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忠誠
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「えぇ。知っているわ」
「ですが…もうその必要はないようです。公女様のことは…よく分かりましたから」
アーグレンはそう呟いたかと思うと自然な動作でその場に跪く。私が驚くより早く彼はある言葉を宣言する。
「改めて誓います。公女様を…この命に代えてもお護りすると」
彼の言葉は決して上っ面のものではなく、強い決意が節々から感じ取れる。
しかし私はその決意を…素直に受け取るつもりはない。
私はその言葉に目を細め、少しからかうかのように告げる。
「あら、貴方が忠誠を誓うのは私じゃなくて…アレクでしょう?」
「…え…?」
彼は紫色の瞳を大きく見開き、驚いた様子を見せる。
表情をどんどん変えてくれるということはこちらに気を許しているということ。
これはとても喜ぶべきことだわ。
…まぁアーグレンが私の言葉に驚くのも無理はないわ。騎士団長が一般的に忠誠を誓うのは王子じゃなくて王様だものね。
「知ってるわよ。貴方とアレクが親友だってこと。」
その言葉に衝撃を受けたのか、更に大きく瞳を見開いたが、やがてそれを止め、軽く笑ってみせる。
彼はゆっくりと立ち上がった。
「…全てご存知なのですね。そうです。アレクは…幼い頃からの友人で…私にとってかけがえのない親友です。」
彼がアレクシスのことを「アレク」と呼ぶことは既に知っている。
私も同じ呼び方をすることで彼は無意識に親近感をもってくれるはず。
…あとは…お前なんかにアレクは渡さないぞっていう敵対心が生まれないことを祈るだけ。
大丈夫よアーグレン。貴方が何もしなくても私とアレクが結ばれることなんてないのだから…。安心していいのよ。
「えぇ。分かっているわ。だから貴方のその忠誠はアレクにとっておきなさい。貴方のその思いは…確実にアレクの助けになるから。」
アーグレンはアレクを家族、あるいはそれ以上のように思い、心から慕っていると小説にも書いてあった。
彼のアレクへの思いは計り知れない。決して裏切ることのない最強の味方になってくれることだろう。彼の存在は、アレクにとっても大きな助けになるはずだ。
私の事は最終的に裏切っても構わない。
アレクの味方になってくれるならば。
…殺すのだけは勘弁してほしいけどね。
「…はい。ですがアレクへの忠誠はその婚約者であるリティシア公女様にも同様です。…私を庇ってくださり、有難うございました。私は今この瞬間から…少し遅くなりましたが、公女様をお護りし…従う事を誓います」
彼の真剣な眼差しを受け、私はどう言葉を返すべきか悩んでしまう。
アレクにだけ忠誠を誓ってくれればそれで良いんだけど…だからといって騎士の忠誠を何度も拒絶するものではないわよね。
私は少し迷った後、彼の前にそっと手を差し出す。
「分かった。貴方の忠誠を受け取るわ。私はそんなに儀式とかに詳しくないけれど…こういうのは手に口づけするものなんでしょう?」
アーグレンは少し驚きながらも口元に軽く笑みを浮かべ、こちらの手を優しく手に取る。そしてほんの一瞬触れた彼の唇は…恐ろしく冷たかった。
…恐らく緊張によるものなのだろうが…緊張だけでこれ程冷たくなるだろうか…?
手袋をしていた為手の温度は感じ取れなかったが、恐らく氷のように冷えきっているのだろう。…この部屋は決して寒い訳ではないはずなのに。
私は知らなかったのだ。
彼のその決断が王命に逆らうという最大の…反逆であった事を。
私は彼の身体が冷え切っている理由をいくつか考えたが、大した答えは生まれなかった。
結局、彼は相当緊張していたのだろうと無理矢理納得せざるを得なかったのである。
そして彼の次の発言で今まで考えていたことの全てが吹っ飛ぶこととなる。
「…アレクの時とは違う反応をなさるんですね」
「え?」
アーグレンの意図が全く読めずに困惑し、聞き返したのだが、彼は私に答える代わりにただ笑ってみせる。
彼の瞳の光が悪戯っぽく揺れた。
「凄く可愛らしい表情をなされたとお聞きしましたので私も見れるかと思ったのですが…少し残念です」
残念…?一体どういう意味よ…?
確か…アレクの時と違うって言ってたわよね。
何が違うのかしら…とりあえず、アーグレンの直前の行動をよく思い返してみよう。
彼は儀式としてだけど私の手に口づけをして…手に…はっ。
ちょっと待ってまさか…あの時パーティのことを言っているの…!?
それにしてもおかしいわ、あの場にいなかったアーグレンが…どうして知っているのよ!
恐らく…いやほぼ確実に彼はパーティでアレクが唐突に私の手に口づけをした時のことを言っているのだろう。私はその時確かに顔を背け赤面してしまった覚えがある。そう、つまり…。
「…アーグレン…貴方私をからかってるのね」
アレクってば…そんな事まで話してたの!?
