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星巡り
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耳をすませば、話し声が聞こえる。一日中星がキラキラしていることと、それを鏡のように映す床以外は、普通の人間の世界となんら変わらない。公園もデパートも映画館もある。そんな宇宙空間。
今日は特別賑わっていた。いつもはもっと静かで、風も吹かないこの宇宙空間だ。もちろん四季なんて感じられない。七月だけど、ぶかぶかの長袖パーカーを着ても暑くはない。
星の見た目は様々だ。辺りを見渡すと、人の姿をしているものもいれば、動物の姿をしているものもいる。
もちろん、夜空を照らす仕事中はキラキラと輝く石になり、どれも同じような見た目になるのだが。
しかし私は周りの星のように浮かれた気分ではなかった。
大きくため息をついて、目の前にいる襟付きのシャツに薄手のパーカーを羽織った人型の星に尋ねた。
「ねぇ、年に一回しか会えないのに毎回なんで遅刻するかな。」
呆れた目でソラを睨みつける。
「ごめん、どうにも今年は天の川の星の量多くて……。そうそう、星の渋滞だよ。それで川を渡る船が難航しちゃって……。でも今年は催涙雨降らなかったし? あ、ほら、流れ星もよく見えたし……。」
ソラは分かりやすく眼を泳がせて、視線を逸らすように満天の星が輝く夜空を指差す。その先にきらりと一直線を描くのが見えた。確かに今日はよく流れ星が見える。
しかし、
「あんた流れ星が何を意味するか分かってんの。あとそれ関係ないし。」
毎年こうだ。謝ってから言い訳をするんじゃなくて、言い訳をしてから謝ってくれた方が幾分か許せる。そして、遅刻の理由が理由だ。
去年は蟹座の親子が天の川を渡るのを手伝ったり、迷子になった星を探したり、いつも何かしらのトラブルに遭う。しかし、放って置けないのがソラだ。流れ星を綺麗だというのも「いや、でも、だって。」を使って言い訳をするのもソラだ。素直に話してから謝れば理由も理解できるし、不機嫌にだってなりはしない。わざわざ言い訳をすることが逆にむずむずする。私があまり感情を面に出さないからだろうか。もし相手に気を遣わせているならそれは申し訳ないけど。
ソラは誰にでも優しい。素敵だとは思うけど、なんだかもやもやする。嫌いだからだろう。
「でもほら、これプレゼント。一角獣座の星のかけらをネックレスにしてみたんだ。セイナに似合うと思って。」
昔話を思い出していると、ネックレスを手渡しされた。それは普段着の水色のパーカーに合う色ではなかったけれど、赤い石の中に小さく青白く光る星はただ純粋に綺麗だった。
微妙な顔をしているように見えたのだろうか、
「あー、えっと、やっぱ慣れないことはするもんじゃないかぁ。」
わかりやすく頭をかく。
不器用なりに私のことを想ってくれる、ソラのこういうところは、まあ嫌いじゃない。
「……ありがと。」
その場で着けず、礼を言ってパーカーのポケットにネックレスを握る手を突っ込む。石の表面はツルツルとしていて、悔しいことにずっと触っていたいくらい気持ちよかった。
顔を上げるとソラはニコニコと満足したような表情をしていた。その場でつけないことに、少しばかり意地悪をしたつもりだったのに。
「じゃあ私も。」
年に一度のプレゼント。私の場合は、ほぼ儀式的に行なっている。
「ありがとう! 綺麗だ……。」
私が渡したプレゼントを早速指にはめている。ソラの目はこの宇宙空間のどの星よりもキラキラと輝いていた。
「なんだか婚約指輪みたいだな!」
「よくそんな恥ずかしいことが言えるよ。」
思わず目を逸らした。上がりそうな口角を無理矢理下げる。きっとぎこちない顔をしているんだろうな。とてもじゃないけどもう一度ソラの顔を見ることはできなかった。
この世界で私たちが年に一度しか会うことが許されないのは、先代が犯した罪によるもの。
七夕伝説。恋愛にかまけて仕事をしなくなった彼らが悪いのに、どうして私たちの代まで……。いくつかの星は常に夜空で輝いていたり、目印になったり、常に出会っておしゃべりをしている。まあ私たちはその相手にこそ出会えないが、他の星との交流がないわけではない。そこそこ楽しいと思う。
……私はこの性格ゆえ、孤立気味だったのだが。
