185 / 209
誕生日パーティ編 その11
しおりを挟む
︎ ︎ ︎ ︎ ︎その予想外の言葉に私は言葉に詰まってしまう。私はリティシアとしてこの世に生を受けたわけじゃない。ただの別人なのだから、この言葉は当然私に向けられたものではない。
分かっているのに……その言葉が頭を反響する。この物語にいてはいけない……私という異質な存在を認めてくれたかのように感じられた。
……アレク、貴方はやっぱり残酷で……とても優しい人ね。
私がその言葉を否定するべく口を開いたその瞬間、部屋とバルコニーを繋ぐ扉の向こう側から声が聞こえてきた。
「あっ、リティシア様!」
半透明になっていた扉から見える私のシルエットで察したらしい彼女は、扉をゆっくりと開く。
「申し訳ございません、お一人でいたいと仰っていたのに、リティシア様が心配で探しに来てしまいました……」
イサベルはそう申し訳なさそうに呟くと私に頭を下げた。
「いや、それはいいんだけど……よくここが分かったわね。私ってそんなに分かりやすいの?」
「いえ執事さんにお聞きし……あれ、殿下!?会場ではなくこちらにいらっしゃったんですね!?申し訳ございません、お邪魔をしてしまったようで…」
今更アレクシスの存在に気づくとイサベルは口に手を当てて驚く様子を見せる。その姿すら相変わらず可愛らしい。
「そんなことないわ。それより、わざわざ探しに来てくれたのね。」
「はい。申し訳ございません……」
「……公女様、私も共犯ですので彼女だけでなく私も叱って下さい」
案の定アーグレンも着いてきており、申し訳なさそうに彼女の側を立っていた。私は呆れつつも彼女達が心配してくれたことは純粋に嬉しいので特に何も咎めないことにする。
きっと二人共パーティに馴染めなかったんでしょうね……。
「……まぁ貴女達なら探しに来るかもとは思っていたわ。心配してくれてありがとうね。それじゃぁ、貴方達二人共こっちへいらっしゃい。アーグレンも着いてきて」
「はい……畏まりました」
「リティシア、どこに行くんだ?」
「着いてくれば分かるわよ。」
イサベルは私の隣を歩き、アレクシスとアーグレンは少し離れた後ろを歩く。私は彼らがわざと距離を取っていることに勘づいた。何か親友二人で話そうとしてるわね。
「……今まで何してたんだ?アレク」
「実はこういう事情があって……」
「なるほど、それは大変だったな。でも公女様は何も知らずにずっとお前を待ってたんだから……ちゃんと謝れよ?」
「あぁ……分かってる。さっき謝ったよ」
「それなら良かったけど……許してくれたのか?」
それはどう考えてもアーグレンがアレクシスに問いかけたものだったのだが、何故だか私に対して問われているような気がしてしまった。
私は彼を許しているのだろうか。
いやそもそも怒っていたの?さっきは腹が立ったとは言ったけど何も本気で怒ってたわけじゃないし……アレクのことだから何か事情があるんだろうって信じてたもの。
「リティシア様、どうかあまり殿下を責めないで下さいね。殿下にも何か事情がおありでしょうから」
イサベルが耳打ちでそう囁いてくるが、一体彼女達の中で私はどれだけ怖い女だと思われているのだろうか。まぁそう見えるように仕向けたのは私だから自業自得だけどね……。
「さぁ着いたわ。私の部屋よ」
全ての始まりはこの部屋だった。ならば……全ての終わりもこの部屋だ。私はこの部屋で決着をつける。この長い長い物語に終止符を打つのだ。
「アーグレン。」
「……はい」
「貴方にお願いがあるんだけどいい?」
「はい、もちろんです。何でしょうか。」
「私がこれからすることに文句は言わないでね」
「……畏まりました。公女様の仰せのままに」
ドレスを着たイサベルを見てもノーコメントならもうこうするしかないわ。
アーグレンが微妙な表情でこちらを見つめていたが、それに気づかないふりをして、三人に座るよう指示をする。
私はベッドに腰掛け、三人はそれぞれソファへと座った。とりあえず私に従うのが正しいと思ったようだ。
三人の視線が一気に私に集中するのを感じ、少し緊張してしまう。こんなに主要人物達に見つめられる瞬間なんて他にないからね。
私は一旦目を瞑ると、すぐに目を開き、早速本題に入った。
「さぁ、アレクシス殿下。話し合いましょう。私達の関係について」
アーグレンとイサベルは驚いて目を見開き、アレクシスはあからさまに俯いた。私はそんな彼を眺めると、できる限り冷酷に呟く。
「あらアレクシス。貴方はもう分かっていたはずよ。私がどうしたいかくらい……とっくのとうに気づいていたでしょう」
「……あぁ」
アレクシスは沈黙の末にそう呟く。その声は、酷く沈んでいるように思えた。イサベルとアーグレンは二人共私とアレクシスを交互に見てどうするべきかと悩んでいた。
どうするも何も貴方達は行く末を見守っているだけでいいのよ。
「あの時言ったわよね。婚約はただの約束に過ぎない、時が来ればなかったことにしたいって。」
「……あぁそう言ってたな」
「その時が来たのよ。私は貴方と婚約破棄がしたいの」
「……公女様、それは一体何故……」
「アーグレン?文句は言わない約束だったわよね。忘れたの?」
「……申し訳ございません」
彼ははっとしたような表情をするとなんとも複雑な表情を浮かべる。
