最恐 百物語

いつき

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第八話目 ワクちゃん”の持ち主

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ワクちゃんの持ち主――音楽教師・山川先生。
生徒たちの間で奇妙な噂が流れていた。

「先生さ……あの人形、昔から持ってるんだって」
「え?結婚してたんじゃないの?」
「ううん、独身だってさ。けど、昔……婚約者がいたんだって」

昔、山川先生には婚約者がいた。
美しく、優しい女性だった。
でも――結婚式の直前、事故で亡くなった。

彼女の遺品が消えたのはその直後。
失くなったのは、“腹話術人形”。
彼女が趣味で集めていた、古い木製人形。

「その人形がワクちゃんだって、聞いたことある……」

先生は音楽室で時々、人形にこう話しかけていた。
「……君はまだ、ここにいるんだろう?」
「……また、君の声が聞きたいよ」

ある日、夜の音楽室。
生徒の一人――タケシが忍び込んだ。
ワクちゃんのことを確かめたかったのだ。

だが――。

「……君かい?」

背後から声がした。
先生……ではなかった。
女の声。細く、かすれている。

「返してよ……返してよ……私の体……」

タケシが振り向くと、
そこにはワクちゃんが――女の顔に変わっていた。

腐った人間の皮膚が張り付いたような……目だけは生きている。
それは、先生の婚約者だった。

「この人形……ほんとは私だったの……あの人が……私を……」

ワクちゃんがカクカクと動く。
手が伸びてくる。

「一緒にいよう……永遠に……」

次の朝。音楽室の机には、タケシそっくりの人形が増えていた。
ワクちゃんと並び、にやりと笑う二体。

そして、その隣には、いつも優しかった山川先生が。
顔を真っ青にして――首を吊っていた。

最後に残ったのは、人形たちの小さなささやき声。

「……次は、だれ?」
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