109 / 209
夕食
しおりを挟む
私は再び広いベッドを贅沢に使って、暫く一人の時間を楽しんでいるとドアをノックする音が聞こえてくる。
またアーグレンだと思ったのだが聞こえてきた声は全く違う高い女性の声であった。
「リティ~?夕食の時間よ!一緒に食べましょ~!」
あぁ、もうそんな時間だったっけ。
私は軽く返事をするとゆっくりと立ち上がった。
昨日はお父様、今日はお母様が決まった時間に私を呼びに来た。
家族三人揃って食事をとるというのがどうやらこのブロンド家の暗黙のルールらしい。
以前は二人が会議に行っていていなかったから一人で随分と気楽に食べられたのだが、今はそうもいかない。
気を遣わなければいけない時間でもあるのだが、一人で食べるより三人で食べる方が食事が美味しく感じるというのは不思議なものだ。
お父様の仕事が長引いた時も、出掛けたお母様の帰りが遅くなった時も、ずっと相手を待っていて、三人揃うまで絶対に食べようとはしないのだ。
予め帰りが遅いことを伝えていたり、泊まりで帰ってこないなどの場合を除けば、ほぼ確定で一緒の時間を過ごすのである。
ちなみにアーグレンも一緒に食べようと両親も込みで誘っているのだが「私が護衛騎士であることを忘れてしまうのでどうか一人で食べさせて下さい…」と断られてしまった。
…一緒に食べようっていうのがそんなに変なことだなんておかしな世界だよね。
まぁ強要するつもりはないんだけどさ。
そしてお母様に連れられて部屋に入ると、待ち構えていたお父様が私を見て微笑んだ。
「リティ~!待ってたよ。さぁ皆でご飯を食べよう」
お母様と同じテンションで私の名を呼ぶので思わず吹き出してしまう。
そしてリティシアがそんなキャラではなかったことを思い出して慌てて真顔に戻したのだが、二人は嬉しそうにこちらを見ていた。
席に着くと、二人は急にこんな話をし始める。
「最近はリティがよく笑うようになったわね」
「あぁそうだな。アレクシス殿下とアーグレン君のおかげかな?」
…あぁきっと悪役令嬢は怒ってばっかだったんだろうな…。
「きっとそうね。でもリティ、絶対に浮気なんかしちゃダメよ。殿下がとっても悲しむからね!いくらリティが魅力的でも、それだけはダメ!…ね?」
「…分かっています。浮気なんて絶対にしませんよ。でも殿下ならいくらでも私以外に相手がいるでしょうし仮に私がダメになったとしても問題ないんじゃないでしょうか?」
私が何気なく呟いたその一言にお母様とお父様の動きがピタリと止まる。
突如静止してしまった二人を私が不思議そうに眺めると、お母様が軽く首を傾げた。
「あら何言ってるの?殿下にはリティしかいないに決まってるわ。ねぇアーゼル?」
「あぁそうだな。私もそう思うよ。こんなに可愛いリティなんだから殿下も相当惚れているに違いない」
出たよこの清々しいほどの親バカ…この人達には私が天使のように見えているのかな。
居づらさ満点の空気だけど、なんだかリティシアのことを話している時はとっても楽しそうだしそれなら良いか。
二人の笑顔を見ていると…娘さんを奪ってしまった罪悪感が少しだけ和らぐ気がするしね…。
「殿下はアーゼルの次に良い男なんだから、絶対捕まえておくのよ!もし逃しちゃってもお母様が魔法で捕まえておくから安心してね!」
お母様が小さく炎を手に浮かべてみせるので私は思わずぎょっとする。
お母様が娘の為に王子を拉致した挙げ句、炎で脅す様子が容易に想像できてしまったので慌てて否定の言葉を口にする。
「物理的に捕まえておくのはやめてください…」
「うふふ。それくらい本気ってことよ。でも殿下ならリティを傷つけるんじゃなくて、ちゃんと護ってくれる気がするわ。」
「でももし万が一殿下が何かしたらちゃんと言うんだぞ。リティのことは私とリリーでちゃんと護るからな」
「何もしないですよ。殿下は…優しい人ですから」
その返答を待っていたのか二人は優しく微笑んでくれる。初めからアレクを悪く言うつもりは微塵もなかったようだった。
「あら、リティは殿下が大好きなのね」
「大好き…でもいいんでしょうか。私…なんかが。」
私が彼を大好きでいる資格なんてあるのだろうか。あるとしたら一体誰が許可してくれるんだろう。
主人公に倒されるただの悪役がアレクを…男主人公を想うなどと言うことが果たして許されるのだろうか。悪は常に悪でなければ物語が物語として成り立たないのに。
「リティ。誰かを好きだって気持ちは止められないのよ。リティが好きなら好きで良いの。誰かに許可されるようなものではないわ。」
「そう…ですよね」
想うだけなら確かに自由だものね。別にそれ以上を求めなければ良い。ただ私は途中で退場して見守ればいい。嫉妬に狂った悪役なんかには絶対にならない。
できる。私なら。いや、やるしかないのよ。
「その気持ちはきっと殿下にも伝わってると思うわ」
伝わっていたら困るんだけどね…。なんで婚約破棄を言い出したのかって思われちゃうもの。
でも確かあの時アレクは俺との婚約についてどう思ってるのかって言ってたから…もしかしたら婚約破棄したいなって思ってくれてるのかも…?