どうせアーグレンが邪魔をしてくると思っていたから先に手を打っておいたのよ。彼には申し訳ないけどね。
分かっているのに……その言葉が頭を反響する。この物語にいてはいけない……私という異質な存在を認めてくれたかのように感じられた。
……アレク、貴方はやっぱり残酷で……とても優しい人ね。
私がその言葉を否定するべく口を開いたその瞬間、部屋とバルコニーを繋ぐ扉の向こう側から声が聞こえてきた。
「あっ、リティシア様!」
半透明になっていた扉から見える私のシルエットで察したらしい彼女は、扉をゆっくりと開く。
「申し訳ございません、お一人でいたいと仰っていたのに、リティシア様が心配で探しに来てしまいました……」
イサベルはそう申し訳なさそうに呟くと私に頭を下げた。
「いや、それはいいんだけど……よくここが分かったわね。私ってそんなに分かりやすいの?」
「いえ執事さんにお聞きし……あれ、殿下!?会場ではなくこちらにいらっしゃったんですね!?申し訳ございません、お邪魔をしてしまったようで…」
今更アレクシスの存在に気づくとイサベルは口に手を当てて驚く様子を見せる。その姿すら相変わらず可愛らしい。
「そんなことないわ。それより、わざわざ探しに来てくれたのね。」
「はい。申し訳ございません……」
「……公女様、私も共犯ですので彼女だけでなく私も叱って下さい」
案の定アーグレンも着いてきており、申し訳なさそうに彼女の側を立っていた。私は呆れつつも彼女達が心配してくれたことは純粋に嬉しいので特に何も咎めないことにする。
きっと二人共パーティに馴染めなかったんでしょうね……。
「……まぁ貴女達なら探しに来るかもとは思っていたわ。心配してくれてありがとうね。それじゃぁ、貴方達二人共こっちへいらっしゃい。アーグレンも着いてきて」
「はい……畏まりました」
「リティシア、どこに行くんだ?」
「着いてくれば分かるわよ。」
イサベルは私の隣を歩き、アレクシスとアーグレンは少し離れた後ろを歩く。私は彼らがわざと距離を取っていることに勘づいた。何か親友二人で話そうとしてるわね。
「……今まで何してたんだ?アレク」
「実はこういう事情があって……」
「なるほど、それは大変だったな。でも公女様は何も知らずにずっとお前を待ってたんだから……ちゃんと謝れよ?」
「あぁ……分かってる。さっき謝ったよ」
「それなら良かったけど……許してくれたのか?」
それはどう考えてもアーグレンがアレクシスに問いかけたものだったのだが、何故だか私に対して問われているような気がしてしまった。
私は彼を許しているのだろうか。
いやそもそも怒っていたの?さっきは腹が立ったとは言ったけど何も本気で怒ってたわけじゃないし……アレクのことだから何か事情があるんだろうって信じてたもの。
「リティシア様、どうかあまり殿下を責めないで下さいね。殿下にも何か事情がおありでしょうから」
イサベルが耳打ちでそう囁いてくるが、一体彼女達の中で私はどれだけ怖い女だと思われているのだろうか。まぁそう見えるように仕向けたのは私だから自業自得だけどね……。
「さぁ着いたわ。私の部屋よ」
全ての始まりはこの部屋だった。ならば……全ての終わりもこの部屋だ。私はこの部屋で決着をつける。この長い長い物語に終止符を打つのだ。
「アーグレン。」
「……はい」
「貴方にお願いがあるんだけどいい?」
「はい、もちろんです。何でしょうか。」
「私がこれからすることに文句は言わないでね」
「……畏まりました。公女様の仰せのままに」
ドレスを着たイサベルを見てもノーコメントならもうこうするしかないわ。
アーグレンが微妙な表情でこちらを見つめていたが、それに気づかないふりをして、三人に座るよう指示をする。
私はベッドに腰掛け、三人はそれぞれソファへと座った。とりあえず私に従うのが正しいと思ったようだ。
三人の視線が一気に私に集中するのを感じ、少し緊張してしまう。こんなに主要人物達に見つめられる瞬間なんて他にないからね。
私は一旦目を瞑ると、すぐに目を開き、早速本題に入った。
「さぁ、アレクシス殿下。話し合いましょう。私達の関係について」
アーグレンとイサベルは驚いて目を見開き、アレクシスはあからさまに俯いた。私はそんな彼を眺めると、できる限り冷酷に呟く。
「あらアレクシス。貴方はもう分かっていたはずよ。私がどうしたいかくらい……とっくのとうに気づいていたでしょう」
「……あぁ」
アレクシスは沈黙の末にそう呟く。その声は、酷く沈んでいるように思えた。イサベルとアーグレンは二人共私とアレクシスを交互に見てどうするべきかと悩んでいた。
どうするも何も貴方達は行く末を見守っているだけでいいのよ。
「あの時言ったわよね。婚約はただの約束に過ぎない、時が来ればなかったことにしたいって。」
「……あぁそう言ってたな」
「その時が来たのよ。私は貴方と婚約破棄がしたいの」
「……公女様、それは一体何故……」
「アーグレン?文句は言わない約束だったわよね。忘れたの?」
「……申し訳ございません」
彼ははっとしたような表情をするとなんとも複雑な表情を浮かべる。
どうせアーグレンが邪魔をしてくると思っていたから先に手を打っておいたのよ。彼には申し訳ないけどね。
1
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる