62 / 209
騎士の葛藤
しおりを挟む
早速明日屋敷に来るという約束をし、部屋を出ると、私は未だに自分が言われたことが…信じられなかった。
いくら悪女とは言え殺すなんて…。
確かに簡単だろう。剣術を幼い頃から学び、騎士団長にまで登りつめた私ならば、簡単に出来てしまう。
…簡単すぎる。…戦場の敵でもない、ただの悪女と呼ばれる令嬢だ。いくら陛下の命令でもこればかりは…。
それになによりリティシア嬢はアレクの婚約者だ。アレクは最近の彼女を…とても気に入っているようだったのに。
確かに私も心配だがアレクの嬉しそうな様子は本物だった。私には分かる。
それなのに陛下は…私に親友の婚約者を殺させようというのか…?
仮にアレクが騙されていたとして…本当にリティシアが酷い人間だったとしたら…どうすれば良い。
私は彼女を…殺さなければならないのか…?
ただの令嬢を…親友の婚約者を…この手で。
いくら陛下の命令とはいえ殺してしまえば私とアレクの関係は破綻する。アレクは二度と私を親友と呼ばないであろう。
…それでも良い。それでアレクが結果的に救われるならば。だけどもし…リティシア嬢が本当に変わっていて、優しい令嬢であったとしたら…私は彼女を殺す必要がない。
…もちろん例え悪かったとしても暗殺をされるほどの悪女ではないはずだが。
もし、仮に優しい女性であるならば私は…なんの罪もない令嬢を殺す事になってしまうのだ。
陛下は自分の目で判断しろと言った。
…だが平民の意見など一体誰が聞くだろうか。アレクくらいだ。平等に耳を傾けてくれる王族は。
つまり私に最初から…選択権はないということ。
リティシア嬢を殺せ。…私に命じられたのはそれだけなのだ。
暫く悶々と考え込んでいると気づけばすっかり日が暮れていた。
…あまりにも帰りが遅いと団員達も心配するだろう。急いで寮に戻らなければ。
…団員達に今の出来事を相談することは到底出来ない。団長の不安や緊張はそのまま団員にも伝わってしまうのだから。
私は普段通りに振る舞うしかない。
漠然と廊下を歩いていると鮮やかな青い髪の青年が視界に入る。
彼があまりにも悲しそうな顔をしていたので声をかけるか迷ったが、こんな時こそ話しかけるべきかもしれない。
「…アレク」
それは小さく呟くような声だったのだが、彼はすぐに気づき振り返る。
「グレン…!」
私はそこでアレクが見ていた部屋の存在に気づく。そこは紛れもなく皇后の部屋であった。
アレクが皇后の部屋に来るとは珍しい。よっぽどの用がなければ彼が母親を訪ねることはなかったはずだ。ということは…何かがあったのだろう。
「アレク、どうしてこんなところに?」
「俺は…ちょっと用があってな。…ごめん。いつか話すよ。グレンはどうしてここに?」
「私は…陛下に呼ばれたんだ。…リティシア嬢の事で。」
「リティシアの事で?」
「あぁ。」
彼はそれが一体どんな内容であるのか気になるらしく、私をじっと見つめてくる。だがその全てを話す訳にもいかない為、言葉に詰まってしまう。
「…護衛騎士。私がリティシア嬢の護衛騎士に任命されたんだ」
「なるほど護衛騎士…護衛騎士!?どうして突然?いや待てよ護衛騎士か…。それは良い考えだな!」
先程の陛下の発言が衝撃すぎた私にとって、何が良い考えなのか全く分からなかった。
私のその困惑した表情に気づいたアレクが「あのな」と説明を始める。
「実は今日リティシアが…危険な目にあってしまったんだ。俺が…側にいなかったせいで…。だから誰か…俺の代わりにリティシアを護ってくれるような存在がいればいいなって丁度考えていたところだったんだ」
嬉しそうなアレクが言葉を紡ぐ度に酷く心が傷んだ。
「リティシアはどうしても誤解をされやすいから…俺にとって信頼できる誰かが彼女を護ってくれればって思っていたんだけど…グレンなら適役だ!断言できる。リティシアを任せられるのはお前しかいない!」
彼の顔を見ていられずに思わず視線を背けると、心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「…どうした?グレン。顔色悪いぞ…?」
「…あぁ、いや…ちょっと疲れてて。リティシア嬢がどんな人なのか私も気になっていたから丁度良かったよ。アレクの婚約者は…私が責任をもって護るから…安心してくれ」
違う、アレク。私はたった今、遠回しに暗殺の命令を受けたんだ。親友の婚約者を…この手で殺せと。
嬉しそうな親友を前に、そんな事は口が裂けても言えなかった。
アレクは自分のいない間も彼女を護ろうとしているのに、その父親は逆に殺そうとしている。
アレクの意思などお構いなしなのだろう。…両親に理解されず、更に尊重されない彼が一体どんな思いで過ごしているのかを彼らは知っているのだろうか。
せめて私はアレクの意思を理解しなければ。彼がリティシア嬢を護りたいと考えているならば…私がとるべき行動は一つだ。
…とりあえず彼女がどんな人間なのかをじっくり観察してみることにしよう。
いくら悪女とは言え殺すなんて…。
確かに簡単だろう。剣術を幼い頃から学び、騎士団長にまで登りつめた私ならば、簡単に出来てしまう。
…簡単すぎる。…戦場の敵でもない、ただの悪女と呼ばれる令嬢だ。いくら陛下の命令でもこればかりは…。
それになによりリティシア嬢はアレクの婚約者だ。アレクは最近の彼女を…とても気に入っているようだったのに。
確かに私も心配だがアレクの嬉しそうな様子は本物だった。私には分かる。
それなのに陛下は…私に親友の婚約者を殺させようというのか…?
