上 下
8 / 55
第一章 子供たちの救い編

押し付けられた罪

しおりを挟む
 

 聞かなければよかった。

 トール村の創設者。人間の身でありながら最強を名乗っていた初代村長、その伝説や功績は全世界に響き渡っていると聞いたことがある。なんでも世界に存在する二十の種族の頂点に立った人間だとか。

 その妹?

 単純に考えても何千年も前の人間だ。

 そしてそれだけの偉人の関係者が幽閉されているなんてよほどのことではないかと思われる。それも初代にすら解決できなかったような問題だと思う。

「私たちにかけられた呪いの根本だと言われているわ。彼女にかけられた呪いは私たちよりも遥かに強く、初代様が本気でかけた封印の中にいなければ、すぐにでも世界の全てが戦争になってしまうほどの。元々、そのあたりが原因で初代は名を上げたという話があるぐらいよ。アサヒもそう言ってたわ」

「ふーん」

 本当にぼくは戦争だの、呪いだのと言う話に大きな縁があるようだ。

 生命反応からすると、村で一番大きな建物の地下にその人がいることがわかる。

 その場所を白い子に案内させて、建物にかけられているいくつもの封印を解き、初代の妹に会いに行くことにした。

 ちなみに白い子は封印の解き方なんて知らなかったので、ぼくが力づくで解除していった。

「彼女は戦争が終わった後から何千年もの間、トール村の地下深くに幽閉されているの。もちろん不便にはさせていないわ。……代々の村長は彼女の呪いを解き解放させることを目標としているけど、いまだに叶えられてはいないのよ」

「ふーん」

「これはトール村の罪なのよ。一族の人間は初代の妹であるアサヒが戦争を引き起こし、世界を危機に陥れた罪をずっと背負っているわ。私たちが辺境に住み、自分たちの子供に呪いをかけて魔物を殺して生活している理由は複数あるのだけど、戦争の罪滅ぼしに人類のために魔物を減らしている面もあるって聞いたことがあるわ」

「ふーん」

 世界中のどこに行ってもそんなつまらないことで悩んでいる人間がいるようだ。

 ぼくは政治的な話で色々な国を巡っているが、メテオ国だけではなくどこにでもそんな話が転がっている。

 まあそれだけの大戦争を起こしてしまったのなら、魔物にだって様々な被害を出したに決まっていると思うのだが、どうやら人間と動物では命の価値が違うという考え方をしているということが伺える。

 ぼくに言わせればその違いはわからないのだし、魔物にだって、種の絶滅の危機や戦争への利用などと言う被害があったのではと思うのだが。

「ねえ、あなたはどう思うかしら?」

「うん?」

 突然、白い子に話を振られた。

「私たち、いえ彼女は世界を滅ぼしかけたし、壊滅的な被害を世界に及ぼした。歴代の村長は彼女を処分するべきかということをずっと考えてきたわ。私たちは罪の償い方にずっと苦しんできた。あなたはどうすればいいと思うかしら?」

「別にどうもしないでいいでしょ」

 つまらない質問だ、答える価値がないほどに。

「何で、せっかく生きているのに罪なんてつまらないことで死ななければいけないんだよ。そんなことに何の意味もないことぐらいわからないのか?」

「意味はあるわよ」

「なんで?殺したら死んだ人間が生き返るのか?辛い過去がなかったことになるのか?殺したら気が楽になるのか?断言してやるよ。絶対に有り得ない。そんなものはむしろ加速してしまうだけだ」

 死んでしまえば恨む対象がなくなってしまうだろうしね。

 理由がある殺人犯が、その理由を無くしてしまえばただの無差別殺人犯が生まれるだけだろう。

 一度人を殺した人間は、命をもってその罪を裁かれない限り、必ずまた誰かを殺すだろう。今の世の中は戦乱時代だから、別に厳しい法律もないし。

「それでも、気持ちが楽になる人間はたくさんいると思うわ」

「じゃあ、楽になった人間は次に何を思うのかな?その矛先は元凶の人間一人で満足いくのかな?村の人間全員に殺意はむけないかな?人類全体には向けないかな?世界を恨まないかな?人間の感情は利己的なものだし、欲望には際限はないよ」

 残念ながらそれは、当たり前のことなんだ。
「それでもけじめをつけなければ始まらないと思う人はたくさんいるわ」

「ふーん。まあ、ご自由に。ぼくはぼくの意見を言っただけであって、君たちの味方をしているわけでも敵でもない。ぼくは国王の命令で派遣されただけだからぼくたちの用事が終わったら好きにすればいい。関係がないからな。意味のない自殺をしたいならそうすればいいさ」

 別に誰かに生きていてほしいなんて思ったことはない。死にたいならとっとと死ねばいいのだ。

「人に意見を聞いておいて、具体性もないのに否定ばかりするということはその意見を聞く気がないということだろうさ。でも、まあ少なくても初代の時代の大戦争の原因なんてものを世間は知らない。ぼくは皇子だけど戦争の原因は様々な利権や種族間の争いだって学んだしね。だから、別に恨まれてもいないのに、わざわざ恨まれてまで罪を表に出して裁かれたいなら好きにすればいいと思うよ」

 適当に話を終わらせると目的地に着いたらしい。

 全く、くだらない話だ。
しおりを挟む

処理中です...