他の星は仕事が終われば各々好きな姿で過ごしているが、私たちを含む『先代の罪を背負った星』が人間になれるのは、この日だけだ。いつもは夜空で小さく輝いている。それぞれに名前もあってなぜか恋人のような人もいる。ような、とぼかすのには訳がある。どこかの帝だか神様だかが決めた相手であるため、必ずしも好きになれるとは限らないからだ。
だからいつもこの日にイチャイチャしている星同士を見ると気の毒だなと感じる。彼らはもっと一緒にいたいだろうに。
私は幸いなことに、このお人好しセンス皆無の優柔不断星がそこまで好きではなかった。
そのため年に一度しか会えないことに不満どころか、逆にいい距離感で付き合ってきた。まあ毎度の遅刻はいい加減にして欲しいものだが。
今日は適当に宇宙空間をぶらぶらして、ショッピングモールのクレープを食べた。
好きではないけど、ソラといるのはそこそこ楽しい。なぜだろう。話が特別に盛り上がるわけでもないのだが。
一通りショッピングモール内を散策したあと、外にあるベンチに二人で腰掛けた。
ここは静かで、人通りもほぼない。
「しかし、セイナにもかわいいところあるんだな。」
ソラが頭の後ろに手を組みながら言う。
「何急に。」
「クレープ食べたいとかさ、女の子らしくってかわいいなーって。」
「別にいいでしょ。何がかわいいの。」
ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
しばらくすると頭が温かくなった。……手が乗せられてるの? 予想外のことに脳の処理が追いつかない。え、今頭撫でられてるの。
初めてじゃないはずなのに、いつもの皮肉や意地悪で返すこともできず、おとなしくなってしまう。俯く顔はきっと赤いのだろう。
「女の子らしいところも、そうやってわかりやすく照れるところも。」
すぐに反論できなかった。こいつのこういうところ本当に嫌い。
「……るっさいな。別に照れてないし可愛くないし。」
側から見たら仲のいいカップルに見えるのだろうか。なんとも恥ずかしい気持ちになりながらも、受け入れている自分がいた。
この時間が永遠のように続くかと思われたが、空が白み出した。そろそろ夜が明けてしまう。
私は深呼吸をして話し始めた。
「あのね。話さなきゃいけないことがあって。」
頭を撫でる手が止まり、離れた。ソラの顔を見ると、口を漢数字の一のように真横に結び、軽く眉間に皺を寄せ、息を呑んでいた。
「寿命がきた。」
淡々と、いつも通りに、「電車が来た。」のように話す。
目を見開いたソラは瞬きもせず話す。
「え……じゃあセイナは。」
「うん、来年消える。」
星にも寿命がある。最期は、身体が全て光の粒子になった後に、流れ星となって消える。正確な日数はわからないけど、私は来年のこの日までいられるかどうかわからない。勘がそう伝えるのだが、きっと間違いではないのだろう。
風も吹かない、ただ星がキラキラと輝く宇宙空間で数秒の時が流れた。
* * *
催涙雨。今年は雨だ。星が見えないように、私たちも会えない。せっかくこの日までこの身体が持ったのに。
さようならソラ。嫌いだったけど、あなたに出会えてよかったよ。幾千もの時を経て、あなたを知ることができた。遅刻した時の言い訳でさえ、今は愛おしく感じる。
「最後なのにな。」
不意にポツリとつぶやいた言葉は震えていた。やだな、かなしいの? 好きじゃないはずなのに。
私は独りで消えてゆく。最後まで。
最後くらい、
「会いたいな。」
感傷的になっている今の自分を、誰かに笑い飛ばして欲しかった。
年に一度のこの日に降る雨、理不尽だけど、どうしようもないけど、何百回も経験してきたけど、でもやっぱり。
胸元につけたネックレスをぎゅっと握る。そんなことをしたところでどうしようもないし、ソラに会えるわけでもないことはわかってる。それでも、消える最後まで、彼を感じていたかった。
こんなに好きだったんだ。
原型をとどめられなくなった指先がキラキラと光の粒子になっていく。
「——星ってさ、いつか消えてなくなるらしいんだけど、またどこかで生まれるんだって。生まれ変わっても同じ見た目なのかな。そもそも星に生まれ変わりの概念があるのか……?
まあ、俺は絶対生まれ変わったセイナ見つけ出すからな!」
「何それ私が先に消えるの前提じゃん。」
ソラはしまったと罰の悪そうな顔をした。そして、
「……絶対見つけるから。」
一呼吸置いて、ソラは見つめ直し、言った。私は思わず目を逸らした。何、急に。恥ずかしい。
——いつかの記憶。なぜこんなやり取りを思い出したのだろう。走馬灯?
