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第二章 呪いからの解放編

困った子

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「そうですか。あの、それでアンナはどういう立場なんでしょうか?」

「どうとは?」

「第十皇子の部下になったのではないのですか?」

「いや、ぼくと白い子は何の関係もないよ」

「がーん!」

 白い子が本気でショックを受けた顔をしている。

 だが、ぼくは最初から本人向かって全否定しているのだが。

「白い子は君たちと同じ村出身なんだから、君たちと一緒に戦うんじゃないか?国王が何かを言えば話は別だけど」

「わかりました。ではおれたちの戦力に数えますね」

「待てよ!てめぇも試験に出て来いよ」

 話がまとまりかけたのに、赤子の少年がぼくのことを指さしながらうるさく叫ぶ。

「ぼくが試験に?嫌だよ」

 ぼくは別に何かを試されるような立場でもないし。

「逃げんのか?」

 赤毛の子は、挑発するようにぼくにそう言った。

「まあ、好きに取ればいいさ。一々勝つのが決まっているなんの得もない戦いになんて、何の興味もないからね」

「勝つのが決まっているだと?」

「うん、君たちは弱すぎるからね。ぼくにとっては何の必要もないほどに」

「なんだと!アイテムを使わねえと勝てねえくせに!」

「そうだね。負け惜しみを言いながら殺されるのが君の末路なんだろうさ。簡単に死ねる程度の実力でとても羨ましいよ」

 赤毛の子の話を軽く流してしまうと話を続ける。口では文句を言っても、恐怖心からもう一度攻撃を仕掛けようとはして来ないので楽でいい。

「説明はこんなところかな?それとこの国では戦いは当然として、全ての行動にアイテムの使用は当たり前だから、後になって卑怯だとか言っても意味がないからね。あまりアイテムに詳しくないのなら試験までに勉強しておくといい。図書館へ行く許可ぐらいは国王に頼めば出してくれるんじゃないか?」

「必要ねえよ!」

「そうですね、一応は、その程度で埋まる程度の実力ではないつもりです」

「そう、じゃあぼくは帰るから」

「あの、色々とありがとうございました!」

「「「ありがとう!」」」

 手を振るとぼくは部屋を出ていく。

 だが何故か……。

「何でついてくるの?しかも増えているし。仲間に会えたんだから一緒にいればいいだろう?」

 後をついてくるお嬢さんが二人になっていた。

「私は、クルギスにずっと付いていくって決めているわ」

 白い子はあまりにも堂々とそう言った。もう一人の笑顔の子も少しだけ動揺しながら答える。

「えっと、あたしはアンナちゃんについてきただけで」

「なんで私についてくるの?」

「友達だし、アンナちゃんを一人にするのは不安だからだよ。何をするか分からないんだから」

「私がクルギスの前でお転婆な行動をするわけがないでしょう?」

 つまり、白い子は元々はお転婆なのだろうか。いや、確かにぼくの前では大人しいが。

 確かに発言から行動まで、節々に片鱗はあるのだが。

「トール村を出る時からずっと思っていたんだけど、アンナちゃんは本当に皇子様がお気に入りなんだね」

「ええ、クルギスは本当に凄いわ。とても同じ人間だなんて思えないわよ。一度だけでいいから本気で戦いたいわね。私の実力を知ってもらえれば部下にしてもらえると思うし」

「皇子様ってそんなに強いの?あたしから見ると強さの欠片も感じないよ」

「そうね、ある意味では弱いわ。今の時点では一般人よりも弱いかもしれない」

「つまり、才能があるとか?」

「さあ、私には才能を見抜く力なんてないから。そんなものあってもなくても何もわからないわよ」

「じゃあ、アンナちゃんは何を見たの?」

「ほとんどみんなと同じものしか見てないわ。クルギスは何一つ私に教える気がないみたいだもの。でも、それでいいわ。それだけ見ることができればクルギスがどれだけ凄いかなんて、わかり過ぎるぐらいにわかるもの」