そうなれば簡単に話は進むわね。
私とアレクは晴れて他人に逆戻り。婚約なんてなかったかのように普通の日常へと戻る。
…それが悪役にとって一番良い理想なんだから。
私は迷いを断ち切るように運ばれてきた料理にナイフを突き立てた。
またアーグレンだと思ったのだが聞こえてきた声は全く違う高い女性の声であった。
「リティ~?夕食の時間よ!一緒に食べましょ~!」
あぁ、もうそんな時間だったっけ。
私は軽く返事をするとゆっくりと立ち上がった。
昨日はお父様、今日はお母様が決まった時間に私を呼びに来た。
家族三人揃って食事をとるというのがどうやらこのブロンド家の暗黙のルールらしい。
以前は二人が会議に行っていていなかったから一人で随分と気楽に食べられたのだが、今はそうもいかない。
気を遣わなければいけない時間でもあるのだが、一人で食べるより三人で食べる方が食事が美味しく感じるというのは不思議なものだ。
お父様の仕事が長引いた時も、出掛けたお母様の帰りが遅くなった時も、ずっと相手を待っていて、三人揃うまで絶対に食べようとはしないのだ。
予め帰りが遅いことを伝えていたり、泊まりで帰ってこないなどの場合を除けば、ほぼ確定で一緒の時間を過ごすのである。
ちなみにアーグレンも一緒に食べようと両親も込みで誘っているのだが「私が護衛騎士であることを忘れてしまうのでどうか一人で食べさせて下さい…」と断られてしまった。
…一緒に食べようっていうのがそんなに変なことだなんておかしな世界だよね。
まぁ強要するつもりはないんだけどさ。
そしてお母様に連れられて部屋に入ると、待ち構えていたお父様が私を見て微笑んだ。
「リティ~!待ってたよ。さぁ皆でご飯を食べよう」
お母様と同じテンションで私の名を呼ぶので思わず吹き出してしまう。
そしてリティシアがそんなキャラではなかったことを思い出して慌てて真顔に戻したのだが、二人は嬉しそうにこちらを見ていた。
席に着くと、二人は急にこんな話をし始める。
「最近はリティがよく笑うようになったわね」
「あぁそうだな。アレクシス殿下とアーグレン君のおかげかな?」
…あぁきっと悪役令嬢は怒ってばっかだったんだろうな…。
「きっとそうね。でもリティ、絶対に浮気なんかしちゃダメよ。殿下がとっても悲しむからね!いくらリティが魅力的でも、それだけはダメ!…ね?」
「…分かっています。浮気なんて絶対にしませんよ。でも殿下ならいくらでも私以外に相手がいるでしょうし仮に私がダメになったとしても問題ないんじゃないでしょうか?」
私が何気なく呟いたその一言にお母様とお父様の動きがピタリと止まる。
突如静止してしまった二人を私が不思議そうに眺めると、お母様が軽く首を傾げた。
「あら何言ってるの?殿下にはリティしかいないに決まってるわ。ねぇアーゼル?」
「あぁそうだな。私もそう思うよ。こんなに可愛いリティなんだから殿下も相当惚れているに違いない」
出たよこの清々しいほどの親バカ…この人達には私が天使のように見えているのかな。
居づらさ満点の空気だけど、なんだかリティシアのことを話している時はとっても楽しそうだしそれなら良いか。
二人の笑顔を見ていると…娘さんを奪ってしまった罪悪感が少しだけ和らぐ気がするしね…。
「殿下はアーゼルの次に良い男なんだから、絶対捕まえておくのよ!もし逃しちゃってもお母様が魔法で捕まえておくから安心してね!」
お母様が小さく炎を手に浮かべてみせるので私は思わずぎょっとする。
お母様が娘の為に王子を拉致した挙げ句、炎で脅す様子が容易に想像できてしまったので慌てて否定の言葉を口にする。
「物理的に捕まえておくのはやめてください…」
「うふふ。それくらい本気ってことよ。でも殿下ならリティを傷つけるんじゃなくて、ちゃんと護ってくれる気がするわ。」
「でももし万が一殿下が何かしたらちゃんと言うんだぞ。リティのことは私とリリーでちゃんと護るからな」
「何もしないですよ。殿下は…優しい人ですから」
その返答を待っていたのか二人は優しく微笑んでくれる。初めからアレクを悪く言うつもりは微塵もなかったようだった。
「あら、リティは殿下が大好きなのね」
「大好き…でもいいんでしょうか。私…なんかが。」
私が彼を大好きでいる資格なんてあるのだろうか。あるとしたら一体誰が許可してくれるんだろう。
主人公に倒されるただの悪役がアレクを…男主人公を想うなどと言うことが果たして許されるのだろうか。悪は常に悪でなければ物語が物語として成り立たないのに。
「リティ。誰かを好きだって気持ちは止められないのよ。リティが好きなら好きで良いの。誰かに許可されるようなものではないわ。」
「そう…ですよね」
想うだけなら確かに自由だものね。別にそれ以上を求めなければ良い。ただ私は途中で退場して見守ればいい。嫉妬に狂った悪役なんかには絶対にならない。
できる。私なら。いや、やるしかないのよ。
「その気持ちはきっと殿下にも伝わってると思うわ」
伝わっていたら困るんだけどね…。なんで婚約破棄を言い出したのかって思われちゃうもの。
でも確かあの時アレクは俺との婚約についてどう思ってるのかって言ってたから…もしかしたら婚約破棄したいなって思ってくれてるのかも…?
そうなれば簡単に話は進むわね。
私とアレクは晴れて他人に逆戻り。婚約なんてなかったかのように普通の日常へと戻る。
…それが悪役にとって一番良い理想なんだから。
私は迷いを断ち切るように運ばれてきた料理にナイフを突き立てた。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる