悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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誕生日パーティ編 その11

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︎ ︎ ︎ ︎ ︎その予想外の言葉に私は言葉に詰まってしまう。私はリティシアとしてこの世に生を受けたわけじゃない。ただの別人なのだから、この言葉は当然私に向けられたものではない。


 分かっているのに……その言葉が頭を反響する。この物語にいてはいけない……私という異質な存在を認めてくれたかのように感じられた。


 ……アレク、貴方はやっぱり残酷で……とても優しい人ね。


 私がその言葉を否定するべく口を開いたその瞬間、部屋とバルコニーを繋ぐ扉の向こう側から声が聞こえてきた。


「あっ、リティシア様!」


 半透明になっていた扉から見える私のシルエットで察したらしい彼女は、扉をゆっくりと開く。


「申し訳ございません、お一人でいたいと仰っていたのに、リティシア様が心配で探しに来てしまいました……」


 イサベルはそう申し訳なさそうに呟くと私に頭を下げた。


「いや、それはいいんだけど……よくここが分かったわね。私ってそんなに分かりやすいの?」


「いえ執事さんにお聞きし……あれ、殿下!?会場ではなくこちらにいらっしゃったんですね!?申し訳ございません、お邪魔をしてしまったようで…」


 今更アレクシスの存在に気づくとイサベルは口に手を当てて驚く様子を見せる。その姿すら相変わらず可愛らしい。


「そんなことないわ。それより、わざわざ探しに来てくれたのね。」


「はい。申し訳ございません……」


「……公女様、私も共犯ですので彼女だけでなく私も叱って下さい」


 案の定アーグレンも着いてきており、申し訳なさそうに彼女の側を立っていた。私は呆れつつも彼女達が心配してくれたことは純粋に嬉しいので特に何も咎めないことにする。


 きっと二人共パーティに馴染めなかったんでしょうね……。


「……まぁ貴女達なら探しに来るかもとは思っていたわ。心配してくれてありがとうね。それじゃぁ、貴方達二人共こっちへいらっしゃい。アーグレンも着いてきて」


「はい……畏まりました」


「リティシア、どこに行くんだ?」


「着いてくれば分かるわよ。」


 イサベルは私の隣を歩き、アレクシスとアーグレンは少し離れた後ろを歩く。私は彼らがわざと距離を取っていることに勘づいた。何か親友二人で話そうとしてるわね。


「……今まで何してたんだ?アレク」


「実はこういう事情があって……」


「なるほど、それは大変だったな。でも公女様は何も知らずにずっとお前を待ってたんだから……ちゃんと謝れよ?」


「あぁ……分かってる。さっき謝ったよ」


「それなら良かったけど……許してくれたのか?」


 それはどう考えてもアーグレンがアレクシスに問いかけたものだったのだが、何故だか私に対して問われているような気がしてしまった。


 私は彼を許しているのだろうか。


 いやそもそも怒っていたの?さっきは腹が立ったとは言ったけど何も本気で怒ってたわけじゃないし……アレクのことだから何か事情があるんだろうって信じてたもの。


「リティシア様、どうかあまり殿下を責めないで下さいね。殿下にも何か事情がおありでしょうから」


 イサベルが耳打ちでそう囁いてくるが、一体彼女達の中で私はどれだけ怖い女だと思われているのだろうか。まぁそう見えるように仕向けたのは私だから自業自得だけどね……。


「さぁ着いたわ。私の部屋よ」


 全ての始まりはこの部屋だった。ならば……全ての終わりもこの部屋だ。私はこの部屋で決着をつける。この長い長い物語に終止符を打つのだ。


「アーグレン。」


「……はい」


「貴方にお願いがあるんだけどいい?」


「はい、もちろんです。何でしょうか。」


「私がこれからすることに文句は言わないでね」


「……畏まりました。公女様の仰せのままに」


 ドレスを着たイサベルを見てもノーコメントならもうこうするしかないわ。


 アーグレンが微妙な表情でこちらを見つめていたが、それに気づかないふりをして、三人に座るよう指示をする。


 私はベッドに腰掛け、三人はそれぞれソファへと座った。とりあえず私に従うのが正しいと思ったようだ。


 三人の視線が一気に私に集中するのを感じ、少し緊張してしまう。こんなに主要人物達に見つめられる瞬間なんて他にないからね。


 私は一旦目を瞑ると、すぐに目を開き、早速本題に入った。


「さぁ、アレクシス殿下。話し合いましょう。私達の関係について」


 アーグレンとイサベルは驚いて目を見開き、アレクシスはあからさまに俯いた。私はそんな彼を眺めると、できる限り冷酷に呟く。


「あらアレクシス。貴方はもう分かっていたはずよ。私がどうしたいかくらい……とっくのとうに気づいていたでしょう」


「……あぁ」


 アレクシスは沈黙の末にそう呟く。その声は、酷く沈んでいるように思えた。イサベルとアーグレンは二人共私とアレクシスを交互に見てどうするべきかと悩んでいた。


 どうするも何も貴方達は行く末を見守っているだけでいいのよ。


「あの時言ったわよね。婚約はただの約束に過ぎない、時が来ればなかったことにしたいって。」


「……あぁそう言ってたな」


「その時が来たのよ。私は貴方と婚約破棄がしたいの」


「……公女様、それは一体何故……」


「アーグレン?文句は言わない約束だったわよね。忘れたの?」


「……申し訳ございません」


 彼ははっとしたような表情をするとなんとも複雑な表情を浮かべる。


 どうせアーグレンが邪魔をしてくると思っていたから先に手を打っておいたのよ。彼には申し訳ないけどね。
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