「そうなんだ。あたしにはわからないけど。やっぱり皇子様は凄いのね」

 白い子はぼくのことを過大評価していると言いたいが、確かオルトも似たようなことを言っていた。

 やはりオルトと白い子は、奇跡の子という以上に何か色々と似ているのだろうか。

「先に教えておくけど、他の王子には期待しない方がいいわよ。第一王子には少しぐらいは見所があるけど、私から見ると、……ねって感じだったわ」

「ふーん。そうなんだ。じゃあ、一番すごいのはこの皇子様なんだね」

「そうね。私も全員と会ったわけじゃないんだけど、クルギスを除いて一番優秀だと言われている第一王子があの程度だと考えるとねえ。流石にどうしようもないと思うわ」

 白い子は本当に見る目がある。

 色々と知っているぼくも、基本的に同じ意見だ。

「やっぱり、みんなが言っていたように、外の世界って大したことがないのかなあ?」

「はっきり言ってしまえばそうね。私もクルギス以外に凄いと思ったものは一つもないわ」

「アンナちゃんはトール村の中でも凄いと思ったものはあったの?」

「村の大人たちの強さは凄いと思っていたわ。みんなを皆殺しにした悪魔たちも凄いと思ったわ」

「そうだね。悪魔たちはちょっと有り得なかったよね。私たちが大人になったら勝てるようになるかな?」

「さあ、少なくても私たちの親たちは簡単に殺されたわね」

「そうだね、私たちはお父さんたちよりも強くならなきゃ人類の最強って言えないものね」

「まあ、私だけはもう少し成長すれば確実に倒せるようになると思っているけどね」

「ああ、そうだね。それは私もそう思うよ。アンナちゃんはあたしたちの中で一番強いもんね。圧倒的に」

 そうなのだろうか?

 確かに白い子は強い。だが、人類最強のトール村、その中の最強の子供がこの程度だというのは、色々と納得いかない気がするのだが。

「ええ」

「でもヒイラギくんも強いよね」

「そうね。私がいなければ一番強いのはヒイラギだと思うわ」

「ヒイラギくんだってあたしじゃ、絶対に勝てないぐらい強いもんね。あたしにもいつか殺せるようになるかなあ」

「あれ?あなたはヒイラギを殺したいの?何か恨んでいたっけ?」

「え?別に何もないよ。でもいつか戦うんだったら殺すのは当たり前でしょう?」

「ふーん、じゃあ戦うの?」

「うーん、どうかな?でもあたしよりも強いんだったら、戦わなきゃいけないんでしょ?」

「それは村のルールでしょ?外に出てきたんだから守る必要はないわよ。大人たちだって村の外に行ってたけど、ちゃんと戦ってたか怪しいわよ。適当に遊んでたかもしれないわ」

「そうかな?そうかな」

「話の途中で悪いけど」

 ぼくはそこで口を挟んだ。

 いい加減鬱陶しいが、色々と推察してわかることがある会話だったと思う。

 でももう部屋についたのだ。

「ぼくはもう寝るから、ついてきていいのはここまでだよ」

「わかったわ。ミュウ、私の部屋で一緒に寝ましょう」

「うん」

「それと、明日から入団試験まではちゃんと子供たちと行動するように」

「なんで?」

「きみも入団試験を受けるんだから足並みを合わせるべきだろう」

「私がいなくても王都程度なら誰にも負けることはないわよ?」

「あれ?ぼくの実力に興味があるんじゃなかったの?」

「……私と戦ってくれるの?」

「まあ、嫌だけどねえ。上層部の意向的にはきみたちが全ての敵を倒せば、必然的にぼくの出番が回ってくる可能性は高いだろうね。途中出場は認めないから最初から参加しなければきみには機会が来ないだろうさ」

「わかったわ!本気で鍛えておくから!」

 白い子は笑顔の子を置いて、やる気に満ちたような楽しそうな眼をしながら自分の部屋に帰っていった。

 まあぼくの部屋の右隣なのだが。

 何故、全員が一つの部屋に集められているトール村の子供の一人である白い子に、そこまでの特権が与えられているのかが不思議でたまらないが、調べると不幸になりそうなので放っておく。

 ぼくは左隣の部屋に入ると声をかける。

「オルト。用意してほしいものがある」

「なんですか?」

 色々と注文しておくと、自分の部屋に戻り、しっかりと寝た。

 それから三日は恐ろしいほどに平穏に過ぎた。

 もちろん色々なことがあったが、白いお嬢さんが纏わりつかないだけで心が安らいで仕方がないのであった。
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