もっとちゃんと話せばよかったな。何千年もあったのに。
ソラと過ごした日々を思い出す。年に一度、この宇宙空間でさまざまなことをした。天の川の下流で遊んだ時に拾った星屑も、まだ大切に持っている。
大切に? なんでだろう。ああ、やっぱり好きなんだ。
「セイナ!!!」
名前を呼ばれた気がするけど、違うよね。だって今日は催涙雨が降ってるから——
荒い呼吸音。じわりと汗の匂いがした。厚手のパーカーを着てても背中が温かかった。後ろから回された腕は、私の身体を優しくも力強く包み込む。
「……なんできたの。」
耐えた。いつも通りのテンションで。泣くもんか。
「ごめん。どうしても会いたかった。抱きしめたかった。」
「最期まで、遅刻するんだね。」
「ごめん、雨だったからどうにも……。あと、これは間に合ったにカウントされないのか。」
ははっと笑うソラ。顔は見えないけれど、きっと遅刻を言い訳する時のこまり眉なんだろうな。
首筋を伝う雫が雨なのか汗なのか涙なのかは、ソラが鼻を啜る音でやっと判別できた。
……私より先に泣くな。
「……じゃあね。まあ、付き合えて悪くなかったよ。」
心底ひねくれて素直になれない自分が嫌いだ。好きのひと言くらい言葉にすればいいのに。
「好きだ。大好きだ。」
さらに強く抱きしめられた。私から抱きしめられないのが不服だった。ソラの腕を両手でぎゅっと掴むことしかできない。一方的なのはやっぱりずるいと思う。
「私も好きだよ。」
ポツリとこぼした本音。ああ、言えた。
「——流れ星は、悲哀。最期の輝きなんて、星の死を意味するもの。哀しい光を綺麗だなんて言えない。消えたらそこで終わりじゃない。」
「流れ星は、希望だよ。また会うための。
星にとって最期の輝き。俺は純粋にその光は綺麗だと思うよ。」
こんなやりとりを思い出した。そうだった、ソラはそういう星だった。
「……絶対見つけてね。」
「ああ、約束する。」
この会話が最後だった。
どうだろう、私の最期は、綺麗だったかな。
今日もどこかで星は巡り雲散する。
またいつか出会うための希望をのせて。
今日は特別賑わっていた。いつもはもっと静かで、風も吹かないこの宇宙空間だ。もちろん四季なんて感じられない。七月だけど、ぶかぶかの長袖パーカーを着ても暑くはない。
星の見た目は様々だ。辺りを見渡すと、人の姿をしているものもいれば、動物の姿をしているものもいる。
もちろん、夜空を照らす仕事中はキラキラと輝く石になり、どれも同じような見た目になるのだが。
しかし私は周りの星のように浮かれた気分ではなかった。
大きくため息をついて、目の前にいる襟付きのシャツに薄手のパーカーを羽織った人型の星に尋ねた。
「ねぇ、年に一回しか会えないのに毎回なんで遅刻するかな。」
呆れた目でソラを睨みつける。
「ごめん、どうにも今年は天の川の星の量多くて……。そうそう、星の渋滞だよ。それで川を渡る船が難航しちゃって……。でも今年は催涙雨降らなかったし? あ、ほら、流れ星もよく見えたし……。」
ソラは分かりやすく眼を泳がせて、視線を逸らすように満天の星が輝く夜空を指差す。その先にきらりと一直線を描くのが見えた。確かに今日はよく流れ星が見える。
しかし、
「あんた流れ星が何を意味するか分かってんの。あとそれ関係ないし。」
毎年こうだ。謝ってから言い訳をするんじゃなくて、言い訳をしてから謝ってくれた方が幾分か許せる。そして、遅刻の理由が理由だ。
去年は蟹座の親子が天の川を渡るのを手伝ったり、迷子になった星を探したり、いつも何かしらのトラブルに遭う。しかし、放って置けないのがソラだ。流れ星を綺麗だというのも「いや、でも、だって。」を使って言い訳をするのもソラだ。素直に話してから謝れば理由も理解できるし、不機嫌にだってなりはしない。わざわざ言い訳をすることが逆にむずむずする。私があまり感情を面に出さないからだろうか。もし相手に気を遣わせているならそれは申し訳ないけど。
ソラは誰にでも優しい。素敵だとは思うけど、なんだかもやもやする。嫌いだからだろう。
「でもほら、これプレゼント。一角獣座の星のかけらをネックレスにしてみたんだ。セイナに似合うと思って。」