いや、そうよね、急に悪女が変わったら興味が湧くのは当然だし、何が起こったかを親友に話すのは分かるけど…。
アレクは私が変わったことをなんとかアーグレンに伝えようとしてその出来事を引き合いに出したのかもしれないわね。
それにしても…親友って困るわ…。
「ですが…もうその必要はないようです。公女様のことは…よく分かりましたから」
アーグレンはそう呟いたかと思うと自然な動作でその場に跪く。私が驚くより早く彼はある言葉を宣言する。
「改めて誓います。公女様を…この命に代えてもお護りすると」
彼の言葉は決して上っ面のものではなく、強い決意が節々から感じ取れる。
しかし私はその決意を…素直に受け取るつもりはない。
私はその言葉に目を細め、少しからかうかのように告げる。
「あら、貴方が忠誠を誓うのは私じゃなくて…アレクでしょう?」
「…え…?」
彼は紫色の瞳を大きく見開き、驚いた様子を見せる。
表情をどんどん変えてくれるということはこちらに気を許しているということ。
これはとても喜ぶべきことだわ。
…まぁアーグレンが私の言葉に驚くのも無理はないわ。騎士団長が一般的に忠誠を誓うのは王子じゃなくて王様だものね。
「知ってるわよ。貴方とアレクが親友だってこと。」
その言葉に衝撃を受けたのか、更に大きく瞳を見開いたが、やがてそれを止め、軽く笑ってみせる。
彼はゆっくりと立ち上がった。
「…全てご存知なのですね。そうです。アレクは…幼い頃からの友人で…私にとってかけがえのない親友です。」
彼がアレクシスのことを「アレク」と呼ぶことは既に知っている。
私も同じ呼び方をすることで彼は無意識に親近感をもってくれるはず。
…あとは…お前なんかにアレクは渡さないぞっていう敵対心が生まれないことを祈るだけ。
大丈夫よアーグレン。貴方が何もしなくても私とアレクが結ばれることなんてないのだから…。安心していいのよ。
「えぇ。分かっているわ。だから貴方のその忠誠はアレクにとっておきなさい。貴方のその思いは…確実にアレクの助けになるから。」
アーグレンはアレクを家族、あるいはそれ以上のように思い、心から慕っていると小説にも書いてあった。
彼のアレクへの思いは計り知れない。決して裏切ることのない最強の味方になってくれることだろう。彼の存在は、アレクにとっても大きな助けになるはずだ。
私の事は最終的に裏切っても構わない。
アレクの味方になってくれるならば。
…殺すのだけは勘弁してほしいけどね。
「…はい。ですがアレクへの忠誠はその婚約者であるリティシア公女様にも同様です。…私を庇ってくださり、有難うございました。私は今この瞬間から…少し遅くなりましたが、公女様をお護りし…従う事を誓います」
彼の真剣な眼差しを受け、私はどう言葉を返すべきか悩んでしまう。
アレクにだけ忠誠を誓ってくれればそれで良いんだけど…だからといって騎士の忠誠を何度も拒絶するものではないわよね。
私は少し迷った後、彼の前にそっと手を差し出す。
「分かった。貴方の忠誠を受け取るわ。私はそんなに儀式とかに詳しくないけれど…こういうのは手に口づけするものなんでしょう?」
アーグレンは少し驚きながらも口元に軽く笑みを浮かべ、こちらの手を優しく手に取る。そしてほんの一瞬触れた彼の唇は…恐ろしく冷たかった。
…恐らく緊張によるものなのだろうが…緊張だけでこれ程冷たくなるだろうか…?
手袋をしていた為手の温度は感じ取れなかったが、恐らく氷のように冷えきっているのだろう。…この部屋は決して寒い訳ではないはずなのに。
私は知らなかったのだ。
彼のその決断が王命に逆らうという最大の…反逆であった事を。
私は彼の身体が冷え切っている理由をいくつか考えたが、大した答えは生まれなかった。
結局、彼は相当緊張していたのだろうと無理矢理納得せざるを得なかったのである。
そして彼の次の発言で今まで考えていたことの全てが吹っ飛ぶこととなる。
「…アレクの時とは違う反応をなさるんですね」
「え?」
アーグレンの意図が全く読めずに困惑し、聞き返したのだが、彼は私に答える代わりにただ笑ってみせる。
彼の瞳の光が悪戯っぽく揺れた。
「凄く可愛らしい表情をなされたとお聞きしましたので私も見れるかと思ったのですが…少し残念です」
残念…?一体どういう意味よ…?
確か…アレクの時と違うって言ってたわよね。
何が違うのかしら…とりあえず、アーグレンの直前の行動をよく思い返してみよう。
彼は儀式としてだけど私の手に口づけをして…手に…はっ。
ちょっと待ってまさか…あの時パーティのことを言っているの…!?
それにしてもおかしいわ、あの場にいなかったアーグレンが…どうして知っているのよ!
恐らく…いやほぼ確実に彼はパーティでアレクが唐突に私の手に口づけをした時のことを言っているのだろう。私はその時確かに顔を背け赤面してしまった覚えがある。そう、つまり…。
「…アーグレン…貴方私をからかってるのね」
アレクってば…そんな事まで話してたの!?
いや、そうよね、急に悪女が変わったら興味が湧くのは当然だし、何が起こったかを親友に話すのは分かるけど…。
アレクは私が変わったことをなんとかアーグレンに伝えようとしてその出来事を引き合いに出したのかもしれないわね。
それにしても…親友って困るわ…。
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