悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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準備

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ルナの話によれば、毎年毎年派手に誕生日パーティーが開かれていたらしい。


 その日は正しくリティシアが王様であり、普段よりも我儘を言ったり訳もなく暴れたりして使用人達をよく困らせていたようだ。


 本当は皆来たくないから風邪とかを理由に欠席したがったのだが、公爵令嬢の誕生日パーティーに招待されると合法的に公爵にも会えるし、リティシアに気に入られれば時期公爵の座を狙える。ということで意外と人が集まっていたらしい。


 まぁ誕生日パーティーではなくティーパーティだった場合は悲惨すぎる結末を知っているから皆来ないらしいが。


 あまりにも断ると公爵に嫌われるから仕方なくお祝いに来るんでしょうね。


 なんて可哀想なの…。


 私が過去にリティシアに散々遊ばれたであろう人々を想像して勝手に同情していると、ルナが「ではお嬢様、特に要望がないのであれば去年と同じように準備致しますがよろしいですか?」と助け舟を出してくれる。


 私は即座に「それでお願い」と返事をする。正直自分でパーティの準備をしろと言われても何をすればいいか分からないからね…。


「分かりました。基本は去年と同じに致しますが、ドレスくらいはご自分で選ばれて下さいね。いいですか、くれぐれも地味なドレスを選ばないように。最近のお嬢様は派手すぎるドレスを避けていらっしゃるように思えますが、今回ばかりは我慢して下さいね。あぁ、そうそう。一度公の場で着たドレスではいけませんよ。」


「ドレスね…」


 私は少し悩んだが、派手すぎるドレスは正直着たくない。


 何故かというと、派手すぎるドレスは基本的にウエストがきつく作られていて、更に裾が長すぎてバランスを崩しやすいものが多いからだ。


 実際にコケたこともあるから私はなるべく着やすいドレスを選んで着ていたのに…大事なパーティに限ってそういうのを着なきゃいけないなんて困るわ。


「あぁそうだ、リティシア様、殿下から頂いたドレスはいかがですか?」


 ふと、イサベルが軽く手を叩いて声を発した。イサベル、貴女もそれを知っているのね…。新情報を耳にしたアーグレンは驚いて目を見開いた。


「殿下が公女様にドレスをプレゼントしたんですか?」


「はい。それはそれはとてつもない量のドレスでしたよ。本当に殿下はリティシア様を大切に想っていらっしゃ…」


「イサベル、いい考えだわ。アレクシスから貰ったドレスならそんなに派手じゃないしそれに買ってもらったばかりだから使い回しでもない。最高の考えだわ」


「え、えぇ、そう…ですね」


 イサベルは私に言葉を遮られ、そういうことじゃないのに…と言わんばかりの表情を見せる。悪いわねイサベル。


 正直貴女にはあんまりそういうことを言われたくないのよ…。


 私達の話を聞いていたルナは「殿下から頂いたドレスでも構いませんが」と言葉を続ける。


「お嬢様、そんなに派手じゃないドレスなら少し飾り付けをしなければなりません。最低でも宝石を五つはつけて頂きますよ」


「えぇ…」


 公爵令嬢めんどくさい…そんなにキラキラしなきゃ駄目なの?悪役令嬢なんてイサベルがパーティに参加する時点で絶対に目立たないのに…。


 …ちょっと待って、そうか、誕生日パーティーにはイサベルも参加する。綺麗に着飾ったイサベルにアレクが惚れる。そして二人はそのまま恋に落ちる…。完璧な作戦じゃない?


 これしかないわ。そうか、私の誕生日パーティーはその為にあったのね。


「分かったわ。必ず成功させるわよ!私の誕生日パーティー!」


「成功以外は許されませんよ。他の誰でもないお嬢様のお誕生日なのですから」


「リティシア様!宝石の飾り付けならお任せ下さい。なんてったって私はリティシア様の侍女ですから!」


 ドヤ顔で呟くルナの横でイサベルが決意に溢れた表情でそんな言葉を口にする。原作と状況は違えどまさかこの子に宝石をドレスに縫い付けてもらうことになるなんてね…。


 でもまぁ今回は完全にこの子の好意だし、問題はないわよね。


「分かった。貴女にお願いするわね、イサベル」


「ありがとうございます!必ずリティシア様を引き立てるドレスを作ってみせます!」


「ふふ、ありがとう。ところで…誕生日パーティーって誕生日当日に開くんだったかしら?」


 不自然極まりない聞き方になってしまったが、ルナはすぐに頷いてくれる。


「はい。ですので今から数えると…丁度三週間後くらいですかね。」


「三週間後って意外とあっという間ですね」


 イサベルが唇に軽く指を当てて呟くと、ルナが大きく頷いた。


「本来なら一ヶ月前程から準備をするのですがお嬢様が全くそのお話をなされないので何かお考えがおありなのではと思っていましたが…まさか忘れているなんて思いもしませんでした。」


「忘れてないわよ。ただ記憶から飛んでただけ」


「お嬢様。それはもう分かりましたから今すぐ呼び戻して下さいね」


「はい…」


 はぁ…どっちが雇い主なのか分からないわねこれじゃ…。
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