昔話を思い出していると、ネックレスを手渡しされた。それは普段着の水色のパーカーに合う色ではなかったけれど、赤い石の中に小さく青白く光る星はただ純粋に綺麗だった。
微妙な顔をしているように見えたのだろうか、
「あー、えっと、やっぱ慣れないことはするもんじゃないかぁ。」
わかりやすく頭をかく。
不器用なりに私のことを想ってくれる、ソラのこういうところは、まあ嫌いじゃない。
「……ありがと。」
その場で着けず、礼を言ってパーカーのポケットにネックレスを握る手を突っ込む。石の表面はツルツルとしていて、悔しいことにずっと触っていたいくらい気持ちよかった。
顔を上げるとソラはニコニコと満足したような表情をしていた。その場でつけないことに、少しばかり意地悪をしたつもりだったのに。
「じゃあ私も。」
年に一度のプレゼント。私の場合は、ほぼ儀式的に行なっている。
「ありがとう! 綺麗だ……。」
私が渡したプレゼントを早速指にはめている。ソラの目はこの宇宙空間のどの星よりもキラキラと輝いていた。
「なんだか婚約指輪みたいだな!」
「よくそんな恥ずかしいことが言えるよ。」
思わず目を逸らした。上がりそうな口角を無理矢理下げる。きっとぎこちない顔をしているんだろうな。とてもじゃないけどもう一度ソラの顔を見ることはできなかった。
この世界で私たちが年に一度しか会うことが許されないのは、先代が犯した罪によるもの。
七夕伝説。恋愛にかまけて仕事をしなくなった彼らが悪いのに、どうして私たちの代まで……。いくつかの星は常に夜空で輝いていたり、目印になったり、常に出会っておしゃべりをしている。まあ私たちはその相手にこそ出会えないが、他の星との交流がないわけではない。そこそこ楽しいと思う。
……私はこの性格ゆえ、孤立気味だったのだが。
他の星は仕事が終われば各々好きな姿で過ごしているが、私たちを含む『先代の罪を背負った星』が人間になれるのは、この日だけだ。いつもは夜空で小さく輝いている。それぞれに名前もあってなぜか恋人のような人もいる。ような、とぼかすのには訳がある。どこかの帝だか神様だかが決めた相手であるため、必ずしも好きになれるとは限らないからだ。
だからいつもこの日にイチャイチャしている星同士を見ると気の毒だなと感じる。彼らはもっと一緒にいたいだろうに。
私は幸いなことに、このお人好しセンス皆無の優柔不断星がそこまで好きではなかった。
そのため年に一度しか会えないことに不満どころか、逆にいい距離感で付き合ってきた。まあ毎度の遅刻はいい加減にして欲しいものだが。
今日は適当に宇宙空間をぶらぶらして、ショッピングモールのクレープを食べた。
好きではないけど、ソラといるのはそこそこ楽しい。なぜだろう。話が特別に盛り上がるわけでもないのだが。
一通りショッピングモール内を散策したあと、外にあるベンチに二人で腰掛けた。
ここは静かで、人通りもほぼない。
「しかし、セイナにもかわいいところあるんだな。」
ソラが頭の後ろに手を組みながら言う。
「何急に。」
「クレープ食べたいとかさ、女の子らしくってかわいいなーって。」
「別にいいでしょ。何がかわいいの。」
ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
しばらくすると頭が温かくなった。……手が乗せられてるの? 予想外のことに脳の処理が追いつかない。え、今頭撫でられてるの。
初めてじゃないはずなのに、いつもの皮肉や意地悪で返すこともできず、おとなしくなってしまう。俯く顔はきっと赤いのだろう。
「女の子らしいところも、そうやってわかりやすく照れるところも。」
すぐに反論できなかった。こいつのこういうところ本当に嫌い。
「……るっさいな。別に照れてないし可愛くないし。」
側から見たら仲のいいカップルに見えるのだろうか。なんとも恥ずかしい気持ちになりながらも、受け入れている自分がいた。
この時間が永遠のように続くかと思われたが、空が白み出した。そろそろ夜が明けてしまう。
私は深呼吸をして話し始めた。
「あのね。話さなきゃいけないことがあって。」
頭を撫でる手が止まり、離れた。ソラの顔を見ると、口を漢数字の一のように真横に結び、軽く眉間に皺を寄せ、息を呑んでいた。
「寿命がきた。」