仮にアレクが騙されていたとして…本当にリティシアが酷い人間だったとしたら…どうすれば良い。
私は彼女を…殺さなければならないのか…?
ただの令嬢を…親友の婚約者を…この手で。
いくら陛下の命令とはいえ殺してしまえば私とアレクの関係は破綻する。アレクは二度と私を親友と呼ばないであろう。
…それでも良い。それでアレクが結果的に救われるならば。だけどもし…リティシア嬢が本当に変わっていて、優しい令嬢であったとしたら…私は彼女を殺す必要がない。
…もちろん例え悪かったとしても暗殺をされるほどの悪女ではないはずだが。
もし、仮に優しい女性であるならば私は…なんの罪もない令嬢を殺す事になってしまうのだ。
陛下は自分の目で判断しろと言った。
…だが平民の意見など一体誰が聞くだろうか。アレクくらいだ。平等に耳を傾けてくれる王族は。
つまり私に最初から…選択権はないということ。
リティシア嬢を殺せ。…私に命じられたのはそれだけなのだ。
暫く悶々と考え込んでいると気づけばすっかり日が暮れていた。
…あまりにも帰りが遅いと団員達も心配するだろう。急いで寮に戻らなければ。
…団員達に今の出来事を相談することは到底出来ない。団長の不安や緊張はそのまま団員にも伝わってしまうのだから。
私は普段通りに振る舞うしかない。
漠然と廊下を歩いていると鮮やかな青い髪の青年が視界に入る。
彼があまりにも悲しそうな顔をしていたので声をかけるか迷ったが、こんな時こそ話しかけるべきかもしれない。
「…アレク」
それは小さく呟くような声だったのだが、彼はすぐに気づき振り返る。
「グレン…!」
私はそこでアレクが見ていた部屋の存在に気づく。そこは紛れもなく皇后の部屋であった。
アレクが皇后の部屋に来るとは珍しい。よっぽどの用がなければ彼が母親を訪ねることはなかったはずだ。ということは…何かがあったのだろう。
「アレク、どうしてこんなところに?」
「俺は…ちょっと用があってな。…ごめん。いつか話すよ。グレンはどうしてここに?」
「私は…陛下に呼ばれたんだ。…リティシア嬢の事で。」
「リティシアの事で?」
「あぁ。」
彼はそれが一体どんな内容であるのか気になるらしく、私をじっと見つめてくる。だがその全てを話す訳にもいかない為、言葉に詰まってしまう。
「…護衛騎士。私がリティシア嬢の護衛騎士に任命されたんだ」
「なるほど護衛騎士…護衛騎士!?どうして突然?いや待てよ護衛騎士か…。それは良い考えだな!」
先程の陛下の発言が衝撃すぎた私にとって、何が良い考えなのか全く分からなかった。
私のその困惑した表情に気づいたアレクが「あのな」と説明を始める。
「実は今日リティシアが…危険な目にあってしまったんだ。俺が…側にいなかったせいで…。だから誰か…俺の代わりにリティシアを護ってくれるような存在がいればいいなって丁度考えていたところだったんだ」
嬉しそうなアレクが言葉を紡ぐ度に酷く心が傷んだ。
「リティシアはどうしても誤解をされやすいから…俺にとって信頼できる誰かが彼女を護ってくれればって思っていたんだけど…グレンなら適役だ!断言できる。リティシアを任せられるのはお前しかいない!」
彼の顔を見ていられずに思わず視線を背けると、心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「…どうした?グレン。顔色悪いぞ…?」
「…あぁ、いや…ちょっと疲れてて。リティシア嬢がどんな人なのか私も気になっていたから丁度良かったよ。アレクの婚約者は…私が責任をもって護るから…安心してくれ」
違う、アレク。私はたった今、遠回しに暗殺の命令を受けたんだ。親友の婚約者を…この手で殺せと。
嬉しそうな親友を前に、そんな事は口が裂けても言えなかった。
アレクは自分のいない間も彼女を護ろうとしているのに、その父親は逆に殺そうとしている。
アレクの意思などお構いなしなのだろう。…両親に理解されず、更に尊重されない彼が一体どんな思いで過ごしているのかを彼らは知っているのだろうか。
せめて私はアレクの意思を理解しなければ。彼がリティシア嬢を護りたいと考えているならば…私がとるべき行動は一つだ。
…とりあえず彼女がどんな人間なのかをじっくり観察してみることにしよう。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる