168 / 209
謝罪
しおりを挟む
「…そうだ。ルナ、貴女のその傷も私が作ったものなのよね?貴女にも治療費を…」
「いえ、私は大丈夫です。すぐに治りますから。それよりもイサベルさんがお嬢様に話したいことがあるみたいですよ?」
「え?」
ルナは私からの申し出をやんわりと否定すると、イサベルへと視線を向ける。
私も釣られて彼女を見ると、イサベルは何かを言いたげにこちらを見つめていた。
「…イサベル?」
そして彼女は開口一番、衝撃の言葉を口にした。
「申し訳ございませんでした!」
イサベルは瞳にうっすらと涙まで浮かべながら大声で私に謝罪をしたのである。
今までの話の中で彼女が謝らなければならない何かが果たしてあったのだろうか?あるとしたら一体どこに?
「えっ?…何が?」
衝撃すぎる展開に困惑を隠せなかったが、なんとか彼女に尋ねることに成功する。
「私…少しだけ…ほんの少しだけリティシア様を疑ってしまいました。本当は…悪い人なんじゃないかって。…本当に、本当に申し訳ありませんでした。ご主人様を疑ってしまった罪は到底許されるものではございません。いかなる罰もお受け致します。」
イサベルは地面に跪いてそのまま土下座でもしそうな勢いだったので私は慌てて顔をあげるように彼女に伝える。顔をあげた彼女の顔はもう涙で歪んでいた。
「そうだったのね。それは分かったからとりあえず落ち着いて」
「リティシア様は…私の命の恩人なのに…それを疑ってしまうだなんて…本当に申し訳ございませんでした…!」
「…ねぇイサベル。貴女の考えは間違ってなんかいないわ。そうよね、ルナ。私のお転婆ぶり、覚えているでしょう」
ルナは少し戸惑いながらも黙って頷いた。
以前の彼女…つまり本物のリティシアについてお転婆という言葉を使用したのは…彼女の行動を事細かく伝えるとなるとあまりにも酷い表現になってしまうからだった。
「イサベル、以前の私はとんでもないクズだったのよ。」とか言われたら流石に仕えたくなくなるものね。ここは柔らかい表現にしときましょ。
イサベルは「お転婆…?」と悪い人とお転婆の関連性がいまいち見出だせていないようであったが、これ以上はようやく得られた信頼が揺らいでしまうきっかけになりかねないのでやめておこう。
「まぁ兎に角貴女が無事でよかったわ。今みたいなことはもう起こらないと思うけどこれからはちゃんと言って頂戴ね。流石の私もこの屋敷の全ては把握できないんだから」
私がそう告げると、イサベルは何度も瞬きをする。驚きで涙は止まったようだが、既に流れていた涙のせいで彼女の頬が濡れてしまっている。
私はハンカチでそっと拭ってあげると、再びイサベルの瞳から涙が溢れてしまった。
「えっ、ど、どうして泣くのよ」
「リティシア様、本当にそれだけですか?私のせいで侍女を一人追い出すことになってしまって…しかも私はリティシア様に隠し事までしていたのに…何もお咎めなしなのですか?それではとてもリティシア様の苦労が報われないではありませんか…!」
「…あのね、イサベル。悪いのはあの侍女でしょ。イサベルは何も悪くないんだからお咎めなし。当たり前よ。貴女はただ真面目に働いてただけ。そうね、どうしても罰を与えるとしたら…とりあえず休憩しなさい。そんなに泣いてたら何もできやしないわ。今日は部屋でゆっくり休むことね。」
「お嬢様、それ以上は…」
ルナが困惑したように私に声をかけてくるので、イサベルに視線を向けると、彼女の瞳から大粒の涙が溢れていた。
よ、よく泣くわねこの子。なんで?そんなに怖いかな私って…。
「リティシア様ぁ…私、ずっとお仕えしたいです。リティシア様のお側に永遠にいさせて下さい…」
「それは嬉しいけど将来のことはちゃんと考えなさい。今はまだいなくても、いつか貴女の大好きな人が現れるかもしれないんだから」
「今います、リティシア様が私の大好きな人です…」
「そういうことじゃなくてね…」
泣きじゃくりながら愛の告白をするイサベルに私は呆れるしかない。嬉しいけどそういうことじゃないんだってば。
ちょっと原作小説の作者さん?
主人公イサベルが悪役令嬢リティシアに告白するって一体どういう状況なのよ!
イサベルとアレクシスは永遠の恋人なんじゃないの?あの二人は生涯お互いしか見ないし愛さないって言ってたじゃない。
それにしては同性とはいえあまりにも簡単に告白したわよこの子!
どうしよう、原作とズレすぎてどう修正すればいいか分からない…。今のところ一番原作通りなのはアルターニャ王女くらいなものよ…。
こんなんで本当にアレクを幸せにできるの…?
もう私が二人を脅迫して結婚させるとかしか方法が浮かばないんだけど…。イサベルはともかく王子を脅迫は普通にまずいわね。というか受け入れてくれなさそうだし…。
あぁ…なんとか正攻法を見つけなきゃなぁ…。
私は一人深いため息をつく。
今回のことで得られたことはたった一つ。
イサベルの愛だ。
…それを!アレクに向けて頂戴!私が欲しいわけじゃないのよ…!