淡々と、いつも通りに、「電車が来た。」のように話す。
目を見開いたソラは瞬きもせず話す。
「え……じゃあセイナは。」
「うん、来年消える。」
星にも寿命がある。最期は、身体が全て光の粒子になった後に、流れ星となって消える。正確な日数はわからないけど、私は来年のこの日までいられるかどうかわからない。勘がそう伝えるのだが、きっと間違いではないのだろう。
風も吹かない、ただ星がキラキラと輝く宇宙空間で数秒の時が流れた。
* * *
催涙雨。今年は雨だ。星が見えないように、私たちも会えない。せっかくこの日までこの身体が持ったのに。
さようならソラ。嫌いだったけど、あなたに出会えてよかったよ。幾千もの時を経て、あなたを知ることができた。遅刻した時の言い訳でさえ、今は愛おしく感じる。
「最後なのにな。」
不意にポツリとつぶやいた言葉は震えていた。やだな、かなしいの? 好きじゃないはずなのに。
私は独りで消えてゆく。最後まで。
最後くらい、
「会いたいな。」
感傷的になっている今の自分を、誰かに笑い飛ばして欲しかった。
年に一度のこの日に降る雨、理不尽だけど、どうしようもないけど、何百回も経験してきたけど、でもやっぱり。
胸元につけたネックレスをぎゅっと握る。そんなことをしたところでどうしようもないし、ソラに会えるわけでもないことはわかってる。それでも、消える最後まで、彼を感じていたかった。
こんなに好きだったんだ。
原型をとどめられなくなった指先がキラキラと光の粒子になっていく。
「——星ってさ、いつか消えてなくなるらしいんだけど、またどこかで生まれるんだって。生まれ変わっても同じ見た目なのかな。そもそも星に生まれ変わりの概念があるのか……?
まあ、俺は絶対生まれ変わったセイナ見つけ出すからな!」
「何それ私が先に消えるの前提じゃん。」
ソラはしまったと罰の悪そうな顔をした。そして、
「……絶対見つけるから。」
一呼吸置いて、ソラは見つめ直し、言った。私は思わず目を逸らした。何、急に。恥ずかしい。
——いつかの記憶。なぜこんなやり取りを思い出したのだろう。走馬灯?
もっとちゃんと話せばよかったな。何千年もあったのに。
ソラと過ごした日々を思い出す。年に一度、この宇宙空間でさまざまなことをした。天の川の下流で遊んだ時に拾った星屑も、まだ大切に持っている。
大切に? なんでだろう。ああ、やっぱり好きなんだ。
「セイナ!!!」
名前を呼ばれた気がするけど、違うよね。だって今日は催涙雨が降ってるから——
荒い呼吸音。じわりと汗の匂いがした。厚手のパーカーを着てても背中が温かかった。後ろから回された腕は、私の身体を優しくも力強く包み込む。
「……なんできたの。」
耐えた。いつも通りのテンションで。泣くもんか。
「ごめん。どうしても会いたかった。抱きしめたかった。」
「最期まで、遅刻するんだね。」
「ごめん、雨だったからどうにも……。あと、これは間に合ったにカウントされないのか。」
ははっと笑うソラ。顔は見えないけれど、きっと遅刻を言い訳する時のこまり眉なんだろうな。
首筋を伝う雫が雨なのか汗なのか涙なのかは、ソラが鼻を啜る音でやっと判別できた。
……私より先に泣くな。
「……じゃあね。まあ、付き合えて悪くなかったよ。」
心底ひねくれて素直になれない自分が嫌いだ。好きのひと言くらい言葉にすればいいのに。
「好きだ。大好きだ。」
さらに強く抱きしめられた。私から抱きしめられないのが不服だった。ソラの腕を両手でぎゅっと掴むことしかできない。一方的なのはやっぱりずるいと思う。
「私も好きだよ。」
ポツリとこぼした本音。ああ、言えた。
「——流れ星は、悲哀。最期の輝きなんて、星の死を意味するもの。哀しい光を綺麗だなんて言えない。消えたらそこで終わりじゃない。」
「流れ星は、希望だよ。また会うための。
星にとって最期の輝き。俺は純粋にその光は綺麗だと思うよ。」
こんなやりとりを思い出した。そうだった、ソラはそういう星だった。
「……絶対見つけてね。」
「ああ、約束する。」
この会話が最後だった。
どうだろう、私の最期は、綺麗だったかな。
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