悪役令嬢リティシア

如月フウカ

文字の大きさ
64 / 209

反論

しおりを挟む
「い、いえ、私達は何も…」


「そ、そうですわ、私達はえっと…リティシア様ともあろうお方が平民を護衛騎士になさるなんて…と思いまし…て」


 …こんなに平民への差別が浸透しているのね。悲しくなってくるわ。


 前世は貧富の差はあれど…身分制度もなく平等な世界だったのに。勿論完璧に平等とは言えないけど、ここまで酷くはなかったわ。


 …問題なのは差別を受けることを平民達が当たり前だと思っていること。それだけは変えなければいけない。


 貴族だろうが平民だろうが皆同じ人間なんだから…差別なんて醜いことをする必要はないのよ。


 アーグレン。見てなさい。貴方は私が…護ってあげる。


「平民を護衛騎士にして何が悪いの?簡潔に述べなさい」


「で、ですから平民なんて卑しい存在は…」


 言いにくそうに視線を逸らしながらも彼女はハッキリと「卑しい」という言葉を口にする。


 人の出身を知って手の平を返す人間と、努力で登り詰めた王室の騎士団長。


 本当に卑しいのは…どちらかしらね。


「彼は王室の騎士団長よ。これ以上高貴な存在なんてなかなかいないと思うけど?」


 さて、どう反論するのかしら?


「…リティシア様…出身は変わらないんです!アーグレンさんが食べ物もろくに食べれないような卑しい平民だったとしたら…そんな人間を護衛騎士にしたリティシア様まで侮辱されるんですよ!」


 私に訴えかけるようにうっすらと目元に涙まで浮かべる侍女に呆れて開いた口が塞がらない。


 私の価値が下がると言えば私の心配をしているだけだと思わせられる…なるほど、良い考えだわ。


 まぁそんなの…私に通用しないけど。


「もしそうだとしたら…そうさせたのは貴族よ。馬鹿にされるのはむしろ貴族の方だわ。…違う?私達貴族が平民達から税金を巻き上げてるんでしょう?」


「それは…卑しい平民達は高貴な私達にお金を支払う義務があるからです!」


 そんな義務聞いたことないんだけど…でもこれは侍女に限ったことじゃないんでしょうね。


 この考えが…この世界では当たり前なんだわ。平民は見下されて当然の世界…言語道断ね。許せないわ。


「卑しいとか高貴とか…本当は何もないのよ。王族はただ王族に生まれただけだし、貴族も同じ。平民だってその家に生まれただけだし、結局私達は何も変わらないのよ」


 私は諭すように出来る限り優しく伝えたつもりだったのだが、侍女は更に大粒の涙を流す。そしてふらりとよろめいたかと思うと、もう一人の侍女に抱きつき、頭を撫でてもらっている。


 …これは…悲劇のヒロイン作戦ね。


「…リティシア様…私達を平民と一緒にするなんてあんまりです…私はれっきとした貴族なのに!」


「…そうね。じゃぁ今から貴女の貴族としての権利を剥奪して平民にしてあげるわ。そうすれば平民と同じ扱いが出来るものね」


「リティシア様!もし今から私が平民になったとしても…元は貴族なんです!卑しい平民扱いが許される訳ありません!」


 自分の身分の危機を察した彼女は声を張り上げ、主人にいじめられる可哀想な使用人を演じ始める。


 私はその言葉を受け、深くため息をつく。


「…そう。随分我儘なのね。平民を卑しい卑しいと馬鹿にする癖に、いざ自分が平民になったら卑しくないということでしょう?じゃぁ結局身分ってなんなのかしら?本当に必要なもの?…その差別っていらないと思わない?」


「それは…」


 侍女は泣き落としが通用しないことに気づくと涙を止める。


 いくら私が前と変わったからって…泣くだけでどうにかなる訳ないでしょう。


 まぁ彼女の気持ちも分からなくないわ…。


 私にクビにされたくないから必死なのよね。


 実際はクビにする権限をもっているのは両親だから出来ないけど…私にも出来ることがあるわ。


 それじゃ小説の悪役令嬢リティシアみたいに…罰を下しましょうか。


「…クビにはしないであげる。その代わり…貴女達二人共…給料を減額してあげるわ。この程度で済んだ事を感謝なさい。」


「そんな!リティシア様、私達は今まで真面目に働いていました!お願いします、それだけは…!」


 そうよね。貴族にとってお金は重要だものね。ドレスに宝石、その他の贅沢品を買う為にお金は必須。お金があればあるほど貴族としての立場が確立されるからね。


 貴族が使用人として働くなんてそれだけで周囲から笑われる理由になるのに、減額されたなんて噂が広まれば確実に良い印象は与えられない。彼女達はそれを…恐れている。


 呆れるわ、結局最後まで自分のことしか考えないのね。クビにできるものなら本当にしてやりたいくらいだわ。


「あら、誰が反論しても良いと言った?私にどれだけ媚びようと結果は変わらないわ。諦めなさい」


「リティシア様…!」


「どうかご慈悲を…!」


「あぁ言い忘れてたわ。この事は他言無用よ。もし誰かに話したりしたら…」


 私は侍女達を見ながら机に食べずに放置されていたクッキーを手に取る。


 そして無表情のまま淡々と呪文を唱える。その瞬間、炎が一気に燃え盛りクッキーを包み込むと、それは瞬く間に灰へと変わった。


「次は貴女達が…こうなる番よ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...