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第三章 学院の先生編

的外れだが、それでも優しさ

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「あん?なんだお前、世界最高の魔法使いの弟子か?その割には魔力が全くねえんだな?」

 魔力がない?それは一体どういうことなのだろうか。

 ああ、そういえばルシルが言っていた。

 ぼくの魔力はあまりにも多すぎて、普通の魔法使いには全くないと感じられるらしい。

 なんでも、自分自身に備わっている自分以外の魔力を感じ取る機能が、ぼくの中にある多すぎる魔力に麻痺してしまうらしい。

 そういった魔法使いには、ぼくが一般人と同じように感じるようだと言っていた。

「まあ、魔法使いになる理由も、弟子になる理由も千差万別だからな。てめえにも色々あるってこったな」

 なんか勝手に納得されたようだ。

 ヴィーとはあまりにも反応が違う点からして、どうやらこのお菓子教師とルシルには縁がないらしい。

 まあ、真面目過ぎるルシルが嫌いそうな性格でもある。

「見ろよ。あいつらの魔法の威力は一般魔法で言うと、Fぐらいだ。実際にはオリジナル魔法でも、大したことがないようだぜ」

 そんなことを、教師がはっきりと言ってもいいのだろうか。

 一応は、オリジナル魔法は凄いものだと教えられているのに。

 その幻想は粉々に砕かれそうだ。

「まだ入学したてで、魔法そのものを上手く使えてねえってのもあるが、元々の家系に伝わっている魔法が大したことねえんだな。あれより凄い一般魔法は腐るほどある。それでも一組に入れるんだから世も末だぜ」

 だから、いいのだろうかそんなことを言っても。

 その言葉は間接的に、学年で一番優秀な筈の一組なんて、全然大したことがないと言っているように聞こえるのだが。

「それに比べて、てめえの師匠は凄え。あいつが作るオリジナル魔法はいくつもあるが、全ての魔法が桁外れなんだぜ?どこかしらがな」

「ふーん」

 そんなことを言われても困る。

 ぼくは一番大したことがない魔法ですら、決して使えない男なのだから。

 ぼくに言わせれば、目の前の下らない理由で戦っている二人だって十分に凄いのだ。

 ……まだルシルの凄いところなんてぼくは見たことないし。

「てめえは魔法の才能が全くないみたいだが、だからって弱いとはまだ決まってない。頭や度胸はあるみたいだし、魔法以外で強くなれや」

 ……。

 うーん、多分だが、ぼくは同情されているのだろうか?

 魔法学院に通う身でありながら、魔法を使えない存在は、ここまで親身になってもらえるほどに同情される存在だということか?

 励まし方は、確かに魔法戦闘学の教師だと思うが。

「あー、まあ頑張りますよ」

「ああ、死なねえ程度に頑張れよ」

 そう言って背中を叩かれた。

「痛いんでやめて下さい。ブッ飛ばしますよ?」

「かっかっか。出来ないことを口にするなよ。魔法が使えなくて、それだけヒョロヒョロだ。どうせ殴り合いも弱いんだろう?」

「まあね」

「これでも俺は武芸百般だぜ?やめとけやめとけ」

 この教師は笑いながら、手を振る。

 なんか、あれだな。

 この教師は弱い奴に優しいタイプだろう。

 昔はガキ大将だったのかもしれない。

 いや。仲良くやれそうだ。

「あ?キレてやがるな。この見世物も終わりかよ」

 お菓子教師は残念そうに、意味の分からないことを口にした。

 その視線は、ぼくではなく……。

「やめないか」

 教室を見渡すと、ぼくと同じように最後まで席に座っていた金髪の生徒が突然、立ち上がりそう言った。

「あ?」

「なんだお前は!うるせえんだよ」

「これは勧告だ。従わないなら実力行使をする」

「俺たちの邪魔するならお前も喰らえや!

 決闘をしている二人が、怒りをぶつけるように少年に魔法を放とうとするが、その瞬間、突然膝から崩れ落ちた。

「まったく、弱者とは救いがたい。吠えたいのなら外に出ろ」

 金髪の生徒は、なんか、かっこいいセリフを口にするとまた席に座りなおした。

「やるなあ、そうだ。お前はあいつを参考にしたらどうだ?」

「どういうこと?」

「あいつは今。身体強化だけして、二人を素手で殴り倒したんだ。魔法を使えないお前の目標にはぴったりだろう」

 だから、あんたは知らないんだろうが、もう一度心の中で言ってやる。

 身体強化の魔法がどれだけの魔法かは分からないが、ぼくには絶対に使えないんだってば。

 ぼくは、おそらくはぼくに親身になってくれているお菓子教師に。

 的外れなんだと、心の中で呟いた。

「あいつは、名門貴族。ベイカー家の一人息子で、学院首席らしいぜ」

 なんだ、ぼくとは何の縁もないようだ。

 ……本当に?

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