの時だって…」


「あれは…私の情けよ。仕方なく取ってあげたの。」


「…そうは見えなかったけどな?」


「うるさいわね。これ以上私を疑うなら殴るわよ」


待って、これじゃ私悪役令嬢じゃなくて暴力令嬢だわ…。気をつけないと。ドジっ子令嬢はまだ許されるけど暴力令嬢なんか即処刑に決まってるわ。本当に演技って難しいのね…。


「いいから始めるわよ。魔法の練習」


「そうだな。リティシアに殴られる前に始めるか」


「えぇそうよ私に殴られる前に……いえそれは冗談よ」


「なら良かった」


いつもの優しい柔和な笑みを浮かべる彼を前にして、私は少し違和感を覚える。


気の所為せいかしら、アレクシスが段々私に言い返す様になったような…。いやきっと気の所為よね。


「じゃぁとりあえず…もう一回教科書を見てくれ」


アレクシスはこちらに水の膜を飛ばすと、本が私の手の上に上手く落ちるように調節してくれる。本は丁度先程のページが開かれていた。


私は言われるがままに本の文字を目で追っていく。


『リフレイア』…炎属性の呪文。この呪文以外で炎の攻撃魔法を使う事は不可能である。これは応用する事でいくらでも進化でき、便利に使う事が出来る。また炎属性の者は、他の属性の魔法を使う事は出来ない。ただし、闇属性を除く。


…この少し後に闇属性のページも存在するみたいだけど光属性と同じで詳細は不明、としか書かれてないのよね。闇属性は他の属性と置き換えることが可能だから…そもそも生まれついての闇属性という人がいないのかもしれないわ。


…ちょっと待って、置き換えることができるって事が判明してるなら誰かが試していてもおかしくないじゃない?なのに試してみた結果とかは何処にも書いてないわ。…試すなって事?まぁ闇属性なんて聞くからに怪しいし誰も試さないわよね。きっとそれのせいだわ。


「…リティシア?ぼうっと教科書を見つめてどうしたんだ?そんなに詳しい事は書いてないけど、絵が書いてあるから分かりやすいかなと思ってそれを選んだんだ」


「…あぁ、ごめんなさい。…?…絵なんかないわよ」


「その呪文の文字を指で擦なぞってみてくれ」


「指で…?」


リティシアの綺麗な指を動かしそっと『リフレイア』の文字を撫でてみる。私の身体から何かが抜けていくような不思議な感覚を覚えたかと思うと、空中に魔道士のような男性の絵が浮かび上がる。


長いローブを羽織った魔道士の男性は「リフレイア!」という吹き出しを出し、手の平を上に向け、炎を呼び出している。


「その本にはその属性の魔力に反応してやり方を絵で教えてくれる魔法がかけられているんだ。」


なるほど、今身体から抜けてったものが魔力って訳ね。


「こんなの見なくても分かるわよ」


「呪文を唱えずにやろうとすると魔力が上手くコントロール出来なくて危険だ、とか色々教えてくれるぞ」


「貴方が全部教えられるならこんな教科書いらないじゃない」


どう考えても教科書は邪魔になっちゃうと思うのよね…。アレクシスが完璧に記憶してるならそれを教えてほしいんだけど…?
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...