「いえ、私は大丈夫です。すぐに治りますから。それよりもイサベルさんがお嬢様に話したいことがあるみたいですよ?」
「え?」
ルナは私からの申し出をやんわりと否定すると、イサベルへと視線を向ける。
私も釣られて彼女を見ると、イサベルは何かを言いたげにこちらを見つめていた。
「…イサベル?」
そして彼女は開口一番、衝撃の言葉を口にした。
「申し訳ございませんでした!」
イサベルは瞳にうっすらと涙まで浮かべながら大声で私に謝罪をしたのである。
今までの話の中で彼女が謝らなければならない何かが果たしてあったのだろうか?あるとしたら一体どこに?
「えっ?…何が?」
衝撃すぎる展開に困惑を隠せなかったが、なんとか彼女に尋ねることに成功する。
「私…少しだけ…ほんの少しだけリティシア様を疑ってしまいました。本当は…悪い人なんじゃないかって。…本当に、本当に申し訳ありませんでした。ご主人様を疑ってしまった罪は到底許されるものではございません。いかなる罰もお受け致します。」
イサベルは地面に跪いてそのまま土下座でもしそうな勢いだったので私は慌てて顔をあげるように彼女に伝える。顔をあげた彼女の顔はもう涙で歪んでいた。
「そうだったのね。それは分かったからとりあえず落ち着いて」
「リティシア様は…私の命の恩人なのに…それを疑ってしまうだなんて…本当に申し訳ございませんでした…!」
「…ねぇイサベル。貴女の考えは間違ってなんかいないわ。そうよね、ルナ。私のお転婆ぶり、覚えているでしょう」
ルナは少し戸惑いながらも黙って頷いた。
以前の彼女…つまり本物のリティシアについてお転婆という言葉を使用したのは…彼女の行動を事細かく伝えるとなるとあまりにも酷い表現になってしまうからだった。
「イサベル、以前の私はとんでもないクズだったのよ。」とか言われたら流石に仕えたくなくなるものね。ここは柔らかい表現にしときましょ。
イサベルは「お転婆…?」と悪い人とお転婆の関連性がいまいち見出だせていないようであったが、これ以上はようやく得られた信頼が揺らいでしまうきっかけになりかねないのでやめておこう。
「まぁ兎に角貴女が無事でよかったわ。今みたいなことはもう起こらないと思うけどこれからはちゃんと言って頂戴ね。流石の私もこの屋敷の全ては把握できないんだから」
私がそう告げると、イサベルは何度も瞬きをする。驚きで涙は止まったようだが、既に流れていた涙のせいで彼女の頬が濡れてしまっている。
私はハンカチでそっと拭ってあげると、再びイサベルの瞳から涙が溢れてしまった。
「えっ、ど、どうして泣くのよ」
「リティシア様、本当にそれだけですか?私のせいで侍女を一人追い出すことになってしまって…しかも私はリティシア様に隠し事までしていたのに…何もお咎めなしなのですか?それではとてもリティシア様の苦労が報われないではありませんか…!」
「…あのね、イサベル。悪いのはあの侍女でしょ。イサベルは何も悪くないんだからお咎めなし。当たり前よ。貴女はただ真面目に働いてただけ。そうね、どうしても罰を与えるとしたら…とりあえず休憩しなさい。そんなに泣いてたら何もできやしないわ。今日は部屋でゆっくり休むことね。」
「お嬢様、それ以上は…」
ルナが困惑したように私に声をかけてくるので、イサベルに視線を向けると、彼女の瞳から大粒の涙が溢れていた。
よ、よく泣くわねこの子。なんで?そんなに怖いかな私って…。
「リティシア様ぁ…私、ずっとお仕えしたいです。リティシア様のお側に永遠にいさせて下さい…」
「それは嬉しいけど将来のことはちゃんと考えなさい。今はまだいなくても、いつか貴女の大好きな人が現れるかもしれないんだから」
「今います、リティシア様が私の大好きな人です…」
「そういうことじゃなくてね…」
泣きじゃくりながら愛の告白をするイサベルに私は呆れるしかない。嬉しいけどそういうことじゃないんだってば。
ちょっと原作小説の作者さん?
主人公イサベルが悪役令嬢リティシアに告白するって一体どういう状況なのよ!
イサベルとアレクシスは永遠の恋人なんじゃないの?あの二人は生涯お互いしか見ないし愛さないって言ってたじゃない。
それにしては同性とはいえあまりにも簡単に告白したわよこの子!
どうしよう、原作とズレすぎてどう修正すればいいか分からない…。今のところ一番原作通りなのはアルターニャ王女くらいなものよ…。
こんなんで本当にアレクを幸せにできるの…?
もう私が二人を脅迫して結婚させるとかしか方法が浮かばないんだけど…。イサベルはともかく王子を脅迫は普通にまずいわね。というか受け入れてくれなさそうだし…。
あぁ…なんとか正攻法を見つけなきゃなぁ…。
私は一人深いため息をつく。
今回のことで得られたことはたった一つ。
イサベルの愛だ。
…それを!アレクに向けて頂戴!私が欲しいわけじゃないのよ…!
2
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる